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【浜崎洋介】今、世間の空気は「優しさ」を全く失っている

浜崎洋介

浜崎洋介 (文芸批評家)

コメント : 1件

今回は『表現者クライテリオン』2021年5月号の掲載されている記事を特別に一部公開いたします。

公開するのは前回に引き続き、本誌編集部の浜崎洋介の記事です。

前回の記事も読む

表現者クライテリオン,コロナ,ポリコレ

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以下内容です

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たとえば、東京五輪・パラリンピック組織委員会の森喜朗元会長の「失言」(=女性がたくさん入っている理事会は時間がかかる)は、性差を問うべきではない公的な場所で、

しかし、性差に対する私的な印象を述べたという点では責めを負うべきでしょうが、彼を「女性蔑視者」「女性差別者」だと言って袋叩きにしようとする世間の風潮は、やはり行き過ぎています─。

 事実、「ポリコレ諸君」の匿名性、その「正しさ」を疑わない声高な態度によって、かつての幼い私の心がこわばってしまったように

─つまり、他者に対する自然な「心配り」や「優しさ」を発揮することができなくなってしまったように─、

今、世間の空気は、全くと言っていいほどに「優しさ」を失ってしまっているではありませんか。
これは「本当に正しいことなのか?」と、一人一人が胸に手を当てて考えてみるべきです。

「よい子」たちの過剰適応─「善と悪」の逆転について

 その点、「ポリコレ」の最大の問題は、「リベラリズム」という一つの見方に固着し、痙攣している「ポリコレ諸君」の心の問題(ルサンチマン)を超えて、実は、それが、より多くの人々の「あるがままの心」(生の自由な感受性)を殺してしまうという点にこそあるのかもしれません。

 たとえば、精神科医の高橋和巳氏は、「よい子」の観念によって虐待を受け続けた子供たちの「心」は、次第に「あるがままの自分」を感じ取ることができなくなってしまうのだと言います。

それを高橋氏は、「虐待されて育った子は『善と悪が逆』になっている」と表現しますが、そこにあるのは、次のような心理システムだと言われます。

 

「人は自分を主張して、自分の存在を確認する。
例えば、「お腹が空いたよ」、「眠いよ」、「あれが欲しいな」……が自己主張である。この世界に生れて初めての自己主張を認めてくれるのは「母親」である。
お腹が空いてギャーと泣いてお乳をもらい満足する。主張を受けとめてもらえると「自分はここにいていいんだ。歓迎されている」
と思える。その積み重ねの上に、私たちはこの世界に生きている「実感」、「存在感」を作り上げていく。

 虐待を受けて育つと、ずっと自己主張を封じられてしまうから、自分の存在を確認できなくなる。
周りの誰も自分を認めてくれないから、自分がいるのか、いないのかが分からない。〔中略〕

虐待を受けた子(人)が自分の存在を確認する唯一の方法は、自分を抑えることである。
自分は「我慢できているか」、我慢できていればよし、自分が「いる」ことになる。
我慢できていなければダメ、自分は「いてはいけない、いない」となる。」子は親を救うために「心の病」になる』ちくま文庫

 

つまり、「普通の子」であれば、〈内発的な欲望〉を他者に伝え、その思いを他者と共有することに「生きる喜び」や「善いこと」を感じ、その反対に、〈内発的な欲望〉を他者に伝えられず、その思いを共有できないことに「不快な思い」や「悪いこと」を見出します。

が、虐待されて育った子供たちの場合は、それが逆転してしまうのだと言うのです。

つまり、虐待は、子供(人)たちの心から、喜び(善)と、悲しみ(悪)とを見分ける力を、その「倫理」(エチカ─エートス─住み慣れた場所)の力を奪ってしまうのだということです。

私たちの心が「悪」に適応し切ってしまう前に

 というのも、子供にとっては、親に従うことが〈生き延びること〉である以上、目の前の親がどんなに「悪い親」であっても─暴力を振るい、食事を与えず、ネグレクトする親でも、あるいは、一ミリの合理性もない過剰自粛を国民に強い続ける無能な政府でも─、子供(国民)は、その親の価値基準に従うしかありません。

が、そうなれば、次第に「目の前の『悪い親』に耐えることが『善』であり、その逆に、耐えられずに逃げ出すことが『悪』と」なっていかざるを得ないでしょう。

こうして、虐待的環境に適応してしまった「よい子」たちは、次第に「悪に耐えることが『善』で、善を求めるのが『悪』である」といった感覚に侵されていってしまうことになるのです。

 そして、この心理システムが思春期を経て定着すると、「悪に耐えていると心は安定し、善を求めると不安になる。

期待できないものを期待するよりは、確実なものに耐えていたほうが不安は小さい」といった「生き方」が身についてしまうことになります。

 ところで、もう想像はつくと思いますが、この「善と悪」が逆転してしまった場所こそ、「虐待の連鎖」が生みだされる場所であると同時に、また、「ポリティカル・コレクトネス」と化したコロナ自粛によって人々の心が荒んでいってしまう場所なのです。

なぜなら、〈悪=悲しみ=虐待=過剰自粛〉に「適応」することで生き延びてきたと思い込んでいる人たちの多くは、将来、自分の子供や、身近な他者と接する際もまた、自分たちが身につけてきた価値観、

つまり、素直な感想を正直に言うことは「悪いこと」で、それを抑え込むことが「善いこと」だといった価値観で接するようになってしまうからです

 しかし、だからこそ私たちは、私たちの心が「悪」に適応し切ってしまう前に、自分自身の「生」の声にしかと耳を傾けておく必要があるのです

意識と無意識との間にある微妙なズレを看取しつつ、自分自身の〈内発的な欲望〉の在処を自覚し、かつ、それを他者に伝えていくための言葉、その〈回路=やり方〉を見出しておく必要があるのです。

そして、それはもちろん、私たちの外にある政治理念などで補うことはできません。

二十世紀の全体主義を経験した社会心理学者であるエーリッヒ・フロムは、「善を選ぶために自覚しなければならない」ものについて次のように書いていました…(続く)

(『表現者クライテリオン』2021年5月号より)

 

 

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コメント

  1. 村山三枝子 より:

    12月16日の討論で、 戦後 国体が変わって、天皇を孤独にさせた、、との意見を述べられていました。 しかし私の記憶では、平成の天皇などは戦前のこども時代には、帝王教育の必要から親から離されて生活したまに両親と会う、という日々であったと思います。戦後になって親子同居になり孤独からすくわれました。

    現天皇のこども時代から一般家庭同様の親子同居の形になりました。

    昔の様にしろとまではいわないまでも、皇族には身の上に自覚を持っていただく意味で、幼少期から折り目正しい厳しさが必要ではないかと思います。
    ふつう か、ふつう以下の 自由という野放し生活から問題がおきるのは当然かと
    思われます。

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