既に5年もの歳月が経過しましたが、2018年8月に表現者クライテリオンの沖縄シンポジウム「沖縄で考える保守思想」を開催し、いわゆる「沖縄の基地問題」をはじめとする沖縄に固有の問題と、沖縄のみならず日本の多くの地方が共通して抱えている問題について編集委員の先生たちと議論しました(注1)。
その事前打ち合わせの際に、藤井聡編集長から「普天間飛行場の辺野古移設について、決して十分であるとは言えないのかもしれないが、少なくとも現状と比べて沖縄の負担軽減に繋がるので、沖縄の人々が頑なに反対し続けていることが、本土の人間にとっては理解し難い」との疑問が呈され、それに対して「那覇軍港」(那覇市内にある在日米軍基地)(注2)-既に本土復帰直後の1974年に日米間で全面返還の合意が成立しているにもかかわらず、「(沖縄県内の)代替施設への移設」という条件が満たされず、未だに返還が実現していない-の事例などを挙げて、多くのウチナーンチュ(沖縄人)が「辺野古が唯一の解決策」とオウムのように繰り返すだけの日本政府を信用することができず、「辺野古移設を受け入れたとしても普天間が返還されないのではないか」との疑いを拭えないでいることを説明しました。
先般、5年前に話したその「疑い」が現実味を帯びてきていることを如実に示す発言が米軍側から出てきました。
先日、沖縄に駐留する米軍(海兵隊・陸軍・海軍・空軍)が報道機関向けに訓練の公開及び軍事活動に関する説明会(11月7日~9日)を開催しました。その一環で行われたメディアワークショップにおいて、在沖米軍の幹部が普天間飛行場の名護市辺野古沖への移設工事について「完成するのは早くても2037年になると予想されている」「(移設が終わるまでの間は)普天間飛行場は維持される」などとの見通しを示し、記者団から「辺野古に新たな基地が完成した後も普天間を維持したいか」と問われたのに対して、自身には決定権はないとしつつも「答えはイエスだ」と話したことが報道されて波紋を広げています(注3)。
ワークショップにおける在沖米軍幹部の発言のポイントは、次のように整理されています。
・大浦湾側の軟弱地盤(注4)について、仮に修正(地盤改良を意味する)ができなければ(移設計画そのものに)影響を与えるかもしれない。滑走路が沈むような場所では建設は難しいとの懸念を有している。
・普天間飛行場は戦略的・地理的に重要である。中国の台頭など、現状の安全保障環境を踏まえると、海兵隊基地は(辺野古よりも)普天間に置く方が機能性は高く、政治的な要素を除き、軍事的な視点に立って考えた場合には、辺野古に代替施設が完成した後も、普天間飛行場の維持を希望する。
・辺野古では、陸側のすぐそばに高台があることで「レーダーでクリアに見ることができない」などの「ネガティブ・ポイント」(難点)がある。周辺の標高が高い辺野古と異なり、普天間飛行場が位置する沖縄本島西側は、地理的に遮るものがなくレーダーがクリアである。
・普天間飛行場の2,740mの長い滑走路はどのタイプの航空機も離着陸できるのに対して、辺野古の滑走路は普天間よりも短く設計されていてオーバーランに備えた補助部分を含めても約1,800mでしかなく、辺野古に移った場合には普天間飛行場と比べて機能が低下する。
・辺野古には普天間飛行場にはない係船機能付き護岸などがあり、海との連携が容易になるとの優位性もある。但し、運用面で具体的な計画がある訳ではなく、資金面や環境面への影響も踏まえてヘリポートとしての活用なども含めた更なる見直しがなされる可能性もある。
・辺野古の新たな基地が完成するのは早くても2037年になると予想しているが、台風など自然災害の影響による工事の遅れは加味されておらず、更に遅れる可能性も否定できない。
米軍幹部の発言を受けて、官房長官と防衛相が相次いで「普天間飛行場の固定化を避けるために、辺野古移設が唯一の解決策だと米側と累次にわたって確認している」「普天間の固定化はあり得ない」と述べるなど、日本政府はあくまでも辺野古での基地建設と普天間飛行場の辺野古への移設を進める姿勢を示して火消しに努めています(注5)。
その一方、沖縄県内では、照屋義実副知事が「辺野古の新基地よりも普天間飛行場の方が高い機能性を有しているという見方や、普天間と辺野古の両基地の継続使用を求める声は以前から米軍内にある」「日米両政府が明かさない本音が図らずも米軍から出た形だ」と指摘した上で「米軍が正直に思っていることだろう。沖縄だけに基地を押し付ける構造的差別が改めて示された」と述べています。
また、沖縄国際大学の野添文彬准教授は「海兵隊は小規模部隊を島々に分散させる『遠征前方基地作戦(EABO)』の戦略に舵を切っている。その視点で見れば辺野古新基地は大き過ぎてミサイル攻撃の対象となり得る。その一方で、滑走路は約1,800mで普天間の2,740mよりも短く、大型の軍用機を運用できない。辺野古は大き過ぎるし、小さ過ぎるという両面の課題を抱える基地であり、米軍からすれば軍事的なメリットがないというのが本音だろう」と解説しています(注6)。
在沖米軍幹部の発言を受けて、沖縄県の関係者は「まさに米軍の本音だろう。辺野古は代替になり得ず、辺野古が完成した場合も普天間を使い続けると布石を打っているようにも見える」と強い警戒感を示しており、その一方で、政府関係者は「意外な発言だ」と驚きを隠さず、「辺野古移設にこだわってきたのはむしろ米軍の方だ」「辺野古が完成しても普天間飛行場を使うという考えが米側に少しでもあるなら言語道断。固定化は絶対にあり得ない」と強調しています(注7)。
沖縄県の関係者と政府関係者、どちらの発言が現実を直視している発言であるのかについて、私には論ずるまでもない明らかなことのように思えます。
これまで拙稿で繰り返し論じてきた(注8)ように、日本政府が公式見解として強調し続けている「辺野古が唯一の解決策」「一日も早い普天間の危険性の除去のためには辺野古以外の選択肢はあり得ない」との言説は、「沖縄の基地問題」に関わる数多ある嘘話の1つでしかありません。
以前の記事(注9)でも既に言及していますが、例えば、民主党政権時の森本敏防衛大臣、1996年に当時の橋本龍太郎首相と共に普天間飛行場返還の日米合意を発表したウォルター・モンデール元駐日大使(注10)、在沖米海兵隊元幹部のロバート・D・エルドリッヂ氏(注11)が「軍事的には沖縄でなくても良いが、政治的に考えると、沖縄がつまり最適の地域である」「(普天間飛行場の)移設先は日本側による決定である」「日本政府が(辺野古ではない)別の場所に配置すると決めれば、米政府はそれを受け入れる」「日本側が沖縄からの米軍撤退を望まず普天間飛行場をはじめとする沖縄の米軍基地駐留の継続を求めていた」「『辺野古が唯一かつベストの案』には大して根拠がない」「辺野古は普天間と比較すると基地機能という面では問題だらけで、少なく見積もっても40~50ぐらいの問題点がある」「辺野古はベストでもなければベターでもなくワーストである」「『唯一の解決策』ではなく、むしろ数多くの新しい問題を引き起こすことになるほど最悪なものだ」などと論じていることからも「辺野古が唯一の解決策」ではないことは明らかです。
日本政府が「辺野古が唯一の解決策である」という嘘話に固執しているのは、我が国が米国に依存し、かつ従属している「半独立」の状況を甘受して思考停止に陥り、既に成立している日米合意に反する選択肢を検討することさえできない呪縛に囚われているからであるに過ぎません。米軍基地を沖縄に押し付けることで「独立した主権国家に相応しい防衛・安全保障体制の構築」という我が国にとって重要ではあるが難しい課題に対峙することから目を背けて逃げ続けていると看做さざるを得ないのです。
他方、軍事的な観点から比較して「辺野古で建設が進められている新基地よりも現状の普天間飛行場の方が高い機能性を有している」にもかかわらず、米国が日本政府による「辺野古が唯一の解決策である」という嘘話を否定することなく同調しているのは、このまま日本に辺野古の基地建設を進めさせることが「米国にとってメリットこそあれ、デメリットがない」と考えているからであると思われます。すなわち「辺野古に新たな基地が完成したとしても-米国に対しては常に弱腰であり続けている日本政府に対して『返還条件が満たされていない』と難癖をつけるだけで-普天間飛行場を返還する必要はなくなり、普天間と辺野古の両基地を継続して使用することができる」と米国が判断しているからであると推察することができる―そのように考えなければ合点がいかない―のです。
「普天間飛行場が返還されない可能性」について5年前の「沖縄シンポジウム」の際に解説し、これまでにも何度か拙稿(注12)で言及してきましたが、2017年6月の参議院外交防衛委員会において、当時の稲田朋美防衛大臣が「普天間飛行場の返還条件(注13)について調整がつかなければ普天間飛行場の返還がなされないことになる」と答弁しています(注14)。その後すぐに「防衛省としては、そのようなことがないよう返還条件が満たされ、普天間飛行場の返還の実現の支障とならないように対応をしていく考えである」旨を付け加えていますが、日本政府が「辺野古に新たな基地が完成しても米国の意向次第で普天間が返還されない可能性があること」を公の場で認めていることに変わりはありません。
普天間飛行場の返還条件(8項目)のうち、焦点となるのは「普天間飛行場代替施設では確保されない長い滑走路を用いた活動のための緊急時における民間施設の使用の改善」であり、防衛省のホームページには、その進捗状況について「緊急時において民間航空機、自衛隊機及び米軍機による飛行場の利用ニーズが増大し錯綜する可能性があることから、その利用調整を行うための必要な法的な枠組みは既に整えられています」と記載されています。
日本政府は「利用調整のための法的枠組みを整えた」ことをもって「普天間飛行場の返還条件が満たされている」と主張しているのだと思われますが、現時点で整えられているのは、あくまでも「日米間で利用調整を行うために必要な法的枠組み」でしかありません。日米間で具体的な調整を行う段階で、米国側が日本政府に対して「緊急時に(米軍が自由に活動するための)民間施設の使用について十分な改善がなされていない」「返還条件が満たされていない」と強弁して普天間飛行場の返還を拒絶する余地が残されていると解釈することができるのです。
『表現者クライテリオン』の編集委員である柴山桂太氏が、沖縄シンポジウム直後のメルマガ(注15)で、稲田大臣の答弁について次のように論じています。
これは一体何なのか。辺野古の埋立を認めたのは、普天間を返還してもらうためではなかったのか。であるなら、米側がさまざまな条件をつけてきたとしても、断固として受け入れないと答弁するのが筋ではないのか。
ところが大臣は、「相手があることなので」と、まるで返還が決まった事実ではないかのような答弁を繰り返しています。おそらく、これが政府の本音なのでしょう。これでは、政府はいったい誰の味方なのか、と批判されて仕方ありません。
米国側からすれば、こんなに楽な話はありません。辺野古基地の建設が済んでも、緊急避難用の滑走路がないと言えば、日本政府が新たに作ってくれるかもしれない。普天間返還を先延ばしにすることで、いくらでも見返りを引き出すことができる。日本が弱気な姿勢を続ける限り、米国がそう足元を見てきても何ら不思議ではありません。
国内に外国軍の基地や軍隊が置かれたままというのは主権国家として恥ずべきことですが、その外国軍が活動しやすいようお金や基地をさらに提供し続けるというのは、もっと恥ずべき事態です。この当たり前の感覚が失われたところに、今の日本の体たらくがあります。
残念ながら、岸田政権が頻りにアピールしている日本政府の「聞く力」と「決断し実行する力」は、沖縄県民を含む国民の声に対しては機能不全を起こしているようなのですが、「沖縄の基地問題」に関わる米国からの要請や要望に対しては非常に効率よく機能的に働いているように思われます。
改めて言うまでもなく、私自身はこのまま辺野古の基地建設が進むことを望んでいる訳ではないのですが、仮定の話として、将来、辺野古の基地が完成して米軍が使用を開始したにもかかわらず、米国が「返還条件が満たされていないから普天間飛行場は返還できない」と言ってきたときに、米国に対して日本政府が「普天間を返せ」と毅然たる態度を取る姿を想像することができません。
「沖縄の基地問題」の本質は我が国の「防衛・安全保障の問題」であり、本来であれば、日本国民全てが当事者意識を持たなければならない問題です。しかし残念ながら、現状においては、沖縄から遠く離れている本土で暮らす大多数の日本国民にとって「沖縄の基地問題」は他人事でしかありません。
日本人の多くが「沖縄の基地問題」に全く関心がなく、たとえ多少の関心を持っていたとしても「辺野古が唯一の解決策である」「一日も早い普天間の危険性の除去のためには辺野古以外の選択肢はあり得ない」という政府が発信する言説(嘘話)を疑うことなく信じていて、「政府が負担軽減になると言っているのに、沖縄の人達が普天間飛行場の辺野古移設に反対していることは理解できない」「沖縄の人達は日米同盟や日米安全保障条約の重要性をわかっていない」「沖縄の言論やマスメディアは非現実的な反戦平和主義の思想家や運動家たちに支配されている」などと思っている人々が大多数を占めているであろうことは想像に難くありません。
「沖縄の基地問題」に関して、政府の言説(嘘話)を疑うことがない多くの日本国民が想像する「沖縄の未来」は―実際のところは、大多数の日本国民が想像することさえしないのであろうとは思うのですが―「普天間飛行場の辺野古移設が実現して、少なからず沖縄の人達の負担が軽減されている」というものなのではないでしょうか。しかしながら、現在、沖縄に―そして我が国に突き付けられている「近未来予想図」は「辺野古の新基地が完成しても普天間飛行場が返還されることはなく、両基地を米軍が自由に使い続けている」という、より米国への従属度が増した「半独立」の状態から抜け出すことが出来ずにいる姿でしかないのです。
「普天間飛行場の辺野古移設」に反対している人達の中に、沖縄を含む我が国が置かれた地政学的な現実に真摯に向き合うことなく、平和主義に基づいて語られる「沖縄から全ての軍事基地を無くすことさえできれば平和で豊かな沖縄を実現できる」という「夢物語」を信じている人々が多く含まれているであろうことを否定することは出来ません。
しかしその一方で、私自身がその1人であるのですが、「普天間飛行場の辺野古移設」を推し進めることが、防衛・安全保障の側面で我が国の米国への従属と依存をより強固なものとすることに繋がり、我が国の「半独立」の状態を永続化し、独立国家としての「日本のあるべき姿」から遠ざかる途であると思慮して反対している人間がいるということも紛れもない事実なのです。
「憂国忌」が近づいているからなのか、繰り返し三島由紀夫の言葉が頭に浮かんできます。
このまま行つたら「日本」はなくなつてしまうのではないかといふ感を日ましに深くする。日本はなくなつて、その代はりに、無機的な、からつぽな、ニュートラルな、中間色の、富裕な、抜目がない、或る経済的大国が極東の一角に残るのであらう。それでもいいと思つてゐる人たちと、私は口をきく気にもなれなくなつてゐるのである。— 三島由紀夫「果たし得てゐない約束――私の中の二十五年」(注16)
沖縄返還とは何か? 本土の防衛責任とは何か? アメリカは真の日本の自主的軍隊が日本の国土を守ることを喜ばないのは自明である。あと二年の内に自主性を回復せねば、左派のいふ如く、自衛隊は永遠にアメリカの傭兵として終るであらう。— 三島由紀夫「檄」(注17)
いま一度、より多くの日本国民に「沖縄の基地問題」が決して沖縄だけの問題でもなく、全ての日本国民にとって他人事ではなく、当事者として関わらざるを得ない我が国の「防衛・安全保障の問題」であることを認識していただき、いま政府が推し進めようとしている「普天間飛行場の辺野古移設」―辺野古の新基地が完成したとしても普天間が返還されない蓋然性が高い―が、我が国にとって「独立国家に相応しい防衛・安全保障体制」の構築に繋がる途であるのか、それとも米国に依存し続ける「半独立」の状態を永続化することに繋がる愚挙であるのか、ということについて考えてみていただきたいと願いつつ筆を置きたいと思います。
————————–
(注1) 表現者クライテリオン・沖縄シンポジウム「沖縄で考える保守思想」(2018年8月20日)で議論した内容については、特集「沖縄で考えるニッポン」(『表現者クライテリオン』第82号(2019年1月号)所収)及び下記のメールマガジンで読むことができます。
・表現者クライテリオン 2019年1月号(12月15日発売) | 表現者クライテリオン (the-criterion.jp)
・【藤井聡】「沖縄」からはじまる、日本の復活! | 表現者クライテリオン (the-criterion.jp)
・【柴山桂太】沖縄シンポジウムを終えて | 表現者クライテリオン (the-criterion.jp)
・【浜崎洋介】「辺境」から見えるもの――沖縄シンポジウムを終えて | 表現者クライテリオン (the-criterion.jp)
・【川端祐一郎】沖縄シンポジウムで話し足りなかったこと——基地建設による環境破壊について | 表現者クライテリオン (the-criterion.jp)
(注2) 那覇港湾施設 – Wikipedia
(注3) 辺野古の新基地「早くて2037年」「移設終わるまで普天間維持」米軍関係者が認識示す メディアワークショップで 沖縄 – 琉球新報デジタル (ryukyushimpo.jp)
・辺野古の軟弱地盤 在沖米軍の幹部も懸念「滑走路が沈む場所での基地建設は難しい」 普天間を維持したいかは「イエスだ」 | 沖縄タイムス+プラス (okinawatimes.co.jp)
・<社説>「普天間維持」発言 新基地の公益性破綻した – 琉球新報デジタル (ryukyushimpo.jp)
・【深掘り】米軍幹部が「普天間維持」に言及で波紋 辺野古移設は「機能低下」認める 新基地完成「早くて2037年」発言 – 琉球新報デジタル (ryukyushimpo.jp)
・米軍担当者 辺野古移設“完成は早くても2037年”|NHK 沖縄県のニュース
・「辺野古完成は早くて2037年」在沖アメリカ軍幹部が言及 「軍事面だけで考えると普天間が良い」との認識も | 沖縄のニュース|RBC 琉球放送 (1ページ) (tbs.co.jp)
・米軍幹部「辺野古完成は2037年以降」/「軟弱地盤」懸念も語る – QAB NEWS Headline
・辺野古完成は2037年 軍事的には普天間が優位 在沖米軍の幹部発言に垣間見える本音 | OKITIVE (otv.co.jp)
(注4) 現在進められている辺野古の基地建設は、2013年12月に仲井真弘多沖縄県知事(当時)が「(国の環境保全策は)現段階で考えられる保全措置が取られており基準に適合している」と判断して埋め立て申請を承認したことを根拠としています。防衛局が県に提出した申請書では「長期間にわたって圧密沈下する軟弱な粘性土層は確認されていない」「地盤に大きな問題はない」と説明し、設置する護岸の種類、工法なども地盤に問題がないことを前提とする内容で工期は5年、総事業費は3,500億円と想定されていました。
しかしながら、防衛局が(仲井真知事が埋め立て申請を承認した後の)2014年以降に実施したボーリング調査で大浦湾側に広範囲にわたる軟弱地盤が確認され、防衛省は2019年12月25日の技術検討会において、軟弱地盤への対応などのために総事業費が当初想定されていた3,500億円の約2.7倍の約9,300億円に膨らみ、米軍に施設を提供し事業が完了するまでに必要な工期が12年(埋め立てなど改良工事に要する9年3か月を含む)に延びるとの試算を明らかにしています。
先般、共同通信が情報公開請求で防衛局と委託業者が2007年にまとめた報告書を入手したことが報道されました。同報告書では、辺野古周辺の海域に「軟弱な沖積層が広く、厚く分布する」との見解を示す一方で、大浦湾側の地質構造を把握するには依然データが少ないことなどから「設計・施工には沖積層の分布状況の精度向上と性状把握が必要」と指摘しており、具体的には、追加のボーリング調査で「今回の探査結果を検証・修正」するほか、採取した土の強度などを詳しく評価し「設計・施工に必要な基礎資料を提供する必要がある」と記しています。
防衛局は2007年の当該報告書が「必要である」と指摘していた追加調査を行うことなく埋め立ての申請をして沖縄県知事からの承認を得ており、政府が「承認を得るためには不都合な調査結果」を「意図的に隠蔽」して、必要な追加調査をあえて事前に実施することなく埋め立て申請を行ったとの疑念が持たれています。
防衛局のボーリング調査報告書で、大浦湾の地盤が「マヨネーズ」並みの軟弱さであるとの調査結果が示されています。地盤改良が必要な海域は埋め立て区域の半分以上に当たる73haもの広大な面積に及び、約7万本の杭を打ち込む予定で、深い所では海面から約90mの水深に達しており、辺野古の埋め立て工事が国内では前例のない難工事となることが確実視されています。しかも、技術検討会において工事完了後の地盤沈下の懸念も示されており、飛行場を維持・運営していく上では「埋め立て後の沈下が許容範囲を超えた場合のシナリオを考えておかなければならない」との指摘もなされています。
当該工事に着手するためには計画変更に関する沖縄県の承認が必要であり、技術検討会の試算で示された工期は沖縄県知事の承認が得られた時点から起算するものです。現在に至るまで大浦湾側の工事実施に必要となる防衛局が提出した設計変更申請を沖縄県が承認しておらず、国と沖縄県との間で法廷闘争が繰り広げられています。
・辺野古、埋め立て申請前に軟弱層の存在把握(共同通信) – Yahoo!ニュース
・辺野古の軟弱地層、事前に把握 沖縄防衛局、07年報告書:東京新聞 TOKYO Web (tokyo-np.co.jp)
・97年調査で存在把握か 政府、19年まで軟弱地盤認めず – 琉球新報デジタル (ryukyushimpo.jp)
・【深掘り】揺らぐ工事の正当性 辺野古の軟弱地盤“隠し” 政府、2007年に認識も調査後回し 元知事の「承認」に固執 – 琉球新報デジタル (ryukyushimpo.jp)
・<社説>軟弱地盤 申請前認識 沖縄欺く行為許されぬ – 琉球新報デジタル (ryukyushimpo.jp)
・国申請 揺らぐ信頼性 「承認判断に影響」指摘も 辺野古軟弱地盤 07年把握 | 沖縄タイムス+プラス (okinawatimes.co.jp)
・[社説]軟弱地盤07年把握 隠蔽疑い国会でただせ | 社説 | 沖縄タイムス+プラス (okinawatimes.co.jp)
・拙稿「『沖縄の基地問題』にまつわる嘘話」『表現者クライテリオン』89号(2020年3月号)
(注5) 普天間飛行場「全面返還を実現」 官房長官が言明 米軍幹部の発言受け – 琉球新報デジタル (ryukyushimpo.jp)
・「固定化避けるため辺野古が唯一」 木原防衛相、米側と確認と強調 – 琉球新報デジタル (ryukyushimpo.jp)
・普天間継続「許されぬ」 在沖米軍幹部発言 県庁内に波紋 国「固定化あり得ぬ」 | 沖縄タイムス+プラス (okinawatimes.co.jp)
(注6) 沖縄の副知事「米軍が正直に思っていることだろう」 在沖縄米軍幹部、新基地完成後も普天間飛行場の維持を希望と発言 沖縄の基地負担、構造的差別と批判 | 沖縄タイムス+プラス (okinawatimes.co.jp)
・玉城デニー知事「普天間の運用を速やかに停止すべきだ」 機能維持を望む米軍幹部の発言受け 新基地建設中止を求める | 沖縄タイムス+プラス (okinawatimes.co.jp)
・ 基地機能維持 米軍の本音 野添文彬准教授 沖国大(日本外交史) | 沖縄タイムス+プラス (okinawatimes.co.jp)
(注7) 【深掘り】米軍幹部が「普天間維持」に言及で波紋 辺野古移設は「機能低下」認める 新基地完成「早くて2037年」発言 – 琉球新報デジタル (ryukyushimpo.jp)
・普天間継続「許されぬ」 在沖米軍幹部発言 県庁内に波紋 国「固定化あり得ぬ」 | 沖縄タイムス+プラス (okinawatimes.co.jp)
(注8) 拙稿「『沖縄の基地問題』にまつわる嘘話」『表現者クライテリオン』89号(2020年3月号)及び「沖縄から考える『四月二十八日』と『五月十五日』」『表現者クライテリオン』102号(2022年5月号)
(注9) 『ミステリと言う勿れ』と『羅生門』を観て考える ―沖縄「基地問題」における「真実」と「事実」― | 表現者クライテリオン (the-criterion.jp)
(注10) 普天間移設先「沖縄と言っていない」 モンデール元駐日大使、日本が決定と強調 – 琉球新報デジタル (ryukyushimpo.jp)
(注11) ロバート・D・エルドリッヂ 『オキナワ論―在沖縄海兵隊元幹部の告白―』 | 新潮社 (shinchosha.co.jp)
・だれが沖縄を殺すのか | ロバート・D・エルドリッヂ著 | 書籍 | PHP研究所
・ロバート・D・エルドリッヂ「日米関係における今日の『沖縄問題』-普天間基地の辺野古移設をめぐって」『表現者クライテリオン』85号(2019年7月号)
表現者クライテリオン 2019年7月号(6月14日発売) | 表現者クライテリオン (the-criterion.jp)
(注12) 拙稿「『沖縄の基地問題』にまつわる嘘話」『表現者クライテリオン』89号(2020年3月号)及び「沖縄から考える『四月二十八日』と『五月十五日』」『表現者クライテリオン』102号(2022年5月号)
(注13) 防衛省・自衛隊:普天間飛行場代替施設について (mod.go.jp)
(注14) 第193回国会 参議院 外交防衛委員会 第24号 平成29年6月6日 | テキスト表示 | 国会会議録検索システム (ndl.go.jp)
・稲田6/15(辺野古をつくっても)「返還条件が整わなければ、普天間返還されない」6/15参院・外交防衛委員会 藤田幸久の質疑に – YouTube
(注15) 【柴山桂太】沖縄シンポジウムを終えて | 表現者クライテリオン (the-criterion.jp)
(注16) 果たし得ていない約束―私の中の二十五年 – Wikipedia
(注17) 檄 (三島由紀夫) – Wikipedia
(藤原昌樹)
〈編集部より〉
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