『表現者criterion』メールマガジン

【川端祐一郎】ブロックチェーン懐疑論について

From 川端 祐一郎(京都大学大学院助教) 

ビジネスマンで、ITや新商品開発のような部門に属している人は、何年か前から「ブロックチェーン」という技術の話をよく聞くようになったと思います。これはビットコインの仕組みの中核にあたる技術なのですが、ビットコインを始めとする仮想通貨の発展には限界があると見越してか、「ビットコインよりもブロックチェーンのほうが凄い発明なのだ。仮想通貨は、その初期の応用の一つに過ぎない」として、ブロックチェーン関連プロジェクトへの投資を進めましょうという主張がよく聞こえてきます。

ブロックチェーンは「インターネット以来の大発明」であり、「全てを変えてしまう」ほどの破壊的な影響力を持つ技術なのだとまで言う人もいます。しかし最近、ブロックチェーンの将来性について懐疑的な専門家の記事をいくつか読みまして(リンクは下のほうにまとめて貼っておきます)、ブロックチェーンは確かに私も面白いアイディアだと思うものの、今のところ懐疑論のほうに説得力があるのではないかと感じました。

ブロックチェーンは、誰かと取引や契約やコミュニケーションをしたいと思っている人がたくさんいて、しかしお互いに信頼することができず、しかも個々の参加者を超越した「信頼できる第三者」や「特権的な仲介者」の役割を担う主体が存在しないという場合に、どうやって取引等を安全に行うかという問題を解決する仕組みです。特に、「やり取りの正しい記録」を残すにはどうすればいいかを考えたもので、ビットコインの場合は、電子署名と呼ばれるデータの改ざん防止技術の他に、全記録の公開・くじ引き・多数決などをうまく組み合わせて解決しているのですが、ビットコイン方式以外にも少し異なる方法がいくつか提案されています。

通常のビジネスには「信頼できる第三者」に支えられたものがたくさんあります。例えばメルカリでモノを売買する時、買う側からすれば「代金を先に払っても、望んだ商品が届かなかったらどうしよう」という心配があり、売る側からすれば「商品を先に送っても、代金が払われなかったらどうしよう」という心配があります。この問題は、メルカリという「信頼できる第三者」が間に入って仲介することで解決されていて、この構造は多くの取引に見られますよね。広義には、法律と司法機関というものも、揉め事が起きたときにどちらが正しいかの裁定を下す「第三者」として機能しています。その「第三者」が実は信頼できないかも知れない、あるいは存在しないという場合に、どうすれば取引が継続的に可能になるかを考えたのがブロックチェーンです。

ブロックチェーン自体は面白いアイディアではあるのですが、ある批判者は、それは本質的に「信頼と時間のトレードオフ」によって成り立っていて(これには異論もあるでしょうが)、処理に長時間を要する仕組みばかりになっており、とても不便であると言います。実際、ビットコインでは1回の決済に数十分かかりますし、ブロックチェーンを用いたSNSのようなアプリでも、投稿が反映されるのに数分かかるようです。処理時間は今後次第に改善していくにしても、処理手数料もかかるのが一般的で、この手数料はなくならないだろうとも指摘されています。

また別の批判者が言うには、「スマートコントラクト」などブロックチェーンの応用例として紹介される事例をよく見てみると、じつはブロックチェーンを使う必然性が特になく、単に「電子化」「自動化」されたことのメリットが大きいだけで、既存の技術でも目的は達せられるし、むしろその方が高性能で安定している場合がほとんどだとのことです。しかもさらによく見ると、開発の過程で工夫を重ねた結果として「信頼できる第三者」が直接・間接に導入されている場合もあり、だったら既存の仕組みでいいという話になります。

ブロックチェーンそのものが、新発明というよりは、既存の技術のツールボックスから「特定の状況でうまく機能するツールの組み合わせ」を見つけただけだという見解もあります。状況が少し異なれば要素技術の組み合わせも変わるのであり、その結果として例えば「信頼できる第三者」が再導入されたりするのであれば、それはもはや当初の意味でのブロックチェーンとは別物です。つまり、「ブロックチェーン」という革命的な技術領域があると考える必要がなく、単にデータ管理の新たな工夫事例が増えただけと言うべきなのかも知れないのです。

実際、日本の政府や金融機関が提案しているブロックチェーン活用の実証プロジェクトなどを見てみても、「プライベートチェーン」と言って、信頼できる企業や公的機関の管理下でのデータ処理方法の議論が多くなっています。その方向でブロックチェーン方式が効率的に機能するケースは何かしらあるように思いますが、それはすでに「信頼できる第三者を不要にする」というほどの革命感は無い話であって、単に処理速度・機密性・冗長性・否認防止・低コストなどを追求するという、日常的な努力の一部という印象を受けます。

懐疑論者の一人は、「たくさんのブロックチェーン信奉者と話してきたのだが、『何か解決したい問題があって、それを解決するベストな方法がブロックチェーンだと判明し、その結果として信奉者になった』という人は存在しなかった」とまで言っています。要するに今は、「ブロックチェーンは面白いアイディアだ」と魅力を感じた技術者と、「ビットコイン以後の投機ネタを見つけたい」と思っている投資家が、「何かいい応用先はないものか」と探し回っている状況なのでしょう。その段階で、革命だの何だのと騒ぐのは大げさですよね。

思想誌のメルマガで技術の論評をするのは場違いなのですが、なぜこんな妙な状況になっているのかを考えることには意味があると思います。これも批判者の一人が言っていることなのですが、ブロックチェーンの有望な応用先がなかなか見つからないのは、結局のところ「信頼できる第三者」や「特権的な仲介者」に頼ったシステムが、多くの場合にとても良く機能するという単純な事実のせいだということです。そのため、ブロックチェーンの応用先を探すつもりが、結局は「信頼」を活用するモデルに行き着いたりしているわけです。

企業・政府・司法機関・NPO・業界団体といった組織を、多くの人が信頼していて、その信頼関係が我々の社会生活や経済活動に大きな力をもたらしています。その力をどうしても利用したくない(たとえばマネーロンダリングのような)場合にはビットコインのようなものが有用でしょうが、そのような状況は限られています。「仮想通貨が全面普及すれば中央銀行が不要になる。通貨発行量に限界があるのでインフレも起きない」といった主張を見かけることもありますが、それは社会の進歩ではなく退歩ではないか、と考えることが重要だと思います。

[参考記事]
What I Learned After Attending 15 Blockchain Events
Ten years in, nobody has come up with a use for blockchain
Blockchain is not only crappy technology but a bad vision for the future
Clemens Vasters氏の一連のツイート

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