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【藤井聡】「万博」による目先の成長がもたらす、深刻な被害

藤井 聡

藤井 聡 (表現者クライテリオン編集長・京都大学大学院教授)

早いもので、先日来ご案内差し上げてきました
大阪シンポジウムが今週末に迫ってきました。
https://the-criterion.jp/osaka_symposium_2018/

大阪と言えば先週、「万博」が決定しました。

関西、とりわけ大阪ではこの決定を大歓迎。

実際、これを契機に公共の投資も進められ、
民間投資も一定、誘発され、
日本人の消費も一定喚起され、
外需が増加することが十分に予想されます。

筆者もまた、
こうした効果が生ずるであろうと考えますし、
したがって、万博開催それ自身は、
大変に結構な事だと考えています。

しかし、
この万博開催にあまりに「浮かれる」ような事があると、
本来、やるべき事が「おざなり」にされ、
かえって、日本、とりわけ大阪の不況が
さらに深刻化し、長引いてしまう事となってしまいます。

例えば、当方が毎週土曜日に出演しております
「正義のミカタ」という
関西・中京・北陸・九州でネット放送されている
ニュース解説番組で万博が取り上げられた時、
番組でご一緒しております、ほんこんさんが、
次の様に発言されました。

「観光立国も怖い所があって
インバウンドが来えへんかったら。
地場産業を育てることを考えやなあかん」
http://urx2.nu/O74T

要するに、万博万博って浮かれてても、
大阪の本当の地場産業が発展しなければ、
万博には意味が無いのではないか、というご主旨。

まさにおっしゃる通り。

重ねて、ほんこんさんは、次のようにもご発言。

「未来社会とか言うねんやったら、
介護の人の給料をもっと上げたらなあかんやん。
そんなことも考えんと未来社会ってよう言えんなって。
外国人労働者を入れてヘルパーさん入れるわ、
施設の中では働けるけど訪問では出来るか?
っちゅう話やねん」
http://urx2.nu/O73Q

これもまた、まさに、おっしゃる通り(!)。

そもそも今回の万博のテーマは、

『いのち輝く未来社会のデザイン』
~多様で心身ともに健康な生き方、
持続可能な社会・経済システム~

この「健康」や「持続可能」といったキーワードを
まじめに突き詰めるなら、
まずは「介護給与」をしっかり上げて、
若くて優秀な人材を
介護業界に集めることが必要不可欠です。

にも関わらず今、進められているのは、
「外国人労働者」の導入。

そんな事をやっていては、
「介護給与」は上がらず、
若くて優秀な人材を集めることが
難しくなってしまいます。

しかも、外国人は日本語なんて話せないんだから、
施設内なら対応できても
「訪問」では無理。

ですから、先のほんこんさんのご発言は、

「当たり前の対策もやらんどころか、
逆効果の対策ゴリゴリ進めてるくせに、
何が、未来社会のデザインや!
ええカッコしぃ言うて、
口だけやないか!」

とおっしゃっているように、
当方には聞こえた次第です。

さらに、

「二極集中になるのも良くない」
https://tvtopic.goo.ne.jp/kansai/program/abc/45208/767795/

ともご発言。

全国が疲弊している中、
オリンピックと万博で、
東京と大阪だけが繁栄しても仕方ないやないか、
というご指摘。

つまり、

「万博で大阪が豊かになるかどうかも分からないし、
仮にそうなったとしても、
余所の都市をほったらかし(=放置し続ける)に
しててもエエんか(=良いのか)?!」

と言う趣旨のご指摘なわけです。

ちなみにこうした一連のほんこんさんのご指摘に、
番組の共演者も一同、大いに共感。

出演されていた俳優の加藤雅也さんも、

「ほんこんさんのおっしゃることは、
ホントにその通りだと思います。」

とのご発言をされていました。

万博開催で浮かれている空気だからこそ、
こうした「浮かれすぎてたらアカン!」という
釘を刺す発言をあえて、TVで流すのは、
大変貴重な機会となったものと思います。

そもそも筆者は、
こうしたほんこんさんのご懸念は、
「杞憂」でも何でもなく、
きっとそうなるであろう、
至って確度の高いリスクだと思います。

もちろん、今の日本が、

(1)内需拡大・デフレ脱却のための財政拡大と、
(2)基礎的な公共インフラの充実、および
(3)過剰な自由化の弊害を見据えた規制強化、

の三点セットを行って、それらを通して、
国民経済を成長させていく、
という「ビジョン」が明確にあるのなら、
万博は、大いに成長を導くだろうと考えます。

しかし、過去20年間の日本の政策方針は一貫して、
この(1)から(3)とは「正反対」。

まず(1)の「財政」については、
激しい「緊縮」の方針が採用され、
消費増税は断行され、
支出はカットされ続けています。

(2)の「公共インフラの充実」についても、
その緊縮財政のせいで、
遅々として進みません。

例えば、70年万博の時は、
東京大阪間の新幹線を整備するという
大規模な財政出動に基づく
大国家プロジェクトが連動しましたが、
今回の万博では、
そうしたプロジェクトは見当たりません。

(3)の規制強化については、
ほとんどそうした議論が進んでおらず、
様々な規制緩和が進められています。

今回の万博にあわせて、
カジノを中心としたIRに、
外国企業が「規制」されることなく、
「自由」に投資をすることが見込まれていますが、
そうなれば、万博会場である夢洲に集まった
マネーの多くが、外国に流出するでしょう。

いずれにせよ、今回の万博によって、
幾分消費や投資が拡大するわけですが、
現在の状況を一つ一つ吟味すれば、
「デフレ脱却」をもたらす程の効果が得られるとは
到底思えないわけです。

むしろ、万博がもたらす「僅かな経済効果」のせいで、
かえって、抜本的な対策を行う機運がそがれ、
大阪のさらなる没落と
日本経済全体のジリ貧の加速がもたらされる
ことすら機具されるのです。

だからこそ、今日本に必要なのは、
「目くらまし」のような万博や改革に浮かれるのでなく、
経済状況に関する「的確な診断」と、
それに基づく抜本的対策なのです。

そして、そうしたビジョンの下で
万博を開催できて初めて、
70年万博のような、
万博開催の真の意義が生まれるわけです。

今必要なのは、目先の利益をもたらす、
派手な看板政策でなく、
日本の真の成長を導く「大きな政策ビジョン」なのです。

追伸:今週末の大阪でのシンポジウムでは、そんな「政策ビジョン」について、今の大阪の現状を見据えながら、しっかりと議論したいと思います。是非、ご参加ください!
https://the-criterion.jp/osaka_symposium_2018/

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