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【鳥兜】「脱炭素化」の幻想

啓文社(編集用)

啓文社(編集用)

今回は、『表現者クライテリオン』で毎号掲載しているコラム【鳥兜】を公開します。

2021年7月号の1つ目のタイトルは「「脱炭素化」の幻想」。

『表現者クライテリオン』では、毎号の特集のほかに、様々な連載も掲載しています。

興味がありましたら、ぜひ本誌を手に取ってみてください。

以下内容です。

全文公開しましたので、ぜひ最後まで読んでみてください。

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 四月下旬に気候変動サミットが開かれた。主催国であるアメリカのバイデン政権は、

「温室効果ガスの排出を二〇三〇年までに二〇〇五年比で五〇%から五二%削減する」

という新たな目標を発表し、日本は

「二〇三〇年までに二〇一三年比で四六%削減」

を表明した。

焼け石に水の環境政策

いずれも従来掲げてきたものよりも厳しい水準である。小泉環境相はインタビューでその根拠を問われ、

「おぼろげながら浮かんできたんです、四六という数字が」

と話していたが、要するに米国新政権の動きに追随したということなのだろう。

 温暖化抑止のための国際協調は歓迎すべきことかも知れないが、それが善意に基づく取り組みであると簡単に信じるわけにはいかない。

再生可能エネルギーへの転換にしろ電気自動車の普及にしろ、それらはかなりの程度、欧州をはじめ先行投資を行ってきた国々の産業競争戦略と、有望な投資先を求める金融資本の利害を反映したものだからだ。

自前の資源に乏しい我が国が本来志向すべきは、エネルギー源の多様化であろう。ただ、脱炭素化への動きは加速する一方であり、両睨みで環境技術への投資も進めざるを得ない。

 とはいえ、そうした投資にどれほどの意味があるのかについては、注意深く考えておく必要がある。
人類の経済活動は温暖化の主因ではないという主張や、温暖化した環境に人類が適応することも十分可能であるという議論も古くから存在するが、そうした少数説の当否はいったん脇に置いておこう。

それよりも注目すべきなのは、脱炭素化を強く唱えている専門家の間にも、現在試みられているような環境政策はほとんど無駄骨に終わるだろうという悲観論が存在するということである。

 広く受け入れられている試算によると、気温上昇がもたらす壊滅的な被害を避けるためには、二〇五〇年までに「ゼロ・エミッション」を実現する必要がある。

しかしそれを達成するには、排出権取引の仕組みを作ったり、電気自動車を流行らせたりしたぐらいでは到底足りるものではなく、焼け石に水だというのである。もちろん、レジ袋の有料化などは何の役にも立たない。

おぼろげながら浮かんでくる活路

 新型コロナ対策においては、

「専門家の見解に従うべし」「不確実性の下では最悪のケースを想定すべし」

という主張が支持される傾向にあった。たしかに専門知の尊重もリスク回避的な行動原則も、危機対応の重要な側面ではあろうが、その方針を温暖化問題に適用するとどうなるだろうか。

 専門家の間でも見解は分かれるが、「最悪のケース」を考えるのであれば技術の進歩に期待するわけにはいかず、我々の生活水準そのものを大幅に引き下げる必要がある

ちなみに、二〇二〇年春にはロックダウンの影響で、世界の二酸化炭素排出量が前年に比べて一〇%から一五%ほど減少したと言われるが、これだけ経済活動を縮小しても「ゼロ・エミッション」には程遠いのが現実だ

 新型コロナの経験からも、経済活動の抑制はかなりの困難を伴うことが分かる。

しかも気候変動問題は新型コロナのように数年で片付くものでもない。また、経済の縮小は医療や防災や国防などの能力低下を伴うであろうから、温暖化以外に多数のリスクを自ら招き寄せることにもなる。

 悲観的な温暖化論が正しいとすると、結局のところ我々は、気温上昇がもたらす弊害をかなりの程度受け入れざるを得ないのかも知れない。

もちろん努力をやめる必要もないが、歴史の現実は甘いものではないのである。そしてむしろそのような覚悟の先にこそ、活路と呼び得るものが「おぼろげながら浮かんでくる」のではないだろうか。

(『表現者クライテリオン』2021年7月号より)

 

 

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