『表現者criterion』メールマガジン

【藤井聡】『クルマを捨ててこそ地方は甦る』・・・をトヨタで考える。

From 藤井 聡(表現者criterion編集長・京都大学教授) 

この週末に、当方が代表を務めております、
「日本モビリティマネジメント会議」(JCOMM)が
二日にわたって開催されました。
https://www.facebook.com/Prof.Satoshi.FUJII/posts/1431674376933501

この会議は、移動や交通(=モビリティ)の、
「改善」を考える(=マネジメント)、というもの。

今年は、台風の影響もあり、
後半参加者の足も滞りがちとなりましたが、
全国の行政、コンサルタント、
民間NPO,そして学者・学生さん達、
あわせて500名近くに
全国からお集まりいただきました。

さて、この会議のテーマは、一言で言えば、
『クルマを捨ててこそ地方は甦る』、というもの
https://www.amazon.co.jp/dp/456983695X/

つまりそれは、渋滞や環境、
都市のスプロール化などの問題解決のために、
クルマからクルマ以外への手段の転換を促し、
「クルマ利用の抑制」を皆で進めていきましょう!
というものです。

その基本的な考え方は、経済書では古典とも言える
『自動車の社会的費用』(宇沢弘文、1974)
https://peatix.com/event/403772?lang=ja
で論じられてはいましたが、
あれから半世紀近く経過し、
その問題はさらに深刻化しているわけですが・・・

今年は、そんな「クルマ社会の問題を考える議論」を
あえて、世界のクルマ産業のメッカとも言える「豊田市」で、
トヨタさんを交えながら展開してみましょう、
というものだったわけです。
https://www.nagoyatv.com/news/?id=184080&p=1

そんな試みがうまくいくのかどうか
一部には不安視する向きもあったのですが―――
結論から申し上げて、
大変に「刺激的」「意義ある議論」となりました。

そもそもトヨタでは今、
「AI」と「自動運転技術」を加速し、
「人類の暮らしのイノベーション」
を実現するという話が
巨額の研究開発費を投入しつつ、
本気で議論されているようです。

今回も、そんなお話を話題提供頂いたのですが、
そのイメージをお聴きしてまず感じたのが、
そんな超高度モビリティを享受できるのは、
「高収入者」に限られるだろう―――という点でした。

いわば、(宇沢先生の弟子であった)スティグリッツ教授が言う、
「1%の富裕層と99%の貧困層」
に向かいつつある世界の構図から言えば、
トヨタがイメージする未来は、
1%の富裕層向け「だけ」のものであるやに感じたわけです。

したがって、このイメージ通りの未来が実現すれば、
将来の日本は、今の発展途上国と同じように、
クルマは1%の富裕層のためのもので、
バスや電車は99%の貧困層のためのもの
となってしまうこととなるわけです。

ですが、次のようなシナリオを考えれば、
トヨタの技術は、日本の未来を明るくするのでは、
とも同時に感じました。

つまり、AIや自動運転技術を、
単にクルマを豊かにするためだけでなく、
「モビリティ全体」を豊かにしていく方向に
活用していくこともできれば、
日本ひいては、世界は、むしろ
「明るくなる」のではないかと感じました。

まずは、バスやタクシーの無人運動化を進めれば、
「人手不足」がどれだけ進もうが、
様々な地域で、多頻度の良質なサービスを、
安い価格で提供できるようになります。

そもそも、バスやタクシーの価格に占める
「人件費」の割合は非常に高く、
したがってそれが「無人化」できれば、
価格が大きく引き下げられるからです。

しかも、今、バスやタクシーのサービス頻度が低いのは、
運転手の配置が難しいからですが、
無人化が進めば、
そんな問題も解消できるのです。

とりわけ、自動運転が実現すれば、
今までタクシーやバスのビジネス展開が無理だった
高齢化が激しい地方部や中山間地でも、
その導入が十分に可能となるに違いありません。

さらに言うと、自動運転技術は、
「カーシェアリング」のシステムを、
より高度化するものでもあります。

例えば自動運転が可能となれば、
カーシェアにおける「乗り捨て」が可能となります。

乗り捨てたところから、
元の駐車場(あるいは、駐車数が少ない駐車場)まで、
自動でクルマが移動してくれれば、
私達は好きなところに、クルマを「乗り捨てる」
ことが可能となるからです。

こうしてバス、タクシー、カーシェアリングが
最新技術でより高度化すれば、
クルマからの「モーダルシフト」もさらに加速し、
社会はより豊かな方向へと「改善」されていきます。

一方で、どうしてもクルマを使わないといけない人々は、
自動車産業が供給するより高度な自動車を利用でき、
あらゆる階層の国民が豊かになっていくことになります。

・・・ただし、そんな、
あらゆる交通手段の自動運転化を進めるには、
技術開発についての「公的補助」や、
基礎インフラに対する「公的投資」などの
政府の後押しが必須です。

それがなければ、自動運転技術はやはり、
ビジネスの論理だけに基づいて、
単なる富裕層向けのサービスにだけ活用され、
格差社会を拡大するものとなるでしょう。

つまり、民間主導で開発されている
「自動運転技術」や「AI技術」の活用を、
民間ビジネスだけに任せるのではなく、
「パブリックな意志」を持った「政府」が
適切に関与していくことで
「民間の活力」が進む方向を、
「公共的な方向に調整」していくことが可能となるのです。

それはちょうど、
プラトンが対話編『国家』で論じた様に、
子供の教育において必要なのは、
「教え込む」ことではなく、
方向を「向け変え」ていくことだ、
という話と、同じです。

はたして、
クルマを巡るわたしたちの未来は、
格差がさらに拡大する悪夢の未来なのか、
国民全員が豊かになる明るい未来なのでしょうか―――。

もちろん、ニヒリズムが深化し、
政府のど真ん中からすら、公共的意識が消滅し、
単なる「緊縮思想」だけがはびこりつつある今、
日本の未来が「悪夢」に吸い込まれそうに
なっていることは間違いありません。

ですが、まずはこうした、
大局的かつ動態的に事態を把握せんとする
「コンサーバティブ」(保守的)な視座から、
自由闊達で「リベラル」な議論を重ねることが、
そんな悪夢に吸着されないための、
唯一の道となるのだろうと思います。

その意味で、
今回開催したトヨタの地での
モビリティ・マネジメントの会議で、
そんな議論ができたことそれ自身が、
わずかな希望の灯となるのかも―――しれません。

少なくとも、
この週末の議論に参加した皆さんの表情の明るさからは、
そんな可能性を垣間見ることができるように感じた次第です。

追伸1:
こんな議論にご関心の方は是非、
『クルマを捨ててこそ地方は甦る』をご一読ください。
https://www.amazon.co.jp/dp/456983695X

追伸2:
今、発売中の『表現者クライテリオン』の最新号でも、
本誌の編集を担当されている毛利千香志さんが、
「クルマと都市の活力」の問題を議論されています。
是非、雑誌の方も、ご一読ください。
https://www.amazon.co.jp/dp/B07D4ZLFSN/

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