山口 雄也・木内 岳志 著 『「がんになって良かった」と言いたい』 徳間書店/2020年7月刊 の書評です。
書評者:高平伸暁
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この書評は『表現者クライテリオン』2021年9月号に掲載されています。
『表現者クライテリオン』では、毎号、様々な特集や連載を掲載しています。
ご興味ありましたら、ぜひ本誌を手に取ってみてください。
以下内容です。
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本書は、十九歳、京都大学工学部の土木コース在籍中に「がん」が発症し、その後何年にも渡りがんと闘った山口雄也さんの闘病記である。
強烈な痛みを伴うがんとの闘病は、あまりにも無慈悲で壮絶だ。
本書では、山口さんが闘病の中で哲学的に苦悩し深化していく様子が描かれている。
「なんで俺なんだろう」
「人はなぜ生きるのか」
「人の生きる意味なんて無い、とにかく自分に与えられた時間、境遇を一生懸命生きるのみ」
「もし人生をやり直せるとしたら僕はもう一度同じ生き方をするだろう。(中略)それがいい。それしかない」
等、山口さんは「がん」を通して自身の人生の意味を様々な角度から見つめる。
また自身の闘病の過程で多くの闘病仲間や旧友の死を経験した事が描かれている。そして最後はがんを克服することで本書は締めくくられる。
本書は「死に至る病を患う現代日本社会への処方箋」ではないかと思う。
「死に至る病」とは哲学者キェルケゴールによって提唱された概念で、ごく簡単に言うと「精神的な死」の事であり「死んだ様に生きている事」である。
日本では、長きに渡るアメリカ型戦後資本主義の中で、人々の価値観が「生き様より成果」「人々の紐帯よりも競争」等と変化してしまい、「人間にとって本当に大切であろう価値(伝統)」の多くは破壊され、人々が「死んだ様に生きざるを得ない社会」に変化した様に思われる。
一方本書に描かれている山口さんは、がんで常に死の淵にいるにも関わらず、健康に生きる我々よりもずっと「活きている」様であった。
そして山口さんは、自らの死を直視する事で「今生かされている奇跡」、即ち「本当に感謝すべき価値」が何であるかを読者に示してくれる。
残念ながら本書出版後に山口さんのがんは再発し悪化。出版から約一年後の二〇二一年六月に山口さんは永眠した。
二十三歳、京都大学大学院工学研究科に入学してから僅か二ヶ月後であった。
本書の結びで山口さんは、
「『がんになって良かったと言いたい』のは、生存者であるからそう思うのではないか? という問いに答えを見つけることができなかった」
と述べ、そして
「死の数秒前にそう思えたらそうであるし、そう思えなかったらそうではないのだろう」
と結論づけている。
本書では書かれていない最期の一年間、彼が死の直前まで「がんになって良かった」と思えたかどうかは解らない。
ただ晩年の山口さんのSNSでは、医師から
「穏やかに死を迎える緩和ケア」か「壮絶に死ぬ可能性が高い唯一の治療プラン」
の何れかを選択する提案を受け、苦悩の果てに後者を選んだ事が報告されており、山口さんが、死の直前まで「がんになって良かったと思えたか否か」は解らなくとも、少なくとも最期の最期まで「生きようとした」ことが窺える。
恐らくそれは、本書で繰返し述べられた「自身の命が多くの人々によって生かされた命」だからこそ、「簡単に死ぬわけにはいかない」と思い、がんと最期まで闘う道を選んだのではないかと思う。
山口さんの生き様からは、「人々の紐帯」が人間の「活力」にとって根源的に重要であろう事を改めて考えさせられる。
(『表現者クライテリオン』2021年9月号より)
他の連載は『表現者クライテリオン』2021年9号にて
本誌はその他、人と社会のあらゆる問題を様々なテーマに沿ってお届け。
毎回読み応え抜群です!
『表現者クライテリオン』2021年9月号
「日本人の死生観を問う」
https://the-criterion.jp/backnumber/98_202109/
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