寺脇 研 著 『西部邁が支持したアメリカ映画論』 鹿砦社/2021年7月刊 の書評です。
書評者:田中孝太郎
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この書評は『表現者クライテリオン』2021年11月号に掲載されています。
『表現者クライテリオン』では、毎号、様々な特集や連載を掲載しています。
ご興味ありましたら、ぜひ本誌を手に取ってみてください。
以下内容です。
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大半の日本人は、ハリウッドやディズニー作品などのアメリカ映画に触れて育ってきたのではないだろうか。
映画評論家であればなおさらだろう。だが、数千本もの作品を鑑賞してきた著者は、およそ半世紀にわたりほとんど日本映画しか観てこなかったという。
本書は二〇〇七年から約十年間、『表現者』に連載されていたアメリカ映画論を再構成したものである。
五十代半ばにしてはじめて本格的にアメリカ映画に触れた著者の、アメリカ的なるものへの違和感が率直に表明されている。
最初の違和感は、九・一一テロの際メディア上にあふれた「まるで映画みたい」という論評に対してだった。
確かに、未知の敵の攻撃により巨大なビルが倒壊する光景は映画的だ。だが、それは明らかにアメリカ映画的なものである。日本人の映画に対するイメージが、アメリカ仕込みであることの証拠だろう。
アメリカ映画に映し出されるアメリカ的なるものの実態は、「戦争」「暴力」「独善」「勝者」「差別」と題された本書の章立てにあらわれている。
単に戦争映画や暴力的な描写が多いというのではなく、多くの作品の背後にこうした要素が垣間見える。
異なる価値観や文化を持つ者を劣った存在と決めつけ、それを改めさせるため平気で暴力に訴える。
その結果他者を傷つけたとしても、正義のためやむを得ないと自己正当化に終始する。
ここには現代史における勝者としての驕りと、異質な存在に対する差別意識が見られる。
もちろん、アメリカ的なるものの負の側面や、それに翻弄され懊悩する人物を描く作品も少なくない。特に、九・一一後の「テロとの戦い」を題材にした作品にその傾向が見られる。
しかし、あくまでも「アメリカ(人)」という一人称の中で物語は完結してしまう。
西部邁氏が本書第2章の文章に付した「『敵情報告』の欠如」(傍点原題)というタイトルが、そのことを端的に物語っている。
懸念すべきは、粗野で自己中心的なアメリカ的価値観や表現を、日々アメリカ映画に触れている日本人が無批判に受け入れてしまう点だろう。
いわば精神面でアメリカと同化するということである。
代表例が、やたらとアメリカ映画をありがたがる映画評論家たちだ。こうした手合いに対し、著者は嫌悪感を隠さない。
だが、著者が評価するアメリカ映画もある。人気絶頂から落ちぶれ、みじめな生活を送りながらも懸命にもがく中年レスラーやミュージシャンの生き様を描いた『レスラー』や『クレイジー・ハート』、スクールカーストの女王だった若き日から一転、荒れた生活に身を落とした女の悲哀を描いた『ヤング≒アダルト』などである。
黄金期が過ぎてもなお、過去の栄光を取り戻そうと不器用にあがく主人公たちの姿は、現代のアメリカそのものと重なるように見える。
これらの作品が胸を打つのは、虛飾を排したアメリカ(人)の実像を描き出しているからだろう。
国家も人生も、絶頂期には全てがうまくいく。しかし、真価が問われるのは、勢いが失われたときどう振る舞うかではないだろうか。
(『表現者クライテリオン』2021年11月号より)
他の連載は『表現者クライテリオン』2021年11号にて
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『表現者クライテリオン』2021年11月号
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