『表現者criterion』メールマガジン

【柴山桂太】一極集中の呪われた未来

From 柴山桂太(京都大学大学院准教授) 

先週木曜日のメルマガで、川端祐一郎さんが東京一極集中の問題を取り上げていました。私も、この問題には以前から関心を持っています。

川端さんがデータで示されているように、日本の東京都市圏への人口集中度は30%と、他の主要国と比較しても異様な高水準にあります。欧州ではフランス(パリ)の一極集中がよく取り上げられますが、それでも人口集中度は16%と、日本の半分ほどしかありません。

以前、私が調べたところでは、人口集中度とGDPの集中度は、どの国でもだいたい同じ数字になります。つまり日本は、人口とGDPの3割が東京都市圏に集まっており、しかもその比率は年々上昇しているのです。

開発途上国で一極集中が進むのは、まだ理解できます。発展を急ぐこれらの国では、少ない資本をまず首都などの特定都市に集中投下する必要があるからです。日本も高度成長期には、太平洋ベルト地帯に投資が集中しました。前回の東京オリンピックで、東海道新幹線や首都高速など、東京を中心としたインフラ網の整備が急速に進んだのは、よく知られている通りです。

高度成長の段階が終わり、安定成長期から低成長期へと以降した後も、東京の成長だけが続いています。日本全体で人口が減少しているにも関わらず、東京都市圏の人口だけが増え続けているということは、他の地域の人口減少が急速に進んでいるということです。

お陰で、東京はいまや世界有数の大都市になりました。人口も資本も、情報も知識も、企業の本社機能も東京に集まっている。以前、大阪のIT企業の社長に話を聞いたことがありますが、仕事の受注はほとんど東京なので、事実上の本社は東京にあると言っていました。名目上は東京以外の都市に本社を置いているが、実質的には東京が拠点という企業も多いことでしょう。

そのため、日本はいまや東京とそれ以外で分断されてしまった感があります。テレビをつけても番組は東京のグルメ情報ばかり。都議会の最大会派は「都民ファーストの会」ですが、この名前を最初に見た時はのけぞりました。都民ファーストということは、他地域はセカンドでいいということなのか。こういう恥知らずな政党名が普通に受け入れられてしまうのが、いまの東京の情報環境なのでしょう。他地域のことがまったく見えていないのです。

2020年の東京オリンピックで、東京へのインフラ投資はさらに進みます。このままだと、一極集中はさらに進んで行くことになるでしょう。日本経済はそのうち、「東京経済+α」になっていくのではないでしょうか。

論者によっては、東京一極集中は別に悪いことではないという人もいます。しかし、国家が一つの都市だけで支えられている構図が、健全とは思えません。東京には震災リスクがありますし、人口減少は確実に進みます。日本全体は発展していないのに、東京のみが肥大化していく状況は、私には国家が衰弱していることの現れと見えます。

そこで思い出すのがO・シュペングラーの『西洋の没落』です。あらゆる文化は、発展の果実を味わった後に衰滅に向かう。古代ギリシャ・ローマから引き出したこの歴史図式を、あらゆる文明の歴史に当てはめた異色の本ですが、その中に、都市を論じた章があります。

文化の初期段階では、都市はそれぞれの土地の固有性を反映している。その状況が一段落すると、今度は「世界都市」が現れる。都市の規模は拡大し、巨大建築が次々と立てられ、人口も吸い寄せられている。しかしシュペングラーは、それが「すべての大文化の生命過程の終末」だといいます。

「今や巨大都市は飽くことなく、いつでも新しい人間の流れを要求し、これをむさぼりくい、農村を吸い尽くし、とうとう自らほとんど住民のない荒野の真ん中で疲れ果て、そうして死ぬ。」(村松正俊訳)

古代ローマも、そのようにして農村の人口を吸い尽くし、文化の活力を失い、人口減少の果てに滅亡した、とシュペングラーは言います。ちなみに「世界都市」が肥大化する文化の最終段階になると、人々は技術と経済にしか関心を持てなくなり、芸術はただの騒々しい文化的刺激物でしかなくなり、デモクラシーはやがて完全に破壊されるといいますから、なかなか示唆的です。

古代の巨大遺跡から、われわれはつい文明の栄華を想像してしまいます。しかしシュペングラーによれば、「世界都市」に巨大建築が林立するようになるのは、国家が貨幣=資本の論理に飲み込まれ、文化を喪失し、衰滅に向かいつつあることの証拠だ、ということになる。この見方は、かなり説得力があるというべきです。

農村を吸い尽くし、地方都市を吸い尽くして巨大都市だけが肥大化していく。政治はその過程を止めるどころか、むしろ「新重商主義」とも言える政策の下で東京一極集中を後押ししている。その先に待っているのは国家の分断と人口のさらなる減少、文化の衰退と政治の混乱なのではないか。私には、そのように思われてなりません。

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