『表現者criterion』メールマガジン

【川端祐一郎】「マクドナルド炎上」に陥る前に

From 川端 祐一郎(京都大学大学院助教) 

 パリ市内でメーデーの行進の一部が暴徒化したという報道が、一昨日から昨日にかけてありました。数万人の労働者がマクロン大統領の公共部門改革に反対するデモを行っていたところへ、「ブラック・ブロック・アナーキスト」と呼ばれる、フードで顔をかくした黒ずくめの極左無政府主義者が1200名程度まじっていたようです。瓶を投げたりバットを振り回したりして暴れまわり、マクドナルドや自動車販売店に放火したりしていて、200人以上が逮捕され、昨日の時点でも100人前後が勾留中とのことです。

 私の勤務している研究室からフランスに留学している学生がいるので、「おいおい大丈夫か」と連絡を取ってみたところ、彼がいるのはパリから300km以上離れたレンヌという街で、暴動に巻き込まれるようなことはあり得ないようです。学生の留学先もハッキリ覚えていないのは教員としてまずいなと反省したのですが(笑)、この「ブラック・ブロック」の騒動とは別に、フランスではここのところマクロン政権の教育改革への反対運動が全国的に起きていて、彼が居るレンヌの大学でも学生が大学を占拠しているようです。

 当初は数十名程度の学生が集って騒いでいるだけだったのが、4月下旬には突然、2千人、5千人規模の集会に発展し、大学は封鎖状態にあるとのこと。他にも同様の大学が多数あるそうです。これまでフランスではバカロレアと呼ばれる資格を取得しさえすれば大学には概ね自由に入学することができたらしいですが、大学進学率の上昇や予算不足によって定員オーバーが頻発し、マクロン大統領が「高校までの成績等による競争的選抜を促す」という改革を進めています。これに対し、成績での選抜を強化すると、幼い頃から学習環境が整っていた裕福な家庭の子供が有利になるとか、高校教師の個人的な好みや差別意識が反映されてしまうといった理由での反対運動が起きています。

 またそれとは別に、フランスではこの3月頃から、交通機関や病院の職員、教師などの労働者が大規模なストライキを実施していて、日によってはパリ発着のフライトの3分の1が運休になったり、鉄道がほとんど止まってしまったりしているとの報道が出ていますね。これはマクロン大統領が去年から進めている公共部門の改革に反対するものです。マクロン大統領は公共部門の雇用を5年間で12万人削減するとし、さらに成果主義的な賃金体系も導入するのだと主張しています。

 ここ数ヶ月のフランスの社会運動を、1968年の「5月危機」と比較するような報道も見かけましたが、現在のところ数千人から数万人規模の運動のようなので、それはさすがに大げさな比較でしょう(1968年以外にもフランスでは、数十万人、数百万人を動員する反政府運動が何度か起きている)。ただ、新自由主義路線を取るマクロン大統領の改革が、フランス社会の「分断」を深刻化させているのだなぁという認識を持っておくことと、これは多かれ少なかれ先進各国に共通する現象であると見ておくことは、我々にとっても大事だと思います。

 日経新聞が翻訳しているフィナンシャル・タイムズの記事が、マクロン政権の改革路線を手短にこう表現していました。
 「マクロン氏にとって危険なのは、時代とずれた指導者になりかねないことだ。折しも『ネオリベラリズム(新自由主義)』がかつてないほど不人気なときに、マクロン氏はフランス国内でリベラルな経済改革を推進している。また、EU全土で欧州懐疑主義が高まっているときに、親欧州をうたい、保護主義と国家主義が台頭しているときに、グローバリストにして国際主義者だ」

 まさにその通りです。ただ、上の記事はその姿勢を「立派」だと書いているのですが、それは分断された社会の片側、つまりグローバル資本主義の恩恵にあずかる側からみて立派だという意味で、労働者にとってありがたい話ではありません。一昨年の大統領選では「中道のマクロン氏」と報道されていましたが、それは古い分類でいう右翼や左翼ではないという意味であって、何のことはない、現代的な対立軸においては明確に片側の代表者なのです。その大統領選の一次投票では5名の候補者のうち4名の票が拮抗していて、マクロン支持が特に大きかったわけでもなく、決選投票で「ルペンはちょっと…」という票がマクロンに流れたに過ぎません。

 日本では「12万人のクビを切るぞ」というほどのあからさまな措置が行われているわけではありませんが、ここ20年の大きな流れは似たようなもので、労働者の利益は損なわれ続けてきたと言えます。また今国会では見送りになりましたが、この間まで行われていた「裁量労働制」の議論も、諸説あるとは言え基本的には労働者の賃金抑制の手段として活用され得るものでしょう。消費増税というのも、消費税は逆進性の高い(つまり低所得層にとって不利な)税制ですから、労働者に対する重荷となります。

 日本人は今のところ、こういう社会的分断に対しては鈍感であるように思えます。日本ではまだ欧米先進諸国ほど深刻な分断が生じているわけではない、という事情もあるのでしょう。労働者の利益を代表するというよりは、「安倍やめろ」といった党派性の強いデモが行われている程度ですね。しかし、分断を促進する方向の政策が次々に採られてきているのも確かであって、黒ずくめの集団がマクドナルドに火を放つような事態に陥る前に、他国の出来事をよく観察・解釈して、路線を改めたほうがいいように思えます。

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