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【川端祐一郎】東京一極集中と日本の小国化

From 川端 祐一郎(京都大学大学院助教) 

札幌シンポジウムでも話題になりましたが、日本における東京一極集中というのは凄まじいものがあります。国連による都市圏の定義にしたがって世銀が算出している「総人口に占める最大都市圏の人口」のデータをみると、G20の中では1位がアルゼンチンの約35%、2位が日本(東京圏:1都3県)で約30%、3位がサウジアラビアの約20%ですが、20%を超えているのはこの3カ国だけで、例えば米・独・伊・中・露といった国々の集中度は10%未満です。しかも日本は、他の主要国と違って集中度が一貫して上昇し続けています。

一極集中に関する研究はたくさん行われているわけではないのですが、世界各国の人口一極集中度と他の指標の関係を分析したいくつかの研究によると、一つの傾向として「民主的」で「豊か」な国ほど一極集中度が低いと言われます。逆に言うと、一極集中度が高い国は「非民主的」で「貧しい」という傾向があるわけですが、例えば途上国が外国資本に頼って開発をする際に首都に投資が集中するようなケースや、軍事独裁政権が強権を振るっているケースを考えるとわかりやすいでしょう。

もちろんこれは全体的な傾向の話であって、中国やロシアの集中度が低いことや、日本が一応「豊かな民主主義国家」に分類されることを考えれば、他にも様々な要因が一極集中度を左右していることは分かります。ただ、最近の日本に関して言うと、20年に渡って経済成長が停滞するとともに、地方への投資が軽視され、低所得層を圧迫する政策が進められたりしているわけですから、見方によっては普通の一極集中国家、つまり「貧しくて非民主的な国家」に徐々に近づいているとも言えるのかもしれません。

日本の経済力の相対的な低下を如実に実感できる現象の一つが、外国人観光客の激増です。何年か前から日本製品の「爆買い」が話題になっていますが、長年に渡るデフレと円安の結果、外国人から見ると日本は「お買い得」な国になってしまったわけです。私は大阪に住んでいて、久しぶりに大阪を訪れた人がよく「大阪ってこんなに中国人観光客が多かったっけ?」と言っているのを聞きますが、2012年に800万人強だった訪日外国人数が昨年は3000万人弱ぐらいにまで増えており(参考ページ)、これは大阪に限らない全国的な現象です。

念のために言っておくと、訪日外国人の増加には政策的な要因もあり、過去10年ぐらいの間に中国等に対する短期滞在ビザの発給要件が段階的にかなり緩和されてきましたから、日本のデフレだけが原因とは思いません。しかし、「外国人のお客さんが増えたことだけが唯一の希望」といった話があちこちで聞かれるのも確かで、外国人の購買力に頼らなければならないというのは、やはり日本の小国化の兆候に他なりません。

札幌シンポジウムでは何人かの参加者の方が、中国系資本による北海道への投資の活発化を話題にされていました。土地の買い占めが進んでいるというのは昨年からよく話題になっていて、釧路を「北のシンガポール」のような位置づけにして、中国の国際戦略の拠点にしたいのだと中国の高官が発言したとの報道もありました。ちなみに、藤井編集長がよく魚釣りに出かけている奄美でも、中国系資本による土地の物色が始まっているという記事も見かけました。

これはそもそも規制が弱すぎるというのが第一の問題ですが、わざわざ受け入れのための勉強会を開いたりしているところをみても、現象としては日本の小国化を際立たせるものですね。現地には中国系資本の進出を歓迎する人も多いようで、それだけ経済的に疲弊しているということでしょう。ただ、どうも気になるのは、この問題に触れる際に「中国が危険な戦略をしかけてきている」というような論調が採られることが多いように思えることです。

中国はたしかに、純粋な民間投資のみならず一種の覇権主義的な国家戦略を進めていて、その典型が上記の北海道の記事でも言及されている「一帯一路構想」ですが、日本は一帯一路構想に含まれているような「外国からの投資なしには開発ができない国々」とは全く異なります。外国人による土地の大量取得が望ましくないのであれば、粛々と規制をすればよい。しかし問題は、地方の疲弊を放置しておいて外国からの投資も阻止するというのは、現地の人たちから見れば筋が通らないということです。

重要なのは日本政府が「国土の均衡ある発展」をもう一度国家戦略の中心に据え、インフラ整備をはじめとする地域の開発に本腰を入れることです。そうして東京一極集中状況を抑制するとともに、国全体の成長力を底上げし、外需に依存した「お買い得国家」から抜け出さなければなりません。というか、もともと「高くつく国家」だったのがここ20年で瞬く間に「お買い得国家」に転落したことを振り返って、国の舵取りが大幅に間違っていたのではないかとまずは反省すべきでしょう。

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