今回は『別冊クライテリオン』掲載の座談会を特別に一部公開いたします。
公開するのは、第一部「ポストコロナ 中国化する世界」掲載、
與那覇潤先生×本誌編集長 藤井聡×編集委員 柴山桂太×浜崎洋介×川端祐一郎の対談です。
以下内容です。
興味がありましたら、ぜひ『別冊クライテリオン』を手に取ってみてください。
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與那覇潤(以下與那覇)▼
中国化した社会の特徴を一つピックアップすると、
「庶民は全体を見渡そうとしないで、自分のことだけ考えてビジネスにいそしめ」
ですね。一党制というシステム自体がどうなのか、なんていう社会の全体図は考えずに、商売だけやっている分にはし放題で儲かりまっせと。
藤井聡(以下藤井)▼
だから、日本が中国化すればするほど、難しいことが分かんなくなっていって、自分たちの社会構造が中国化してるってことがますます分からなくなってしまってるわけですね。
與那覇▼そういうことです(笑)。
これはかなり強力なコンボで、庶民のエートスの中国化と、政治権力の中国化が相互に強化しあっている。
だから『中国化する日本』という啓蒙の戦略はあまり成功しなかったのですが、それならむしろ、「個人目線」で中国化を語って伝えやすくする戦術もあるのかなと、最近は感じています。
当時並行して書いた論文をまとめた新刊『荒れ野の六十年』(勉誠出版)に収めた例ですが、戦前に内藤湖南が中国社会を描くとき、「馬賊」に注目しました。
馬賊に払うみかじめ料が税金より安いなら、公式な政府より馬賊を頼ればいいや─これが伝統的な中国人の国家観だと。
たとえば今、
「NHKってつまんないくせに受信料高すぎ。Amazonプライムの方がラインナップ充実で安い!」
と感じている日本人はかなり多い。それこそが中国化ですよと、そういう語り口の方が直感的に伝わるのかもしれません。
藤井▼なるほど、今の日本は、もうすでに日本型民主主義が形骸化して中国化して、個人がもはや砂粒みたいにバラバラになってしまっているから社会全体のことを見渡すような志向性をなくしちゃった、
だから社会の問題も庶民目線で話さないと何も伝わらなくなってきてるんじゃないか、っていうことですね。
(中略)
與那覇▼なぜNHKの受信料は払いたくなく、消費税が上がるのが嫌か。
それは税(や受信料)を「公共サービスの原資」ではなく、一方的な収奪だと受け止めているからですね。
つまり徴収者(=国家)は自分たち被治者とは別の存在だ、と感じている。
浜崎洋介(以下浜崎)▼
たとえば、江戸期の庶民にとっても政治というのは「お上」のものでしかなかったんでしょうが、與那覇さんも書いているように、それでも武士たちは、「主君押し込め」(行跡が悪いとされる藩主を、家老らの合議による決定により、強制的に監禁する行為)などによって、分離を超えたガバナンスシステムを作ろうとしていた。
庶民レベルでは、「ムラ」や「イエ」単位での政治はあったのかもしれませんが、今や、それさえなくなっていて、むしろ「中国化」が加速しているという言い方はあるのかもしれませんね。
與那覇▼ええ。たとえば二〇一九年にN国(NHKから国民を守る党)が参院選で議席を獲得したことがありましたが、これはまさに
「どうせ俺らは金とられるだけだ」とする意識の表明です。
藤井▼日本人の公共性の概念が、ほぼ完璧に人々の精神のうちから溶け落ちてしまったんじゃないかと。
與那覇▼国に一応は期待する。
その分、税金の使い方をしっかり監視しようというのが欧米型の市民社会の理想でしたが、そもそも政治自体に日本人が幻滅する中で、リアリティを持たなくなってきました。
藤井▼確かに日本は中国化して、もともとどれだけあったのか分からない公共の概念をあらかた失ったんだろうと思いますが、おそらくアメリカにもヨーロッパにも似たようなことがあるように思います。
たとえば彼らの「タックスペイヤー・マインド」は我々日本人よりも高いでしょうが、昔に比べれば確実に低減しているところがある。
柴山桂太(以下柴山)▼
タックス・ヘイブンとかありますからね。
藤井▼そうです。その意味で欧米も中国化しているという面はある。
その現象を社会科学的にいうと、社会全体がこの百年とか二百年の間に「大衆化」してきたことを通して、各国の伝統に基づくガバナンスシステム(統治機構)が、溶解してきた、といえるのだと思います。
しかし、こうして日本、中国、欧米が似てきているという現象はあるとはいえ、違いももちろん明確にある。たとえば、アメリカ、日本、中国のリーダーたちに対する認識は各国で全然違っているように思います。
與那覇▼微妙ですね。トランプと習近平では米国の大統領も中国の国家主席も大差なさそうです(笑)。
與那覇▼ところで『中国化する日本』を出した時に一番多かった批判は、
「アメリカ化する日本、なら分かる」
というものでした。いわゆるネオリベ化の同義語として、アメリカ化と呼ぶのは理解できるけど、中国化という用語法はあり得ないと。
しかし米中両国は、高い「権威性」を帯びたリーダーが、砂粒のような個人の群れを、巧みに煽ってまとめていく点では類似している。
アメリカの大統領選だって、予備選の流れ次第で猛烈に振れ幅の大きい候補者が残ってしまうでしょうと。
しかし当時はトランプ以前なので、SNSでこうお答えすると炎上しました。
「民主主義の同盟国アメリカと、仮想敵国の独裁中国が同じだなんて、お前バカか」と(笑)。
柴山▼私は経済のフィールドにいて、そこでは中国は「国家資本主義」の代表みたいな語られ方がされています。
欧米型の自由主義的な市場経済と比較して政府介入が強力なタイプの市場経済が中国型だというわけです。
ただし、「国家資本主義」のルーツは戦後日本だともいわれる。
日本が最初に成功して、次に韓国や台湾が成功して、そのモデルの延長線上に中国が出てきたという、そういう大雑把な理解があった。
與那覇▼開発独裁ですね。
柴山▼確かにそういう面もあるんだけれど、ハジュン・チャンも指摘しているように、欧米諸国だって政府介入によって資本主義を立ち上げてきたし、現にアメリカの資本主義は今も国家の強力な支えを必要としているわけで、「国家資本主義」というのは程度の差でしかない。
それよりも重要だと思うのは、中国が二十世紀後半からのグローバル化の時代に台頭してきたということではないか。
つまりグローバル経済への適応度が非常に高いというところに特徴があるんじゃないか、と。
戦後の日本経済は、実は輸出に対する依存度はGDPの一〇%もないような、極めて内需中心型でした。
もちろん原材料輸入や輸出は不可欠な部分としてあるんだけれども、基本は内需型の発展モデルだった。
そのため経済発展に伴って平等化も進んでいくという現象も見られた。
しかし中国の経済成長は、リーマンショック前だとGDPの四〇%が輸出に依存するという、輸出指向型の発展モデルです。
與那覇▼リアル「世界の工場」。
柴山▼だから格差もものすごく開くんですね。中間層ができにくい構造にある。
加えて、グローバル化というのは国境線をなくしていろいろなものが出たり入ったりしていくわけですが、その時に共同体原理に基づく秩序形成を行うのではなく、監視社会とも呼ばれるように、バラバラな個人の動きに関わるあらゆる情報を収集して、テクノロジーによる環境権力型統治を行う。
コロナウイルス騒動にしても、中国は逐一情報を取って人々を監視・統制するわけだから、被害が一番軽く済むのは、震源地の中国かもしれない。
そうすると「中国モデルは意外にいい」という声がさらに広がるかもしれません。
ヨーロッパは、今でこそEUとかいっているけれど、もともとの成功要因は最も早くネイション・ステート(国民国家)を作ったからだった…(続く)
(『別冊クライテリオン』2021年8月刊より)
続きは『別冊クライテリオン』にて
『別冊クライテリオン』2021年8月刊
「中華未来主義」との対決
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