山本 健 著 『ヨーロッパ冷戦史 』 筑摩書房/2021年2月刊 の書評です。
書評者:篠崎奏平
『ヨーロッパ冷戦史 』の購入はこちら
この書評は『表現者クライテリオン』2021年5月号に掲載されています。
『表現者クライテリオン』では、毎号、様々な特集や連載を掲載しています。
最新号(2021年7月号)も、現在予約受付中です。
ご興味ありましたら、最新号とあわせて、ぜひ本誌を手に取ってみてください。
以下内容です。
ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー
本書はタイトルの示す通り、ヨーロッパという地に焦点を当ててまとめられた冷戦史である。
とはいえ、それは単なる歴史的出来事の羅列にとどまるものではない。
本書には、山本自身の言葉で言うところの「ヨーロッパ冷戦史とは『陣営』と『緊張緩和』の交錯の歴史である」という視点が通底しているのである。
ヨーロッパは第二次世界大戦に終止符が打たれると、実質的にソ連を代表に据えた共産主義国家たちによる東側陣営と、イギリスやフランスら資本主義国家による連帯をアメリカが援護する形で形成された西側陣営とによって分断されることになる。
東側陣営はワルシャワ条約機構を、西側はNATOをそれぞれ結成し、軍事的・経済的対立が深まっていったことは周知の通りであろう。
が一九五〇年代に入り、スターリンが死去するや状況は変貌することになる。東西陣営間において対話の機運が生まれたからである。
しかし共産主義と資本主義と、それぞれ相入れない思想のもとに国家を運営する双方の陣営間における隔たりは大きく、冷戦状況が長期化することも必然であった。
そのような状況から、ヨーロッパの国々において東西間の緊張緩和を志向しつつ、パワーバランスを適切な形に維持しようとする傾向が生まれ始める。
デタントとは単に緊張緩和であるという印象が強い。が、実のところそれはそれぞれの国家が自分の共同体をよりよく存続させる上で適切だとして採用した政策に他ならないのであった。
例えばヴィリー・ブラントによる東方政策はその典型と言えよう。
西ドイツは東西に分断されてしまったドイツを再統一することを目論んでおり、分断を認めないためにも東ドイツという国家の存在を承認しようとはしてこなかった。
しかし西ドイツにおいてブラント政権が発足すると、ついに彼は実質的に東ドイツの存在を承認するようになる。
それは無論ドイツ統一の夢を諦めたわけではなく、むしろ対話の機運を増やすことにより、長期的にドイツ統一のタイミングを淡々と見計らおうとするものであった。
冷戦におけるあらゆるヨーロッパ・デタントのエピソードが、つきつめれば様々な国家のコナトゥス(=生への意思)に基づいた政略的側面を備えていたことは本書を通して明らかである。
経済制裁や軍事的衝突をはじめとした国家間対立や、政略的デタントが常態的に起こり続けた冷戦期のヨーロッパ史は、国家間のコミュニケーションの手本として読むことすら可能である。
現在、確かに冷戦は過去のものとなった。
しかし、米露対立や中国という大国の台頭など、例をあげるまでもなく国家間対立は様々な場所でまだ存在している。
日本にとっても他人事ではありえない。
仮に中国や韓国といった他国相手に緊張緩和を望んだとしても、それは日本の自主独立のための政略でなければならないのだ。世界的に新たな秩序が形成されつつある現在、やはり近代国家の先輩であるヨーロッパ諸国に学ぶべきことは多いと言う他あるまい。
(『表現者クライテリオン』2021年5月号より)
他の連載等は『表現者クライテリオン』2021年5月号にて。
最新号(2021年7月号)現在予約受付中!!
本誌はその他、人と社会のあらゆる問題を様々なテーマに沿ってお届け。毎回読み応え抜群です!
気になった方はぜひ以下から本誌を購入してみてください!
『表現者クライテリオン』2021年7月号
「孫子のための「財政論」 中央銀行の政治学」
https://the-criterion.jp/backnumber/97_202107/
メールマガジンではいち早く記事更新やイベント情報をお届け!
無料で購読できます。
━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━
【お知らせ】
7/1 シンポジウム開催!
登壇者:桑原響子氏・佐藤優氏・伊藤貫氏・本誌編集長 藤井聡
日時:7/1(木) 18:30~
場所:星陵会館(永田町駅より徒歩3分)
皆様のご参加お待ちしております。
『月刊表現者』始動!
『表現者クライテリオン』定期購読者限定!!
6/30までの期間限定で100円で購読できます!
〇定期購読者はこちら
━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━
メルマガのバックナンバーはこちらで閲覧頂けます。
https://the-criterion.jp/category/mail-magazine/
雑誌『表現者クライテリオン』の定期購読はこちらから。
https://the-criterion.jp/subscription/
Twitter公式アカウントはこちらです。フォローお願いします。
https://twitter.com/h_criterion
その他『表現者クライテリオン』関連の情報は、下記サイトにて。
https://the-criterion.jp
ご感想&質問&お問合せ(『表現者クライテリオン』編集部)
info@the-criterion.jp
━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━
執筆者 :
CATEGORY :
NEW
2024.11.28
NEW
2024.11.28
2024.11.22
2024.11.21
2024.11.19
2024.11.18
2024.11.28
2023.12.20
2024.08.11
2024.11.18
2024.11.28
2018.09.06
2024.11.21
2024.11.22
2018.07.18
2024.11.14