『表現者criterion』メールマガジン

【谷川岳士】歩み寄るべきは

From 読者からの手紙(投稿) 

 先日とある週刊誌で、今上陛下が皇室としてSNSを利用しての情報発信をご検討なされている、という記事を見かけました。宮内庁関係者からの発言として、陛下が「皇室としてFacebookやTwitter等のようなサービスを活用する事をどう思うか」という相談を知人になされた、と言い、陛下はこれまでもたびたび「国民の中に入っていく皇室でありたい」と仰ってこられ、そういった国民と共にある皇室としての一環にSNSのご活用を検討なされている。…という趣旨の記事です。

 仮にこの報道が全て事実であるなら、我々国民に寄り添おうとして頂ける、陛下のそのお気持ちは、私も一日本国民としてとても嬉しく、また大変光栄に思うものであります。しかしながら、ことSNSに関してはどうか慎重になっていただきたいと、憚りながら申し上げたいと思います。

 「国民に開かれた皇室」ともしばしば言われるように、陛下や皇族の方々が例えば被災地にお見舞いに行かれる様子など、常に我々国民とともにおられるのを見るにつけ、陛下のその御心はもはや過分にすぎる程であり、これ以上望むべくも無いと私は思います。日本史で習ったような、陛下への謁見の際に簾越しに従者を介して奏上していたような厳粛さも既になく、あるいは近代でも例えば夏目漱石の「吾輩は猫である」には「宮様の御顔を拝むなどと云う事は明治の御代でなくては出来ぬ事だ」のようにあり、今とは違う皇室の様子が描かれています。

 一方現代の我々は、日々報道される皇族の方々のそのお姿を知らぬ人などいないでしょう。中世どころか近代に入ってからにおいても、現在の我々の知る皇室はかくも「国民の中に入っていく皇室」として、既に十分すぎるほど我々へと寄り添って下さっておられるのです。しかしSNSは、多くの人がご承知であるように、TPOの融解した、もはや人の愚劣さの極北です。陛下にこの上SNSの様な場所にまでおいで頂く必要あろうはずがありません。ネット上に溢れるあの下卑た世界を、もし陛下がお目にする様な事があるかもしれないと思うと心苦しくてなりません。

 加えてもう一つSNSには非常に懸念すべき点があります。Facebook、Twitter等々、主要なSNSはすべてアメリカの企業です。そのサービスを陛下がご利用になるという事は、その企業へ申し込み、利用許諾を承諾し、アカウント使用の認可を受けるという事になります。これには非常に大きな「歴史的」かつ「政治的」な含意をしかねません。

 極めてセンシティブな事柄になりますが、あえて言うならば、上皇陛下がかつて訪中された折に、中国共産党政府から印鑑を贈呈されそうになったのを、すんでのところで宮内庁職員が差し止めたという話があります。彼らは歴史的に印鑑授受を朝貢外交の褒美として行ってきており、その再現を狙ったものでした。かつて権威としてその印鑑は身元を示す箔付けとなってきたものです。

 そして各SNSサービスでは著名人のなりすまし防止のため「認証アカウント」というサービスを行っています。身分証などを提示し、その本人である事を運営会社が確認した「お墨付き」の証として、そのアカウントには青いチェックマークのアイコンが付与されます。もし今後皇室でSNSの利用がなされるという事は、その運営企業が我々の皇室を「認証」し、印鑑ではなくその青いマークを付与する事になるのでしょう。これに含意される極めて「政治的」な意味合いを私は非常に危惧します。

 陛下はこれ程まで我々に寄り添おうとなされておられるのに、それでも国民と隔たりを感じるがゆえにSNSを利用される事まで検討されているのだとしたら、これはむしろ我々国民の問題です。我々こそが日本国民として、皇室とともに有る事ができたのか。陛下をここまで考えるに至らしめた我々こそが、その陛下のお気持ちに沿う事ができてこなかったのであり、その分を弁えねばならないのだと強く思います。

※本記事は『表現者クライテリオン』9月号からの転載です。
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コメント

  1. 学問に目覚めた中年。 より:

    この期に及んで国民と皇室の歩み寄り以前に、やるべきことがある筈です。それは、法務省やら厚労省とか文科省の三流以下で天下の財務省による先の大戦の総括ですよ。つまりコレなくして全ての正当は、できません。それに自分たちのケジメすら出来ない集団が統治など、おこがまい限りで説得力も全くなし。

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