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【藤井聡】災害対策は、「防災」を超えた「強靱化」を目指すべきである。

藤井 聡

藤井 聡 (表現者クライテリオン編集長・京都大学大学院教授)

先週は、大雨に伴う台風21号が猛威を振るい、
関西空港が一時完全閉鎖に追い込まれました。

その翌日には、震度7の地震が北海道を襲い、
大規模な被害をもたらし、
40名を超える死者・安否不明者が出てしまいました。
https://news.nifty.com/article/domestic/government/12145-085068/

そして、凄まじい土砂災害が発生しました。
https://www.asahi.com/articles/photo/AS20180906002059.html

こうした、一面の山々全てで大きく斜面が崩れている様子を
目の当たりにすれば、「凄まじい自然の猛威」に対して、
為す術など何も無いのではないか―――という
絶望的な気分になってしまいます。

結果、私達は、もはや、
「安全な場所にだけ、人が住まわせる」
という方針を採用する他ないのではないか、
と考えてしまいがちになります。

―――しかし、全ての「斜面」は、
基本的に崩壊するリスクを持っています。

だから、
「安全な場所にだけ、人が住まわせる」
という方針は、事実上、
「斜面およびその周辺に人は住むな」
ということを意味します。

しかし、日本列島の三分の二は山地もあり、
そこには人が住めない、
ということになってしまいます。

しかも、残りの三分の一の「平野部」は
安全なのかと言えば、決してそうではありません。

平野部には、
洪水のリスクがつきまとうからです。

そもそも、日本の全ての平地は「洪水」の繰り返しで、
できあがったのですから、
全ての平地には当然、洪水リスクがあります。

だとすると、
「安全な場所にだけ、人が住まわせる」
という方針で考えれば、
「日本列島には、住める場所がほとんど無い」
ということになってしまいます!

だから、災害列島日本において、
「完全に安全なところにだけ住むべし」
という方針は、事実上、無理なのであり、
ナンセンスなのです。

―――とはいえ、あの大地震による、
広範な土砂災害を食い止めることはできないのも事実。

だとすると、結局は、
強烈な自然の猛威に対して、
「何もすることは無い」
と、「あきらて」しまいそうになってしまいますが―――、

私は、決してそうは思いません。

ああした地震の被害を「防ぐ」こと、
つまり、「完全防災」は無理でも、
「地震」に対してこの日本を「強靱」にすることは、
いくらでも可能だからです。

つまり、今回の様な大地震を想定しつつ、

1)致命傷を受けることを回避し、
2)可能な限り被害を減少し、そして、
3)可能な限り迅速に「回復」を果たす、

ことができる「能力」を強化するわけです。

これこそ、「強靱化」と呼ばれる考え方、
ないしは「思想」です。

そもそも、
あのランクの巨大地震は、
日本中どこで起きても不思議ではありません。

だから、巨大地震は、
東京や名古屋、大阪ででも生じ得るのです。

そう考えた時、私達の国家が如何に脆弱であるかが、
ハッキリと見えてきます。

今回、誠に痛ましい事に、
40名以上の方が犠牲になりましたが、
あの地震が、東京、大阪、名古屋などの大都市で起こっていれば、
その人的、経済的被害は、
何十倍、何百倍もの水準に達していたわけです。

繰り返しますが、
その被害を「ゼロ」にする「完全防災」は不可能です。

例えば、最新の規準でつくった建築物でも、
震度7の場合は「倒壊」するリスクが、
確実にあります。

しかし、その被害を減じ、迅速な回復を期する
「強靱化」ならば、いくらでも可能です。

第一に、あらゆる施設について、
その重要度に応じた可能な限りの耐震強化を図ります。
結果、「完全防災」が無理でも、
大幅な「減災」が可能となります。
(もちろん、小さな地震の場合は完全防災も可能です)

第二に、「避難道路」を整備し、
その関連・施設(例えば、橋梁)の耐震性を高めます。
これで、被災地の「迅速」な回復が可能となります。

第三に、救護、救援、復旧のための
各種の「チーム」である、
インフラ復旧チーム(TECH-Forth)や、
医療チーム(DMAT等)、
そして、「自衛隊」の能力を、可能な限り増強します。
あわせて、各地域の「建設業の供給能力」を高めることも必要です。
これらによって、「回復の迅速性」はさらに向上します。

第四に、重要施設の「二重化」(冗長化)も必須です。
今回の北海道の「ブラックアウト」は
特定の発電所に頼りすぎた送電の帰結。
もし「もう一つ」大容量の発電所が駆動していれば、
そのブラックアウトは完全に回避できた筈です。

あるいは、台風21号の高潮で関西空港が閉鎖されましたが、
一部では「無駄」とも言われた伊丹空港があったため、
関西への飛行機アクセスは、何とか保持されたのでした。

重要施設の二重化は、被害を最小化し、
回復を迅速化させるのです。

そして最後に、
「一発の地震」で被る被害を可能な限り減ずるためには、
可能な限りの「国土の分散化」が必須です。

そもそも日本は、首都圏に人口と経済が集中しすぎであり、
これこそ、首都圏の大地震を各段に深刻化させています。

だから徹底的な「分散化」は、必須なのです。

同時に、「都市部」への集中も激しい水準にありますから、
「都市部から地方部」への分散化も必要です。

なお、その際に「相対的により安全な土地」への分散化は、
より効果的でしょう。

・・・

ところで以上のように考えれば、
逆説的ではありますが、
今回の北海道地震を受けてもなお、
北海道への分散化は合理的である
と言うことができるでしょう。

そもそも、あの巨大地震が、
「北海道で起こった場合」と
「東京・大阪・名古屋で起こった場合」とを比較すれば、
北海道で起こった場合の方が、
圧倒的に被害が小さくなるからであり、
かつ、「過疎化」が進む北海道の広大な土地は未だ、
十分に活用されていないからです。

・・・

いずれにせよ、「防災」を目指せば、
停止してしまいがちとなる「思考」が
「強靱化」を目指すことで、
いくらで展開可能となります。

凄まじい自然の驚異をまざまざと見せつけられた今こそ、
私達は「考え」続けなければなりません。

そのためにも私達は、
災害対策の目標を、
「防災」に留まる事無く、
「強靱化」にまで拡張せねばならないのです。

追伸:今週の週刊ラジオ表現者は、浜崎洋介さんをゲストとしてお迎えし、「戦前」と「戦後」の歴史観についてお話頂きました。是非、御聴取ください!

https://the-criterion.jp/category/radio/

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