今回は、『表現者クライテリオン』で毎号掲載しているコラム【鳥兜】を公開します。
2021年7月号の2つ目のタイトルは「「コロナ全体主義」の心理学 エーリッヒ・フロムに倣って」。
全文公開しましたので、ぜひ最後まで読んでみてください。
『表現者クライテリオン』では、毎号の特集のほかに、様々な連載も掲載しています。
興味がありましたら、ぜひ本誌を手に取ってみてください。
以下内容です。
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今回のコロナ危機ほど、社会心理学の教科書を地でいく出来事も珍しい。
二十世紀の全体主義に面して『自由からの逃走』を著したエーリッヒ・フロムは、「一人では生きていけない」動物である人間において、その最も強烈な欲求とは
「孤立を克服し、孤独の牢獄から抜け出したいという欲求」
(『愛するということ』鈴木昌訳)だと書いた。が、まさに、この一年半見せつけられたのは、この〈孤立から抜け出したいという欲求〉の暴走だったと言っていい。
まず、グローバル資本によって、中間共同体を破壊していった平成三十年間の「改革主義」が、バラバラとなった個人の孤立感を増大させてきたことは言うまでもない。
が、それでも辛うじて保ってきた日本人の正気にトドメを刺したのが、コロナ危機だった。
まず、新型コロナウィルスそのものが、その毒性とは無関係に、老・病・死のイメージと共に、私たちに「孤立すること」の恐怖をまき散らすことになった。
が、その後に私たちは、さらなる孤立感に直面することになる。それは、「自粛」によって齎される社会崩壊に対する不安(飲食店、学生、女性たちの孤立)であり、
また、それにも拘らず、その「自粛」に異を唱えることで、「世間」から孤立してしまうのではないかという恐怖感である。
フロムによれば、その孤立感から逃れるため、人々は、
刹那的快楽に逃げ込むか(祝祭的興奮状態)、
自ら進んで画一的規則に身を預けるか(集団への同調)、
あるいは目の前の仕事に打ち込むか(創造的活動)
ということになるが、それでも、その不安感を紛らわすことができない場合、人々は「権威」のなかに逃げ込み、それとの一体感を求めようとする。
「接触八割削減」を恍惚気味に唱えた感染症の専門家への支持然り、客観性と合理性を無視して、ひたすらに「やってる感」の演出に忙しい東京都知事と大阪府知事への支持然りである。
が、最も恐れるべきなのは、その専門家や政治家と国民との間に築かれた「共依存関係」の方だろう。
それは、ほとんどDVカップルのような醜さを呈するが、
要するに、国民の側は、自分に指示し、命令し、保護してくれる人物の一部になり切ることによって安心感を手に入れ(服従欲=マゾヒズム的衝動)、
政治家や専門家の側は、自分を崇拝する他者を自分のなかに取り込み、自己膨張していくことで孤独からの解放を感じとるのである(支配欲=サディズム的衝動)。
そして、その両輪が完全に組み合わさったとき、私たちの眼の前に現れるのが「全体主義」、つまりは、思考停止した集団的ナルシシズムだった。
では、このナルシシズムから抜け出る道はあるのか。フロムによれば、それこそ、他者の「生」と触れ合うことの「喜び」に個々人が目覚めること以外に道はない。
その道をフロムは「愛」と呼ぶが、その技術は「こうすれば、ああなる」の正反対に位置しており、自分の内なる声に従う「勇気」を通じてしか手に入れることはできないとされる。
「誰かが救済してくれると頼ってはならない」と言うフロムは、しかし同時に、こうも言うだろう、
「生への愛は、死への愛(ナルシシズム)と同じように伝染しやすい。それは言葉や説明なしに、そしてもちろん生を愛さなければならないと説教しなくても伝わる。思想よりもしぐさに、言葉よりも声の調子に表れる」(『悪について』渡会圭子訳、括弧内引用者)
と。果たして、私たちに、この「しぐさ」と「声の調子」を見分ける力は、まだ残っているのか。日本人の未来を決めるのは、この「生への愛」に感染できる力だと言っても過言ではない。
(『表現者クライテリオン』2021年7月号より)
→1つ目のタイトル「脱炭素化」の幻想も読む
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コメント
「犀の角のようにただ独り歩め。」
『スッタニパータ』(『ブッダのことば スッタニパータ』岩波文庫 17頁)
孤立と孤独は異なる。