渡辺 靖 著 『白人ナショナリズム―アメリカを揺るがす「文化的反動」』 中央公論新社/2020年5月刊 の書評です。
書評者:佐藤慶治
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この書評は『表現者クライテリオン』2020年9月号に掲載されています。
以下内容です
ナショナリズムについて、丸山眞男は「ネーションの統一、独立、発展を志向し、推し進めるイデオロギーおよび運動」と規定した。
しかし、本書のタイトルでもある「白人ナショナリズム」については、むしろネーションの分断を促進するものと言える。
その結果が昨今のBLMであろう(BLM自体も黒人以外の人種を顧みていないという点で、全肯定されるべきではないが)。
故に「白人ナショナリズム」とは不可思議な用語であるが、本書でも語られているように、白人ナショナリストの多くは白人のみのエスノステート、すなわち白人国家のようなものの建設を志向している。それを考えるとこの用語も論理的に間違いではないだろう。
ただし、個人的にはナショナリズムと言わずに単に白人至上主義と言うべきと考える。なぜならナショナリズムは本来「国民間の連帯や団結、助け合い」の意味を持つ概念であり、本書で語られるような否定的な意味合いの文脈において使用されるべきではないからだ。
現代アメリカ研究を専門とする渡辺氏は、本書において白人ナショナリストたちへのインタビューや「白人ナショナリズム」の位相の分析を丹念に行い、リベラリズムの視点から「白人ナショナリズム」の虛構性を描いている。
白人ナショナリストたちが「自分たちこそがグローバル化の犠牲者だ」と感じていることや、またその背景が具体性を持って纏められているという点で、昨今のアメリカ情勢を理解できる一冊と言えるだろう。
本書の後書きでも触れられているように、白人ナショナリストの主張全てが的外れなものではない。例えば第一章で、ある白人ナショナリストの
「もし日本に外国人が数百万人入ってきて、それに異議を唱えたとき、人種差別主義というレッテルを貼られたら違和感があるのではないか」
という言葉が取り上げられているが、確かに移民問題については現在の日本でも大きな疑念が生じている。
また、アメリカでは白人の貧困層が増加しているという事情にも鑑みる必要があるだろう。
しかし、「国民」ではなく「白人」を規定して議論する点において、やはり「白人ナショナリズム」はナショナリズムたりえないのである。
確かに移民については治安の悪化や格差拡大の観点より問題の多いものではあるが、白人ナショナリストは明らかにアフリカ系の同国民よりむしろ他国の白人にシンパシーを示している。
つまりは同じアメリカ文化圏でアイデンティティを育んでいても、肌の色が違えば同じネーションとは見なしていない。
また、「白人ナショナリズム」は主に反移民、反多文化主義という点で反グローバリズムを主張するが、基本的に「白人ナショナリズム」は反グローバリズムと同一視されるべきではない。
本書第四章では「白人ナショナリズム」がグローバル化している、すなわち国家の枠を超えて各地で共鳴し合っていることが述べられているが、これは中世ヨーロッパで各国のカトリックがグローバルに他宗教を排斥していったのと同じ構造と言える。
よって「白人ナショナリズム」は、むしろグローバルな白人至上主義ととらえられるべきものであろう。
(『表現者クライテリオン』2020年9月号より)
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