【藤原昌樹】沖縄から異議を 唱え続けることの意義 ──復帰後世代の県知事誕生と「オール沖縄」県政の終焉

藤原昌樹

藤原昌樹

沖縄から異議を
唱え続けることの意義

―復帰後世代の県知事誕生と「オール沖縄」県政の終焉―

藤原 昌樹

初の「復帰後世代」となる沖縄県の新知事の誕生は、単なる国政への「従属」を意味するものではない。時代遅れとなった安全保障上の建前や対米従属の深化という真の国難に対し、沖縄から政府へ「異議」を突きつけることの重要性と、新知事に求められるしたたかな覚悟を問う。

2026年9月13日に投開票が行われた沖縄県知事選挙では、三選を目指す現職の玉城デニー知事と保守系新人で元那覇市副市長の古謝玄太氏による事実上の一騎打ちとなり、投開票日当日まで「どちらが勝つか分からない」と言われるほどの激しい選挙戦が繰り広げられました。最終的には投票締め切りと同時に当落が判明する「ゼロ打ち」となり、過去最多得票の42万3,124票を獲得した古謝氏が27万6,060票を得た玉城知事を14万7,064票の大差で破り、前任の翁長雄志知事の時代から続いてきた「オール沖縄」県政が終焉を迎えるとともに、初めて復帰後世代の沖縄県知事が誕生したのです。

今回の県知事選における「争点」については、『正論』2026年11月号に掲載される拙稿で考察しておりますので、本稿と併せてご一読頂ければと思います。

沖縄県知事に求められる「覚悟」と「したたかさ」

古謝玄太知事(2026年9月30日就任予定)は、「辺野古移設」容認の立場を鮮明にして当選を果たしましたが、私自身も含めて「辺野古の代替施設が完成しても普天間飛行場が返還されないのではないか」との疑念を抱いている県民は少なくありません。
沖縄県民の多くが、「辺野古ができれば、普天間が返ってくる」という政府の言葉を素直に信じている訳ではないのです。

日米両政府が米軍普天間飛行場の返還合意を発表してから30年が経過しましたが、この30年の間に、我が国を取り巻く国際情勢が大きく変わってしまい、安全保障環境が厳しさを増していることに加えて、軍事技術の進歩によって「戦争のやり方」そのものも大きく変化してしまっています。

県知事選の取材で「辺野古の代替施設」の埋め立て工事の現場を見渡せる海岸を訪れた政治ジャーナリストの今野忍氏は、「ドローンや無人機が発達したことで、戦争のやり方が変わってきている。いまの無人機は2,000㎞も飛ぶことができるから、見晴らしがよい場所に航空機やヘリを置いておくと攻撃されてしまう恐れがあり、中東でも、米軍は航空機やヘリを無人機による攻撃から守るために(格納庫などに)隠すようになっている。この見晴らしがよい場所(辺野古)に基地ができたとしても、米軍が(約束通りに)ホントに来てくれるかどうかは分からない」と語っていました。

すなわち、現行の「辺野古移設計画」が「既に時代遅れになってしまっている蓋然性が高いのではないか」との指摘です。
「戦争のやり方が変わってしまった」という現実を踏まえた上で、政府から繰り返し発せられる「辺野古が唯一の選択肢である」との言葉を聞くと、我が国の政府が「我が国を取り巻く安全保障環境の変化」という「都合の悪い現実」から目を背けて思考停止に陥ってしまっているのではないかという疑念が深まってしまうばかりです。

これまで機会ある毎に繰り返し論じてきましたが、仮定の話として、将来、辺野古の代替施設が完成して米軍が使用を開始したにもかかわらず、米国が「普天間飛行場は返還できない」と言ってきたときに、米国に対して日本政府が「普天間を返せ」と毅然たる態度を取る姿を想像することができません。
現在、沖縄に―そして我が国に突き付けられている「近未来予想図」は、「辺野古の代替施設が完成しても普天間飛行場が返還されることはなく、両施設を米軍が自由に使い続けている」という、より米国への従属度が増した我が国の姿でしかないのです。

しかしながら、「普天間飛行場の返還」の実現可能性に疑念があるからといって、辺野古の埋め立て工事が進捗し、もはやポイント・オブ・ノー・リターンを越えてしまっている現状において、玉城知事が率いた「オール沖縄」県政のように、やみくもに「辺野古移設」に反対し続けるのは、沖縄の将来にとって得策ではないどころか、マイナスにしかなりません。
「普天間飛行場の返還」の約束が反故にされてしまう可能性をも見据えた上で、改めて日本政府を相手取って「沖縄(県民)の不利益」を最小化する(=「沖縄(県民)の利益」を最大化する)ための厳しい交渉(現実的な条件闘争)に臨むことが求められます。

今回の選挙戦の過程で、「政治家としての経験のなさ」「行政官僚出身という経歴」などから、古謝氏は「もし国益と県益が対立した場合に、県民の側に立ってくれる人物なのだろうか」といった疑いの目で見られていました。

県知事選の翌日のインタビューで「具体的に国益と県益との間で対立や摩擦が起きた場合に、知事としてどのように対処するつもりがあるのか」と問われた古謝氏は、「例えば、安全保障の問題が想定されますが、政府与党が(沖縄が抱える問題に関して)なかなか向き合ってくれないということがあるのであれば、国政野党とも連携をしながら、国会内でも議論して頂くというやり方も考えている」と回答し、「県民の利益のために努めるのが、県知事の役割である」「選挙で支援を受けたからといって、政権与党(自民党)に唯々諾々と従うつもりはない」と断言していました。

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あくまでも私個人が受けた印象でしかなく、これだけで確証をもって語ることはできませんが、選挙戦の際には見られなかった「県民からの負託を受けた県知事としての覚悟」と「古謝氏自身のしたたかさ」を感じ取ることができる語り口であったように思えます。

沖縄から政府に対する異議を唱え続けることの意義

「反基地無罪」という言葉で語られるような、現在、沖縄で繰り広げられている違法で過激な抗議活動が到底容認できるものでないことは当然のことです。
しかしながら、それは「沖縄は政府の言うことに黙って従わなければならない」「国益を理由に、沖縄に押し付けられる過重な負担を甘んじて受け入れ続けなければならない」ということを意味している訳ではなく、沖縄から政府に対して疑問の声や異議を突きつける示威運動が有する意義そのものまで否定している訳でもありません。

沖縄から何ら異を唱えることがなければ、我が国の「対米従属状態」を良しとし、防衛・安全保障における負担を沖縄に集中させることで、防衛・安全保障に関して(政府をも含む)国民の多くが思考停止している現状を許容することに繋がってしまう懸念があることもまた紛れもない事実です。

拗れに拗れてしまった現状に至るまでの経緯や詳しい事情を知らない人々には、沖縄が「辺野古移設計画」に対して異議を唱え続けることが、「国益」を無視して「エゴ」を通そうとしているかのようにしか見えないのかもしれませんが、現行の「辺野古移設計画」が「対米従属状態」を温存する(もしくは従属の度合いをより深化させる)方向に繋がるものであるのだとしたら、沖縄から政府に対して異議を唱えることこそが、沖縄の「県益」のみならず、真の意味での我が国の「国益」を守ることに繋がるということになります。

「オール沖縄」県政が終焉を迎え、復帰後世代初の県知事が誕生したことで、この度の県知事選挙が「戦後沖縄の歴史的転換点」と位置づけられることになるのは間違いありません。しかし、そのことをもって沖縄から政府に対して異議を唱える必要性がなくなったという訳ではありません。
これからも沖縄は、我が国の「国益」のために「政府に対して異議を唱える責務」を負っているのです。

沖縄県民の一人として、これから沖縄県知事という重責を担うことになる古謝玄太氏にエールを送り、筆をおきたいと思います。

(藤原昌樹)

追記

本稿を書き上げた後、「古謝玄太氏の子ども達が通う複数の学校や古謝氏の公式ホームページの問い合わせフォームなどに、知事就任の辞退を要求し、応じなければ学校や県庁を爆破するという趣旨の複数の脅迫が寄せられた」とのニュースが飛び込んできました。

「辺野古転覆事故」で亡くなられた武石知華さんのご遺族が「情報提供・お問い合わせ窓口」として公開しているメールアドレスを悪用して送られてきたメッセージには、古謝氏の子供たちが通う学校名を列挙した上で、「10月1日までに沖縄県知事を辞退してデマ無しの再選挙を実施しなければ、無差別に放火して爆破する」と予告し、「学校内の同志に連絡をとって娘たちの友人関係や行動範囲の監視も開始したので逃げられない」と書かれており、知華さんのご遺族に対しても「極右の家族」などと誹謗中傷する文言が並んでいたと報じられています。

「テロリズム」の全てを否定する単純な議論に与することはできませんが、今回の古謝氏に対する卑劣極まりない脅迫行為(=テロ行為)には擁護すべき点が一切なく、断じて許されるべきものではありません。
ご遺族が居住する地域の警察のほか、古謝氏から相談を受けた沖縄県警が捜査しており、県警が「適切に対応していく」とコメントしているとのことですが、このような卑怯で愚劣な行為が繰り返されることを防ぐためにも、速やかに犯人が特定され、厳罰に処されることを願います。

 

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