台風21号、北海道地震と大規模な自然災害が立て続けに日本列島を襲いました。
7月の西日本豪雨もそうでしたが、最近は「記録的」な大雨が増えています。大規模な地震も頻発していますが、それも従来の予想とは違うところで起きている印象があります。
その結果、「想定外」のインフラ破断が起きて二次被害が拡大していく。その問題点を、われわれは東日本大震災でいやというほど味わったはずですが、同じことが今回も繰り返されようとしています。
関西空港は部分的に運行を再開していますが、今朝の報道では、発着数は通常時のまだ一割程度。完全復旧までにはまだ時間がかかることが予想されています。近畿地方の停電は山間部を中心にいまだ続いており。阪神・淡路大震災の時よりも復旧が長期化するおそれが出てきました。
苫東厚真発電所の停止は、北海道全域をブラックアウトに追い込みましたが、大手電力会社の管轄する地域全体での停電ははじめてのこと。今後も計画停電の可能性は消えず、不安を残したまま厳しい冬を迎えようとしています。
天変地異の発生は、人間がどうにかできるものではありませんが、天変地異によって社会が被る被害は人間の取り組みで小さくすることができる。これが防災・減災の思想であり、政府の「国土強靱化」の基本理念であったはずですが、今回の被災状況をみるにつけ、現実はまだ追いついていないと言わざるを得ません。
特に気になるのは、この20年で進められた構造改革が、自然災害への社会の対応力を引き上げるのではなく、むしろ引き下げてしまったのではないかということです。
たとえば関西空港については、民間への運営権売却や道路公団民営化の結果、所有者と運営者が複数の企業・団体にまたがってしまい、それが復旧や今後必要になる高潮対策などの障害になっているとの指摘が上がっています。
https://www.sankei.com/west/news/180910/wst1809100072-n1.html
空港を運営する関西エアポートは、土地や滑走路を所有しているわけではなく、防災工事についても独断で出来ない仕組みになっている。政府がつくったインフラを民間業者が運営する「コンセッション方式」の、非常時対応の脆弱性がここで露呈したわけです。
インフラ施設の運営権を民間業者に売却する「コンセッション方式」は、今後も水道事業などで導入が予定されています。しかし、本当にそれでいいのか、今回の災害をきっかけにあらためて議論しなおすべきでしょう。
電力についても同じです。2020年には発送電分離が実施される予定ですが、発電と送配電を分離してしまうことが本当に望ましいのか、私は以前から疑問でした。(この点については、以前、別のところに書きました。)
電力自由化は、新規参入による競争促進を促すのが目的ですが、先行する欧米の事例を見ても電力料金の上昇や停電が起きやすくなるなど、数々の問題点が指摘されています。
加えて日本は台風や地震などの天災が多く、送配電網の維持管理に多大な費用がかかります。原発も停止が続いており発電会社の供給余力もない。この状態で電力システム改革が予定どおり実行されると何が起きるのか。
現状でさえ大雨と地震で停電が起きているのに、発送電分離が実施された後にそのリスクが小さくなるとは考えにくい。むしろ、今より大きくなると考えるのが自然ではないでしょうか。
「国土強靱化」のためには、災害を想定した冗長性の確保や、非常時の責任の所在の明確化など、さまざまな対策が必要になります。しかしインフラの民営化や自由化は、それに逆行しているように思えます。
気候変動や地殻変動の影響で、今後も大型台風や大規模地震が頻発すると、多くの専門家が指摘しています。であれば、災害の被害を最小化し、復旧を早める社会の対応力を上げていかなければなりません。そのためには構造改革路線の軌道修正が不可欠になるはずです。
自然災害の被害や二次被害を食い止めるのに、具体的にどんな対策が必要なのかは、これから議論を積み上げていく必要があるでしょう。一つ確かなのは、災害対策に財政支出の拡大が必要なら、それを躊躇すべきではないということ。何も対策せず被害が拡大すれば、結果的にもっと費用を多く支払うことになるからです。
平成は改革に明け暮れた時代でした。その最後の夏に自然災害が立て続けに起きて、国土が強靱化に向かうどころか脆弱化している実体が明らかになった。新しい時代は、その反省から始めなければならないでしょう。
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