皆様こんにちは。
今回は『表現者クライテリオン』2022年5月号(通巻102号)から2022年9月号(通巻104号)にかけて連載されていた鈴木宣弘先生×藤井聡先生による対談〈「農」を語る〉を全6回に分けてお届けします!
鈴木宣弘×藤井聡
農は国の本なり。
その姿を立体的に示すことを通じて保守思想を語る。
藤井▼皆さんこんにちは。『表現者クライテリオン』編集長、京都大学の藤井聡でございます。今回が第一回目になるんですけれども、保守思想誌『表現者クライテリオン』では、このたび「『農』を語る」というシリーズを始めることとなりました。
『表現者クライテリオン』は創刊から四年以上が経ちますが、リレー連載の形での「農は国の本なり」を掲載するなど、前身の『表現者』よりもより積極的に「農」を取り上げてまいりました。
農業というものは国家の根幹中の根幹であり、とりわけ「瑞穂の国」である日本はその国家の成り立ちそのものと農が深く関係しています。それにもかかわらず、これまでの保守論壇の中では、「国土」の問題と並んでこの「農」は必ずしも重視されてこなかった。これは、空間的広がりを持つ議論、いわば身体性が不可分となる具体的議論が十分に保守の議論で顧みられてこなかったということを示唆するものともいえるでしょう。
だから『表現者クライテリオン』編集長を仰せつかって「保守」についての思想誌を編纂するにあたっては、どうしても「国土」と「農」の議論を何らかの形で展開し続けていくべきだと認識していたという次第です。この二つを抜いた上で、保守思想を語るというのは、根本的な何か大切なものを置き忘れてきたようなもので、味噌汁を作るときに出汁を入れ忘れたみたいな、そんな味気なさというものを感じていた次第です。
ついては今回から始まる「『農』を語る」のシリーズは、「農」の多面的な部分を、対談形式で様々な有識者に語ってもらいたいと考えております。その第一回のゲストとしてやはり、いの一番にお声かけしたのが、メディア論壇の中で最も積極的に農を語ってこられた東京大学農学部の鈴木宣弘教授であります。
鈴木▼ありがとうございます。よろしくお願いします。
藤井▼このシリーズは、原稿ですとやや硬くなりがちなところを、肉声で感情も込め、農業について語っていただき、立体的に農業というものを読者の方に感じ取っていただきたい、という主旨のものです。どうぞ、よろしくお願いします。
藤井▼ついてはまず、鈴木先生が農学を志された背景からお伺いしたいと思うのですが、先生は東京大学農学部ご卒業ですが、ご入学はやはり農学ということで理科二類だったんでしょうか?
鈴木▼いや、もともとですね、私は文学部の文科三類ってところに入りまして。
藤井▼え、そうなんですか。
鈴木▼実家が農家で一人息子だったので、農業とは縁はあったのですが、本当は化石を掘ったり、日本文学をやったりとかですね、そういうところに行きたくて文科に行ったんですけど……。私、大学に全然行かなくなりましてね(笑)。夕方にようやく起きて、渋谷の街にパチンコをしに行って朝方帰ってくる、なんて時間の使い方してたんです。
藤井▼昔は大学も牧歌的でしたから、結構そういう大学生活の方は多かったですよね(笑)。
鈴木▼僕は特にそういう学生生活だったんで、進学の時にどうしようかって時に、農業経済学科だったら行けるってことで(笑)。
藤井▼なるほど。農学部の中に文系枠があったんですね?
鈴木▼ええ、一〇人ほどの文系枠が農学にあって。実家が農家だから農業経済に行ったんだろうって、皆さん思ってくれてるんですけど。まぁ、農家の生まれであることが原点にあるのは間違いないんですけども、今の農学教授っていう立場は、ほとんど偶然の産物ですね。本当は恐竜の化石を掘っていたかもしれません。
藤井▼そうでしたか。
鈴木▼でもただね、「このままの日本でいいのか」ってあれこれ今言っていますが、そういうふうに思うところは昔からありましてね、古くは小学校四年生の時に、私の故郷である伊勢志摩の国立公園が無闇に開発されていくのを見ていて、これは良くないぞと……。
藤井▼え! 先生は三重の伊勢志摩のご出身なんですね。どちらですか?
鈴木▼志摩半島の英虞(あご)湾です。鵜方(うがた)と神明(しんめい)の隣の立神(たてがみ)というところなんですけどね。
藤井▼えーっ、僕、二十代、三十代の頃、いつも磯釣りで英虞湾の先の御座白浜へめちゃくちゃ通いましたよ!! いやー、めちゃくちゃ親近感湧きます!
鈴木▼そんなところで繋がっていたとは(笑)。
藤井▼いやぁ、あの辺りはものすごく豊かな土地で、倭姫命(やまとひめのみこと)が全国を行脚しながら、あの辺りの土地は海の幸も山の幸も多いからと、皇室ゆかりの伊勢神宮を作ったという伝説が残ってますよね。それくらいあの辺りは、日本の農業の根本、というか瑞穂の国、日本の根本がありますよね。
鈴木▼伊勢はもともとそういう自然が豊かな場所ですよ。うちは畑仕事をする傍ら、真珠・うなぎ・牡蠣の養殖なども手伝っていました。
藤井▼海の幸も山の幸もどっちも!
鈴木▼それで伊勢神宮も近いという場所でね。
藤井▼まさに神の国ですね。
鈴木▼伊勢の人間を見るとね、どこかそういう雰囲気があるって言う人もいますよ。私を見てもわからんと思いますけど(笑)。
藤井▼わかりますよ! だってね、「農」で国をお守りしようとされてるわけじゃないですか。農業について、今の日本政治、行政の問題を雑誌で書いてもらいたくてあれこれお願いするんですが、なかなか書いてくださる方が少なかった。
でも、僕は農学者の方って農業を愛していて、農業を守るということそのままイコール、この日本、瑞穂の国を守るということですから、そんな大切な農業をないがしろにする戦後の日本というものに対して、根本的に激しい憤りを持っておられる方ばっかりなんだろうと想像していたんですが……。
鈴木▼はい。わかります。
藤井▼ですから、農業を守るための言論活動についても「よし、書いてやろう!」という方がたくさんおられるんじゃないかと思っていたわけですが、必ずしもそうでもなかったような印象があります。
そんな中、鈴木先生はホントにたくさん色々と書いてくださって。例えばTPPの時などは鬼神のような勢いでご発言されていた。そんなお姿を拝見して、この方にはきっと、なにがしか神が宿ってるんじゃないかって、思ってましたが、まさかお伊勢さんのご出身だったとは(笑)。
鈴木▼当時は藤井先生と二人で「日曜討論」とかでやり合いましたね。
藤井▼そうですよね! 懐かしいですね。あの時はもう、ある種の「国防戦」でしたからね。
鈴木▼守るというか、何かに駆り立てられるようにやっていましたよ。
藤井▼きっとそういう振る舞いを、鈴木先生だけがなされたっていうのも、農学の先生の中でも特に、神々の国のお伊勢さんで育たれた、っていうルーツと色濃く関係してそうですね(笑)。だって本当に、お伊勢さんや志摩、英虞湾って、素晴らしいところですよね。
鈴木▼伊勢神宮を中心にしたね、あの地域の空気というのは、やっぱり神が宿ってるんじゃないかと思います。
藤井▼ホントにそう思わざるを得ない場所ですよね。お伊勢さんの五十鈴川を渡ったらもう、ホントに神域、ですものね。
『表現者クライテリオン』2022年9月号 『岸田文雄は、安倍晋三の思いを引き継げるのか?』
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