【自民党総裁候補・高市早苗氏に聞く】 指導者の条件とは? ~安全保障と国家経営のあるべき姿~ (前編) 【特別公開】

啓文社(編集用)

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これからの日本を牽引する「指導者の条件」とは何か--
劣化、腐敗の度を増す日本の政界、財界の復活を期すための最重要論点として本誌9月号にて徹底的に論じたこの問いを、
次期首相候補の一人である高市早苗経済安全保障担当相に投げかけた。

前編では、現在大臣として担当されている「経済安全保障」問題の所在と、解決に向けた具体的な政策について伺った。(後編は明日配信)

(聞き手:藤井聡

 

経済安全保障が今求められている背景

 

藤井 今回は、自民党の総裁選の有力候補者のお一人で、現・経済安全保障担当大臣/内閣府特命担当大臣の高市早苗先生に、前号の特集テーマでありました「指導者の条件」、ならびに現在大臣として所掌されている「経済安全保障」についてお話をお伺いできればと思います。こうしたお話は,総裁選へ立候補されているというお立場の高市さんから是非皆さん、お聴きしたいと思っている内容ではないかと思います。

 まずは経済安全保障についてお伺いします。高市さんは日本ではこれまでほぼ手つかずのまま放置されてきた「経済」の視点からの安全保障問題に大きく進展させる「経済安全保障推進法」を、岸田内閣の担当大臣としてとりまとめ、制定されました。この法律によってようやく日本も,先進国に比して圧倒的に遅れていた日本の経済安全保障環境も大きく改善されたわけですが、この経済安全保障が我が国において特に今、求められるに至った背景はどのようなものでしょうか?

 

高市 いろいろな背景があるのですが、三つの例を挙げさせてください。一つ目はサプライチェーンの問題です。コロナ禍に見舞われた日本では、医療用ガウン、注射器、半導体などの不足が顕著となり、サプライチェーンの脆弱性が国民の生命や生活を脅かすリスクが顕在化しました。

 二つ目は、先端的な技術の獲得をめぐる動向です。AIや量子といった技術は経済社会に大きな影響を及ぼしますが、同時に安全保障に本質的な変化をもたらす可能性があります。諸外国が重点的に投資を行っている中、日本もこれに伍する形で研究開発を進める必要性に迫られています。

 三つ目は、サイバーセキュリティです。DXが進展すればサイバー攻撃の脅威も増大し、経済社会活動を支えるサービス(電気、水道、輸送等)がサイバー攻撃により停止してしまうことが現実味を帯びてきました。 実際に、二〇二三年七月には名古屋港コンテナターミナルのシステムがサイバー攻撃を受け、三日にわたりコンテナの搬出入作業が停止したことは記憶に新しいですよね。

 伝統的に安全保障は外交と軍事・防衛の領域だと捉えられていましたが、最近は経済の領域にも広がり、安全保障と経済を切り離して考えることが難しくなっているのです。例えば米国においても、「国家安全保障」のために投資規制、中国製品(ファーウェイなど)の締め出し、半導体をはじめとする重要産業への大規模支援など、経済的措置を次々に打ちだしています。これらはトランプ大統領時代に敷かれた路線ですが、バイデン政権になっても大きな流れは引き継がれています。

 こうしたことから、安全保障と経済を一体として捉える経済安全保障の視点をもって政策を組み立てなければ、国民の皆様の安全を守れなくなるのではないかという現実に直面するに至ったわけです。

 二〇二一年十月に発足した岸田内閣では、経済安全保障担当大臣が初めて置かれ、その直後に自民党政調会長として作成した衆議院選挙の選挙公約でも、経済安全保障を目玉政策の一つとして掲げるなど、危機感をもって対応した結果として、我が国の経済安全保障政策は大きく前進したと考えています。

 また二〇二二年には、①サプライチェーンの強靱化に関する制度、②基幹インフラ役務の安定的な提供の確保に関する制度、③先端的な重要技術の研究開発支援に関する制度、④特許出願の非公開に関する制度の四本を柱とした「経済安全保障推進法」が成立しました。さらに本年五月には、我が国の経済安全保障上の情報保全を強化すべく、私が立案した「重要経済安保情報保護活用法」が成立し、現在、その施行に向けた準備を進めています。

 現在、国際情勢は不確実性を増しており、経済安全保障上の課題は幅広く、かつ変化のスピードが速いので、情勢の変化を見据えながら不断に取組の検討を進めていきたいと思います。

 

特定重要物資の安定確保に向けて

 

藤井 ありがとうございます。続いて、「経済安全保障推進法」では,半導体、蓄電池、肥料,永久磁石,天然ガス、重要鉱物等の一二の物資が「特定重要物資」として定められ,その「安定確保」に向けた制度が定められました.これは戦後長らく「平和ボケ」と呼ばれる我が国においては大変に画期的な制度となっています。この特定重要物資について,さらには食糧自給率、エネルギー自給率の確保のための「長期戦略」の概要をお聞かせください。

 

高市 重要な物資のサプライチェーンについては、 グローバル化の進展や科学技術の発展、それに伴う産業構造の変化を背景に多様化が進んでおり、世界各国・地域で重要な物資を外部に過度に依存することによる供給リスクが顕在化しています。とりわけ近年、一部の物資についてはサプライチェーン上の脆弱性が顕在化し、国民の生存や国民生活・経済活動を脅かす事態に発展した事例もあります。

 このため、経済安全保障推進法では、①重要性、②外部依存性、③供給途絶等の蓋然性、④必要性の四つの要件を満たす物資について、安定供給・確保を図る制度を設けています。

 具体的には、この四つの要件を満たす半導体や蓄電池など一二の物資を「特定重要物資」として政令で指定し、昨年四月から物資の所管省庁と連携して民間事業者の供給確保計画を認定し、取組に対する支援を進めているところです。すでに制度全体で二兆一八三〇億円の基金を設置しており、これまで(八月二十八日現在)、九一件の計画を認定しました。

 

円安のメリットを活かした食料安全保障のあり方

 

高市 エネルギーや食料の分野については、それぞれ「可燃性天然ガス」と「肥料」を「特定重要物資」に指定していますが、それ以外の物資については石油備蓄法や食糧法など、他の法律で対応する立て付けになっています。

 

藤井 なるほど。

 

高市 経済安全保障担当大臣として所掌する法律の範囲外で、勝手に進めると農林水産省や経済産業省からクレームが来てしまいますから(笑)。

 食料自給率に関しては、最新値(令和五年度)のカロリーベースが三八%と発表されています。これは前年と変わらない数字です。オーストラリアのように二〇〇%を超えているところは別としても、アメリカでもカナダでも一〇〇%を超えていますよね。何があっても日本人が食べていける状況は何が何でも作らなければいけません。だから、中山間地も含めてすべての田畑をフル活用できる状況を作っておく必要があります。

 そういう体力をつけてもらうためには、例えば農業基盤をしっかりと整備したり、人材を育成したりしないといけません。そこで、この円安を活用してどんどん輸出することが重要です。世界の富裕層に向けて、日本の高級食材は相当売れますから。

 

藤井 円安が今、長らく続いていますから、これを一つの好機と捉えれば、世界各国のマーケットのシェアを拡大することは勿論できる筈ですよね。

 

高市 円安の時期にはそのメリットをフルに活かさないともったいないと思います。私はよく日本の米粉の話を例に挙げています。グルテンフリーの基準より遥かに厳しいノングルテンという基準を農水省が作ってくれましたが、これは小麦アレルギーの人でも絶対に大丈夫な基準です。

 今年、G7の科学技術大臣会合のためにイタリアに行ったときにホテルのルームサービスメニューを見たら、パスタもピザも半分ぐらいはグルテンフリーと書いてありました。イタリアでもそのぐらいグルテンフリーの需要があるわけですが、グルテンフリーよりも厳しいノングルテンの基準を日本は持っているわけです。

 ノングルテンの米粉は、日本国内で加工することが肝です。米粉ごと輸出すると、海外で加工する過程で小麦成分が混じってしまう可能性がありますから。日本が誇る冷凍技術・乾燥技術を使って国内でピザ生地やパスタ生地を仕上げて、世界中に輸出していくわけです。アメリカやヨーロッパでは小麦の需要が相当ありますから、かなり儲かると思います。

 日本の高級食材で言えば、水産物も相当売れると思います。もちろん、有事のときには国内消費を最優先しますが、今は体力をつけるために円安を活用して輸出する。しかも日本で加工までして輸出するということを急いでやらなければならないと思います。

 

植物工場と陸上養殖の可能性

 

高市 次に、私が今注目しているのは植物工場です。今は一般的なパイプにビニールなどを張ったパイプハウスと呼ばれるものが九六・六%を占めています。また、半閉鎖型植物工場という耕地の上に立てるものもあります。これはパイプハウスよりも丈夫で、太陽光を利用するタイプであり、最近の技術で温度や湿度などを管理しています。この半閉鎖型の普及率は三%ちょっとです。

 最近発明されてすごいと思ったのは、完全閉鎖型の植物工場です。これはLEDの人工光で栽培するタイプですが、最近日本の企業が光の質や光の強さ、温度、湿度、水分、さらに風など二〇種類のパラメーターを調整できるものを開発しました。植物工場はアメリカでもヨーロッパでもやっていますし、食料自給率が一〇%未満のシンガポールは国が大規模投資していますが、フロア型というすごく面積を取ってしまうタイプなのです。しかし、日本企業が発明したのはモジュール型であり、例えば宇宙ステーションにも被災地にも持っていくことでき、電源さえ取れれば通年で野菜や果物が育てられます。電源が喪失したときに備えて、ペロブスカイト太陽電池や蓄電池も備えた方がいいと思いますが、どこでも通年で無農薬の作物を作ることができるというのは、食料安全保障上非常に重要だと思います。

 完全閉鎖型の植物工場は億単位の初期投資が必要ですが、場所を選ばないので、地方の工業団地の空き工場や合併後の学校の空き校舎、空き体育館などに置くことができます。商店街の空き店舗を活用すれば街中にも造れます。ただ、初期投資とランニングコストが高く、電力の安定供給が必要になるので、そこでエネルギー安全保障の話も関わってきます。

 植物工場に関しては国の補助率が五〇%のものもありますが、工場や学校の跡地を活用しても七億から八億、イチから建物を建てる場合には十五億円ほどの費用がかかります。ですので、かなり付加価値が高いものでないと元が取れず、減価償却とランニングコストで赤字になってしまいます。でも、せっかくの技術ですから、国がお金を投じる価値はあると思います。

 科学技術政策担当大臣としては、SIP(戦略的イノベーション創造プログラム)の中で、高収量・高品質な大豆の新品種開発や、ブリの省力的な大規模養殖を進めています。沖縄の科学技術大学院大学では、世界初のイカの養殖に成功しています。陸上養殖でも結構な種類の魚を育てられることが分かっています。今は日本近海でも魚種や漁獲量が大きく変動しているので、陸上養殖施設に関しても国が思い切った投資をしなければいけないと思っています。

 まとめると、全国の田畑をフル活用し、災害やシーレーンを使えなくなるような有事に備えて植物工場を造り、そして陸上養殖をしっかりと維持することが必要です。イカの養殖もモジュール型植物工場も世界初の技術ですから、そういう技術をビジネス展開できるように国がもっと応援するべきだと思います。

 

藤井 そうですね。食糧自給率を上げるということは輸入を減らすということでもあるので内需拡大効果がありますし、乗数効果を含めればかなり大きな経済効果があります。ですので、国費を投入する経済合理性は本来あるわけですが、この考え方は今までほとんど政府で採用されてきませんでしたよね。補助金を正当化するにあたっても、内需拡大経済効果があるというのは非常に大きな意味があると思います。

 

高市 植物工場ではレタスのように、需要が読みやすく栽培しやすいものを作りがちですが、レタスは露地ものでもあちこちで作っていますし、農家の利益を圧迫するのは良くないので、植物工場で作れる品種をどれだけ拡大できるかが問われています。これは今、農研機構や民間企業が必死で研究してくれているおかげでだいぶ増えてきています。国内で消費する分を確保して、さらにアメリカ、カナダ、オーストラリアのように自給率一〇〇%を超えるのが理想ですね。

 

データセンターやAIに対応した電力確保

 

高市 エネルギー安全保障については、科学技術政策担当大臣としては一二・六%というエネルギー自給率は悲しすぎるので、何とかしなければならないと思っています。G7に行って驚いたのは、自給率一〇〇%を超えているアメリカとカナダがエネルギー安全保障に必死に取り組んでいるということです。というのも、データセンターやAIが増えすぎて、そのための電力を確保しなければならないからです。

 近年は、テンセントやアリババなどの中国企業が日本国内でのデータセンター投資を大幅に拡大しており、国内での電力需要がますます増大することが予想されます。さらには、中国企業のデータセンターは「情報流出」や「日本のサーバーの接収」、「クラウドの意図的な誤作動を通じた社会的混乱」などのリスクをもたらす可能性があるため、例えば外為法の運用改善などを通じて厳格に対応する必要性も高まっています。

 三年前の総裁選挙のときにはまだ生成AIが出てきていませんでしたが、私はあの頃からAIとデータセンターの消費電力は大きいので、SMR(小型モジュール炉)や核融合にも手をつけていかなければいけないと主張していました。今はものすごく電力を消費する生成AIが出てきましたので、まずやるべきことは省電力化の研究です。私は最近、最新の冷却技術と光電融合技術を取り込んでいけば、データセンターを含めて電力消費量が相当減るということを訴えています。

 それから、SMRの開発・実用化も不可欠です。二〇二〇年代後半にはSMRと高温ガス炉などを組み合わせていくべきだと思います。両方とも核分裂ではありますが、今の大きな原子炉よりはシンプルで安全性は高いです。地元の皆様のご理解を得たうえでいろいろな手続きを踏むコストを考えると、二〇二〇年代後半に向けてSMRと高温ガス炉という次世代革新炉に対して国が積極的に投資しなければならないと思います。そして二〇三〇年代には、核融合が実現すると私は思っています。

 

藤井 そんなに早く実用化されるのですね。

 

高市 文部科学省はもともと二〇五〇年と言っていたのですが、最近変えました。大学発のスタートアップに限ると、核融合の研究は京都大学と大阪大学が2トップでしょう。核融合の方式には京都大学でやっているトカマク式と、大阪大学でやっているレーザー式がありますが、レーザー式は最近では二〇三〇年頃の実現を目指していると言われています。いずれにしても、核融合への投資は絶対にやるべきだと思います。

 二〇二一年にはイギリスが核融合戦略を作りましたが、昨年の四月には私が策定を目指して取り組んできた日本初の核融合戦略である「フュージョンエネルギー・イノベーション戦略」を決定することができました。アメリカも今年ようやく核融合戦略を作りました。G7ではSMRと核融合エネルギーが議題に上がり、G7諸国で力を合わせてやっていくことになりました。力を合わせるといってもお互い競合しているのですが、それでも早く実現しないとエネルギー安全保障を保てないということです。実は日本が押し込んだ議題だったのですが、皆が危機感を持っていましたね。

 

藤井 なるほど。そうなると国家のパワーバランスが抜本的に変わっていきそうですね。

 

高市 資源を持つ国が持たない国を抑えるところがありますが、自前のエネルギーを持てば他国に頭を下げなくて済むようになります。

 

藤井 それは素晴らしいことですね。最近は地熱発電でも新しい技術が出てきていますよね。前に経産省のあるOBが「日本で大量の地熱がとれたら地熱のドバイになれる」と言っていましたが、それはそれで大変意義のある、そして実現可能性あるビジョンだと思いましたがいかがでしょう。

 

高市 それも非常に大事なことで、地域分散型の電源も備えておかないといけません。地域分散型ならバイオマスや小水力を使えるところもありますし、地熱を使えるところもありますよね。大規模な自然災害やサイバー攻撃が起きた場合には一挙に大停電になる可能性がありますから、そうならないように地産地消型の発電も並行して絶対にやっておくべきです。

(明日配信の後編へ続く)

 


本記事は『表現者クライテリオン2024年11月号』(2024年10月16日発売)に掲載予定の記事を一部省略して構成したものです。
全文は是非本誌を手に取り、ご一読ください。

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(編集部)

 

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