テーオドル・アドルノ 著 『新たな極右主義の諸側面』 堀之内出版/2020年12月刊 の書評です。
書評者:前田龍之祐
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この書評は『表現者クライテリオン』2021年5月号に掲載されています。
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以下内容です。
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一九六四年に創設された右派政党であるドイツ国民民主党(NPD)はその五年後の連邦議会選挙で敗北を喫するまで、二万八千人もの党員を抱える一大勢力としてドイツ国民の衆目を集めていた。
終戦後、ナチズムへの反省として「過去の克服」を掲げていたドイツはしかし、一九四九年に実施された旧ナチ党員の公職復帰を契機に極右主義の潜在的可能性が若者を中心に囁かれるようになる。
本書はそのような当時の状況下で、ドイツの思想家テーオドル・アドルノがウィーンの学生同盟からの招待を受けて一九六七年に行った講演録である。
現在のドイツでも二〇一三年のAfDの結党や二〇一四年に激化した反イスラム運動などの時局もあって、分断を助長する右傾化の問題は深く憂慮されているが、
半世紀以上の時を経て本書が出版に至り更には万単位の売れ行きを見せたというのも、現状を映す鏡としてその言葉が読まれているからにほかならない。
まずアドルノは決して極右主義を取るに足らない存在とは考えていなかった。
彼の眼目はその成立過程を明らかにすることであり、今日の事情に照らしてとりわけ興味深いのは、強国間で同盟が結ばれていく時代にかえってナショナリズムが求められるという指摘だろう。
この統一意識は分裂に対する不安感をその源泉としているが、言い換えればそれは「人はなにか支えとなるものを望」む態度の現れとも言えるのであり、だからこそこうした運動を低く見積ることは「政治的視座が完全に抜け落ちている」とアドルノは断言する。
では、アドルノは極右主義の実質をどこに見ていたのか。ひとことで言えばそれは「社会全体の目的なんてそもそも問題にせずに、総じて技術と手段の完全化に行き着く傾向」として要約できる。
将来の展望さえ見えない人々を煽動するプロパガンダはまさにその現れだが、重要なのは、こうした手段の絶対化は得てして「妄想のシステム」と結託する点だ。
「前もって割り振られた一連の敵」として歪に思い描かれた共産主義などの「亡霊」がいまなお一定の恐怖を与えているのは、「倒錯した実証主義」で裏付けられた妄想の体系が強固なことを示している。
見かけ上合理的に形成されている意味のまとまりが、しかし恣意的に結ばれているにすぎないものを妄想と呼ぶのだとすれば、「妄想のシステムと技術的な完全性との奇妙な統一」は陰謀論の支配をも招き寄せていくことになるだろう。
最後にアドルノは言う、極右主義に対して「理性の決定的な力で、まさに非イデオロギー的な真理で向き合わねばならない」と。しかし、見過ごせないのはむしろ「アジテーターに対して理性的に訴えかけても意味がない」と諦念を滲ませる彼の姿だろう。
とすれば、本書で問われるべきは理性による訴えではなく、人々の理性と感情の溝を埋め合わせるための話法、すなわち語り口の努力についてではないだろうか。
(『表現者クライテリオン』2021年5月号より)
他の連載などは、『表現者クライテリオン』2021年5月号にて。
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