二見 龍 著 『 自衛隊は市街戦を戦えるか』 新潮社/2020年8月刊 についての書評です。
書評者:篠崎奏平
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二〇一四年のロシア軍によるウクライナ侵略は、戦争形態の変化という点において衝撃的だった。ロシア軍はサイバー攻撃を駆使しながら敵軍を錯綜させ、その隙に一挙に都市部へ押し寄せて占拠してしまったのである。
それは消耗型の戦闘という従来の戦争のイメージを覆すものであった。二見によればこれからの時代、軍には小規模な市街戦において力を発揮できることが求められるという。
では日本の自衛隊はこの戦争形態の変化に適応できているのだろうか。残念ながらそうとは言えない。自衛隊内には大型の戦闘に比べ、小規模な市街戦は簡単なものであると見做す風潮が蔓延しているのである。ところが現実には市街戦は常に民間人を巻き込む危険性に配慮しながら近距離の敵との撃ち合いを制さなければならず、卓越した戦闘技術を要すものであることを二見は明かしている。
自衛隊が時代に適応できない理由は、平和なぬるま湯を好む体質が染み付いてしまったことにある。歩兵戦を有利に進めることを可能とするダットサイトやスコープの導入は遅れ、二年に一度上官に訓練の成果を披露するために行われる。
訓練検閲においては良い点数を取りやすいよう、派手でかつシナリオの用意された大型の消耗戦が採用されることになる。さらに訓練検閲において隊員は戦死したとしても数時間で復活することができるという不可思議なルールが存在しているために、生死を争う戦闘の現実感は最早そこには存在していないのである。現在の自衛隊が世界水準の戦闘力に食らいつこうとする意識を持っているとは言い難いのが現状だ。彼らにとっては現実よりも、点数の方が重要なのである。(続く)
(『表現者クライテリオン』2021年1月号より)
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