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【柴山桂太】消費増税の最悪なタイミング

柴山桂太

柴山桂太 (京都大学大学院准教授)

本日14日に『表現者クライテリオン』の別冊が出版されます。消費税増税の凍結をテーマに、20人を超える論者が寄稿しています。

別冊クライテリオン 消費増税を凍結せよ
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さまざまな論点が呈示されていますが、多くの論者が共通して指摘しているのは、増税のタイミングの悪さです。

国内景気はいまは順調かもしれないが、消費増税が景気を下押しするのは過去のパターンから見ても明らかです。その上、来年は世界経済の変調が今年以上にはっきり現れてくるはずです。そうなれば、今は好調な日本の輸出も減退を余儀なくされます。

もっとも懸念されるべきシナリオは、増税による消費の落ち込みに、世界経済の混乱による輸出の減退(そして金融の混乱も)が重なって起きるというものです。

最近、英「エコノミスト」誌が「次の景気後退(The next recession)」の特集を組んでいます。次の景気後退が、激しい金融危機を伴うものになるのか、もっとマイルドなものになるのかは分からないが、後者だとしても懸念は残る。それは先進国の政治体制が脆弱になっていることだ。

2008年の危機では、中央銀行が量的緩和を実施し、政府が財政支出を拡大するなど、機動的な危機対応によって景気の激しい落ち込みを防ぐことが出来た。しかし次はどうか。

財政支出に関しては政治的反対が強まっており、特に欧州でその傾向が強い。アメリカでも議会の抵抗で、大規模な財政政策の実施が難しい政治環境になっている。

2008年には、各国が緊密な連携をとって危機に対処できた。しかし今は違う。欧州諸国の足並みは乱れ、米中間の争いも過熱している。その上トランプ政権は、次の危機時にはさらなる保護貿易政策をとる可能性が高い。

次の景気後退には、こうした政治要因が深刻なリスクとして付け加わっている、というわけです。(http://urx.red/NteS

以前出した本(http://urx.red/NtfG)で、私は2008年の金融危機は、やがて政治危機や地政学的危機へと発展していくことになるだろうと書きました。各国で保護主義を求める機運が高まり、欧州では分裂圧力が高まる。「鎖は弱いところから切れる」のたとえどおり、新興国では破綻に追い込まれるところも出てくるだろう。

そのタイミングはおそらく、次の景気後退になるはずだ。日本の事例を見ても、最初のバブル崩壊は政府の機動的な対応によって乗り切ることができるが、次の景気後退が本格的な危機のはじまりになる。リーマンショック後の世界経済もそうなるのではないか…という趣旨のことを書いたわけですが、現状をみると、まさに予想を地で行く展開になりつつあります。

6年前の本なので細かい所で修正すべき点は多々ありますが、大きく見ればいまも予想を変える必要はないと思います。そして、次の世界的な景気後退のタイミングが、じりじりと近づいてきているわけです。

2020年代には、過去40年続いてきた、グローバル化の進展を前提とした政治経済の仕組みが重大な変更を余儀なくされることになることになるでしょう。いまアメリカで始まっている政治の混乱は、その前触れと理解すべきです。

したがって今は嵐の前の静けさにあると理解すべきなのですが、最悪なことに、日本はいまだに過去の幻想から抜けられていません。

世界中で移民受け入れの是非が問い直されているというのに、これから移民受け入れを本格化する。民営化の反省が高まりつつあるのに、水道や空港の民営化をさらに進める。所得税や法人税を下げて消費税を上げるという、サッチャー以来の税制改革にいまもこだわり続けている。他にも例を挙げればキリがありません。

なお、今回の別冊で田村秀男氏も書かれていますが、(アベノミクスが始まってからの6年で)銀行の対外融資増減額は邦銀が1.6兆ドル増であるのに対して、米銀は0.12兆ドル増、英銀は0.5兆ドル減と、邦銀の数字が突出していることが分かります。

まさに「世界に打って出る」という政府のかけ声通りの展開になっているわけですが、次の危機時には、これが日本経済の致命傷になる可能性は十分あると考えておくべきでしょう。

いまは人手不足で、外国人労働者の受け入れ枠拡大が議論されていますが、この状況はいつまで続くのか。次の危機が始まれば、リーマンショック時と同様、今度は失業問題が取り沙汰されることになるでしょう。

話を消費税に戻せば、今回の別冊に寄稿してもらった論者は、細かく見れば立場はバラバラです。消費税増税は時期をずらして実施すべきという立場もあれば、増税そのものを凍結すべきという立場も、むしろ減税して他の財源を求めるべきという立場もあります。財政や福祉の考え方も一様ではありません。

しかし、来年10月の消費増税は問題がありすぎるという点では共通しています。大手メディアはみな増税ありきで議論していますが、そうではない立場もある。是非、多くの方にお読み頂ければと思います。

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