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【保守放談】「民意を問う」選挙よりも「政意を磨く」討論を

放談士

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 「維新」をその名に冠する大阪の地域政党が、自ら輩出する大阪府知事と大阪市長をともに辞職させた上で、互いの職を入れ替えるべく両首長選挙に臨むことを決めたようだ。
 その奇策ぶりは首都においても床屋談義の俎上に乗るところとなっているが、これは地方政治に関心を持つことの少ない首都人にあっては珍しいといえる。政局的背景については新聞やテレビが仔細に論じており、その常道を外れた選挙戦術に対し、中央政府与党の有力政治家が不快感を露わにしてもいる。

 事の発端は、維新勢力の進める「大阪都構想」とやらの実行に向けた段取りが、政党間交渉の不調によって頓挫したことにあるらしい。そこで、大阪における大衆的人気の獲得には多少の自信をもつ維新勢力が、首長選挙を通じて支持の厚さを改めて可視化し、各方面にその勢威を示すことで局面の打開を図りたいというわけだ。
 ところが、現職知事・市長が辞職してそのまま同職に立候補したのでは、当選したところで従来の任期(それぞれ本年11月・12月まで)が引き継がれてしまう。これでは都合が悪いということで、職の入れ替えを思い立ったようである。

 この「入れ替え戦術」の姑息さについて論評すべきことは幾つもあるが、そのことよりも気にかかるのは、「もう一度、民意を聴きたい」という現職府知事の発言のほうである。衆議院の解散時などにも聞かれるありきたりのセリフではあるのだが、近代国家の基本的な統治原理である「間接民主制」の趣旨を履き違えているのではないかという指摘は、どれだけ繰り返してもし過ぎることがない。

 政治的決定が文句なしの正解に辿り着くことは稀であり、殆どすべての政策は両義的・多義的にしか評価することができない。人の判断能力には限界があって誤謬の可能性が常につきまとい、利害調整のルールがどれだけ緻密に整備されようとも、全員が満足することはまずあり得ない。そこで我々が代表者たる政治家に期待するのは、誤断の可能性や利益集団間の相互不信をなるべく減ずるように、討論を通じて政策を練り上げることだ。

 巷間の論評を耳にするかぎり、そもそも「大阪都」の構想がいかなる帰結をもたらすと見込まれるのかについて、大まかにでも「合意がある」と言うには程遠い状況のようである。であるならば、漠たる感情や雰囲気に左右されがちの「民意」に判断を委ねる選挙ではなく、まず代表者間の討論によって「政意」の内実を磨くことこそが先決であるはずだ。それが間接民主制に込められた智慧なのであり、明治の「維新」を経て我々が手に入れた近代政治の基本原則に他ならない。

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