今回は『表現者クライテリオン』2021年9月号の掲載されている対談を特別に一部公開いたします。
公開するのは、「日本人の死生観を問う」特集掲載、
和田秀樹先生×本誌編集長 藤井聡の対談です。
以下内容です。
興味がありましたら、ぜひ『表現者クライテリオン』2021年9月号を手に取ってみてください。
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藤井聡(以下藤井)▼
おおよその日本人が最後病院で死ぬってことはつまり今や、医学界は大半の日本人の死を看取る状況になっているわけです。
だから医学界では死生観についての議論もそれなりに続けられてて、その典型が八〇年代から九〇年代にかけてあった
「脳死問題」
を巡る議論だったと思うんですが、今日はそういう議論も見据えながら、いろいろとお伺いしたいと思っております。(中略)
和田秀樹(以下和田)▼
(中略)脳死が法制化された後、移植が積極的にやられているのかというと全くそうじゃないんです。
例えば年間の心臓移植が一〇件を超えた年がないくらいです。
結局、遺族は遺体に手をつけてほしくない、という気持ちが強いから、臓器移植についての合意がなかなか遺族から取れないわけです。
だから脳死を認めたら多くの命が助かるっていうのは幻想だったわけです。
和田▼ただ脳死というものが法制化されたことをきっかけに、治療打ち切りというものに関して真面目な議論が行われるようになったのは確かです。
例えば、そんな中で「尊厳死」という問題も出てきた。つまり、いつまで生かしておくかについての議論もされるようになったわけです。
ただ、「尊厳死」の議論で重要なのが、命を先延ばしにする治療をずっと続けて、死ぬ直前だけ尊厳死の議論をおもむろに始めても意味がない、という点。
例えば、今回のコロナで感じたのは、医学が進歩したおかげで、生きるために日本人は我慢させられることに慣れてきたんだなっていうことです。
藤井聡(以下藤井)▼
とおっしゃいますと?
和田▼例えば先生が高血圧と診断されたとしますよね。
高血圧だから好きなお酒もやめて、食事も塩分の少ない味気のないものにしてくださいねと。それで血圧を正常に下げるための薬を押し売りみたいなものだけど売られると。
そうしたときに、食べたいものも食べれない、お酒も飲めない、かつ高血圧の人は高めの時のほうが頭がシャキッとしていて、血圧が下がってくると少しぼんやりしてくるんです。そのぼんやりした状態を死ぬまで我慢しろってことですね。
藤井▼なるほど。
身体医学的なリスクは減るけれど、それと引き換えに、生きている意味そのものがどんどん失われていくということですね。それってまるで「コロナ自粛」みたいな話ですね。
和田▼そうですね。
例えば、普通なら寿命があと三十年だっていうところで、好きなものも食べたり飲んだりしないで健康に気を遣いながら血圧の薬を飲んでいけば、寿命が五年延びてあと三十五年生きられるとしたとしましょう。
じゃぁ、どっちがいいのかっていうと、前者で良いじゃないかっていう選択もあるはずですよね。
でも今の日本じゃ医者は基本的に後者を勧めるというか強制するんです。そして、死ぬ間際になって慌てて「尊厳死」を選びますかどうしますか、なんて問いかけたりする。
でも、そんなことを最後に選択させる以前の、多少寿命が短くてもいいから楽しく生きていくかどうかの選択のほうがずっと大切ですよね。
藤井▼細く長くより、太く短くのほうがいい、っていうのはすごく自然な考え方ですよね。
和田▼そうです。そのほうが本人のためというのもあるし、社会全体で考えても医療費の抑制にもなる。
でも今の日本人の死生観は、いつのまにか長生き至上主義になってしまっている。
で、医者はそんな長生き至上主義に乗っかって、何か悪いところがあったら薬を使って治せだとか、こういう節制をしろだとかっていう話になってくるんですね。
藤井▼しかも、私個人の経験で申し上げると、老人の面倒を見る家族の中には、その老人の幸せな人生を真剣に考えて節制しろとか言ってるというよりむしろ、
とりあえず「事なかれ主義」でとにかく医者の言うこと聞いて、飲み物、食べ物を辛抱しろ、っていう家族も多いように思います。
和田▼少しでも長生きしてほしいっていうことなんでしょうけど、その少しでも長生きしてほしいということが、日本の死生観になってるんでしょうね。
藤井▼生命の質なんてどうでもよくて、とにかく、生命の時間的長さっていう数値の上での長生きが良いことだ、逆にいうと、生命の時間が短くて死んでしまうのは悪いことだ、っていう、馬鹿みたいに単純かつ幼稚な死生観が、日本人の死生観になってるってことですね。
和田▼今回のコロナ自粛と似た、人間の本人の主観的な幸せよりも長生きがとにかく優先されるという問題があるわけです。
藤井▼それってもはや、虐待に近い話になってますよね。
和田▼さらに犯罪的なのは、日本人とアメリカ人とだと疾病構造も食生活も違うのに、全部アメリカで良いってことにされたことを、医者たちが日本人に強要するっていう点です。
藤井▼なるほど、延命するにしても延命する方法についての出鱈目がまかり通ってるってことですね?
和田▼例えば、アメリカでは心筋梗塞で死ぬ人が多いので、血圧を下げたほうが長生きできるってことにはもう十分なエビデンス(証拠)があるんだけれど、日本ではそれは全く証明されていない。
だから、日本人では血圧下げたほうがいいかどうかなんて何も分かってない。というよりむしろ、全く意味がないんじゃないかっていう説にも十分な信憑性がある。
だけど血圧下げたほうが長生きできるってことにアメリカではなってるからってことで、日本では大規模調査も行われないまま、それを日本で受け入れて、医者たちは患者の血圧を下げよう、下げようとし続けている。
藤井▼そのあたりもコロナに対する社会政策とそっくりですね。
和田▼おっしゃる通りです。
藤井▼ソーシャル・ディスタンス二メートルを空けるなんていう対策は、赤の他人同士でもべらべらと大きい声で喋り倒すアメリカ人ならば必要かもしれませんが、他人同士で滅多に口をきかない日本人同士じゃ、ほとんど不必要です。
ロックダウンだって、欧米ほどの感染拡大がある場合には必要かもしれませんが、日本は「さざ波」程度の感染拡大しかないんだから必要だとは思えない。
でも、欧米至上主義が世間全体に蔓延してしまっていて、結局、ロックダウンやソーシャル・ディスタンスが必要だってことになってしまっている。ホンットに愚か極まりない。
和田▼そう、まさに欧米至上主義です。その結果、欧米の健康常識を我々は信じ込まされている。
そしてそこに「家族への愛」が介在して、愛する家族のために、っていうことで、家族総出で高齢者の方々に食べたいものを我慢させて薬を飲ませ続ける、という実情があるわけです。
藤井▼全く意味がないどころか…(続く)
(『表現者クライテリオン』2021年9月号より)
続きは『表現者クライテリオン』2021年9月号にて
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『表現者クライテリオン』2021年9月号
「日本人の死生観を問う」
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