浜崎 洋介 著 『小林秀雄の「人生」論』 NHK出版/2021年11月刊 の書評です。
書評者:前田龍之祐
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この書評は『表現者クライテリオン』2022年1月号に掲載されています。
『表現者クライテリオン』では、毎号、様々な特集や連載を掲載しています。
ご興味ありましたら、ぜひ本誌を手に取ってみてください。
以下内容です。
昭和初期からほとんどその終わりに至るまで文芸時評、芸術論、古典論などを書き遺し時に文芸批評の始祖と呼ばれる小林秀雄について、本書は「人生の教師」という像からその履歴を辿っていく。
が、なるほどその立場は「決して楽に保たれたもので」はなかっただろう。
戦後にジャーナリズムからの決別を宣言して「人生を支えるもの」としての日本人の信仰を摑んだ小林はしかし、他方で故郷喪失の青年を描くドストエフスキーに自身の姿を重ねており、両者のあいだで生まれる葛藤が彼の批評人生を導いていたと言えるからである。
生活と思想の分断を架橋する梯子への意志において小林の視線は足元の「砧木の幹」に注がれていた。
ただし、両者を繋ぐものとしての文芸批評を小林が最初から見出していなかった点には注意したい。
一高時代の小林がまず書いたのは「蛸の自殺」という小説だった。志賀直哉に宛てられたと言われるそれは西洋的知識に浸る自分を諧謔してみせるといった自意識を描いていたが小林の葛藤はその初期から「逆説」と「自然」の両義性という形で現れていたのであり、こうした近代的自我に対する疑いから徐々に自己を照らしてくれる他者との関係、すなわち「感受性の出会う場所」の実感を拾う批評への志向が芽生えていくことになる。
かくして「様々なる意匠」から文芸批評の筆をもった小林は作品との出会いによって生じる「直観」を主題化していく。
小林は言う、
「批評とは竟に己れの夢を懐疑的に語る事ではないのか」
と。ある対象を介して到来する〈己れの夢=直観〉から〈懐疑的な語り=分析〉を始める存在が批評家なのだとすれば、まずはこの「直観」のうちに感じられる「宿命」の聴従をもって「私の心が私の言葉を語り始める」。
小林秀雄にとって批評とはこの解釈学的循環を自覚し、なぞり返す営為にほかならなかった。
では、このような「直観」を制約し、かつ可能にしているものとは何なのか。
「感受性の土台」をめぐる問いに突き当たった中期以降の小林はドストエフスキーの評伝を書くことで認めた民衆への信頼を自身の伝統論のなかにまとめていくが、そこで語られる伝統とは史料が与える「直観」に従うとき読み出される歴史の手応えであり、私たちの落ち着き(自由)を保全する生活形式の別名としてあった。
そして晩年、これまでの仕事を総括するように本居宣長を論じていく小林はとりわけその「もののあはれ」論において感情にリズムを齎す歌―文学、すなわち日本人の共同性の根底にある「国語」を発見するだろう。
しかし、このような履歴の裏には西洋近代を引き受けた日本人の生き方の自覚を通じて「近代」と「日本」を縫合するという問いがあった点を最後に断っておきたい。
その問いは今なお意匠に囚われた戦後日本にまで届く射程と強度を備えているはずだ。
本書を読んで私は、やはり次の言葉を自分に向けないではいられなかった、「さて、私の栗の樹は何処にあるのか」と。
(『表現者クライテリオン』2022年1号より)
他の連載などは『表現者クライテリオン』2022年1号にて
『表現者クライテリオン』2022年1月号 「岸田内閣成功の条件」
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