今月から月に1回程度で本メルマガに投稿させて頂くことになりました。
関西学院大学の白川俊介と申します。
私は現在、大学よりサバティカルを頂き、日本を離れ、英国はエディンバラ大学に客員研究員として籍を置いています。エディンバラには2年ほど滞在する予定ですが、エディンバラから見えること、エディンバラで生活して感じたことなどをお伝えして頂ければと思っています。よろしくお願いいたします。
さて、現在、ブレグジットの喧騒のなかで大いに揺れている英国ですが、スコットランドの雰囲気は、ロンドンとはちょっと違っているように思います。というのも、スコットランドにとって、ブレグジットの問題は、スコットランドの英国からの独立とセットになっているからです。
たとえば、スコットランド自治政府の首相であり、スコットランド国民党(SNP)の党首でもあるニコラ・スタージョンは少し前に、「ブレグジットに反対の人はスコットランドに移住すべきだ」と述べました。仮に英国がEUから離脱しても、スコットランドは英国から独立したうえでEUに残留(加盟)するからです。
スタージョンはスコットランド独立の是非を問う住民投票の再度の実施を目指しているわけですが(前回は2014年に行われた)、スタージョンにしてみれば、ブレグジットでウェストミンスターが大いに揺れているのを好機とみなして、なんとか住民投票実施の約束を政府から取りつけたいのです。
ただ、こういうスタージョンの思惑に反して、スコットランドの人々の多くは多少冷ややかというか、少し冷めた目で現状を見ているのではないかと感じます。
たとえば、一つの事実として、THE TIME紙のスコットランド版(4月28日)のアンケートによると、それなりに多くの人々が「独立に関する住民投票を別に近いうちに行わなくてもよい」と考えているようです。
実際に町の人の話を聞いてみても、何となくそのような雰囲気を感じます。私にはもうすぐ2歳になる子どもがいますが、しばしば子どもを連れて家の近くの公園(というか非常に広大な芝生の美しい広場なのですが)に遊びに行きます。そこでの世間話ついでに少し話を聞いたところでは、概ね、「どうしてこうなった・・・」というように当惑している、あるいはこの状況にやや「引いている」ように感じました。
国民投票/住民投票というのは、デモクラシーにおける重要な方法の1つではありますが、1つの論点について賛否を問うというのは、ともすれば、あいつは賛成らしいとか、こいつは反対らしいとかいうことで、しばしば住民のあいだの断層線を顕在化させるように働きます。それは、ある意味でコミュニティの疲弊につながるのではないでしょうか。
スコットランドの場合は、まず2014年に独立の是非を問う住民投票を経験しています。さらに、2016年にはブレグジットの賛否を問う国民投票を経験しています。スコットランドの人々にとっては、短期間に2つの断層線が顕在化したことになります。ですから、住民投票について、「え、またやるの?もうしばらくはいいよ・・・」という感じになるのもわからなくはなりません。場合によっては、ブレグジットの賛否を再度国民に問おうではないかという話もあるわけですから、「かんべんしてくれ・・・」という気分なのかもしれません。
このことは、ある種の直接民主政を行うことについて大いに考えさせられます。デモクラシーにおいて、「民意」というのは極めて重要な意味を持ちますし、国民/住民にとってクリティカルな問題について、「民意」を直接問うというのは、大変重要なことです。しかしながら、それが短期間に立てつづけに行われれば、政治社会にとってはややネガティブな影響もあるということなのかもしれません。
近年、関西でも大阪都構想の是非を問う住民投票を再び行うという話になりつつありますし、あまり他人事には感じません。
もっともこれはあくまでエディンバラでの印象です。エディンバラは、非常に「コスモポリタン」というか、「リベラル」な都市のように思います。観光客も多いですし、学生も多いので、非常に国際色豊かです。町中ではスペイン語、フランス語、アラビア語、中国語など様々な言語が聞こえてくる一方で、いわゆるスコットランド訛りの英語というのは、実はまだあまり耳にしたことがありません。これがもう少し、中部や北部の「保守的」な都市に行けば、まただいぶ雰囲気が違うのではないかと思います。実際に、たとえばグラスゴーとエディンバラでではだいぶ違うようなので、独立やブレグジットについての人々の空気感もまた異なってくるのかもしれません。
滞在期間中にスコットランドの諸都市を回って、いろいろと感じたことをお伝えできればよいなと思います。
来週には欧州議会議員選挙も実施されます。スコットランドではどのような結果になるのか。その動向にも注目したいと思います。
それでは、このあたりで。
Chi mi a-rithist thu!
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