米国は普天間飛行場を返還するつもりはない -「辺野古」と「普天間」をゼロベースで再検討する時-

藤原昌樹

藤原昌樹

 かつて拙稿で、現在、沖縄に-そして我が国に突きつけられている「近未来予想図」で描かれるのは、「辺野古に新たな基地が完成しても普天間飛行場が返還されることはなく、両基地を米軍が自由に使い続けている」という、より米国への従属度が増した「半独立」の状態から抜け出すことができずにいる我が国の姿でしかないと論じました。

その「近未来予想図」が外れることを願わずにはいられませんが、残念ながら、我が国にとって決して望ましくない未来が現実のものとなってしまう蓋然性が高くなってきているように思えてなりません。

普天間飛行場を「キープ」せよ-米海兵隊中佐の論稿

 米海兵隊の現役中佐が、辺野古に新たな代替施設(基地)が完成した後も普天間飛行場を「キープ」して日米で共同使用するように求める趣旨の論稿(The Marine Corps presence in Okinawa is critical to deterring China and North Korea)を連名で執筆し、米国のシンクタンク「大西洋評議会 Atlantic Council」のサイトに2月3日付で公表しました。

 この論稿では、「中国が西太平洋での覇権確立への動きを加速させていること」を理由に、米国の同盟国及び地域へのコミットメントを再確認し、日本及び太平洋全域における海兵隊の将来の戦力配置に関する計画を再構築して「米日防衛政策見直しイニシアティブThe US-Japan Defense Policy Review Initiative」を再検討すべきであると主張しています。

 具体的には、辺野古に建設予定の滑走路が「普天間ほど長くないし、有用性も低い」と指摘し、戦略的抑止力を損ねることに繋がる海兵隊部隊のグアム移転を中止して普天間飛行場と(新たにできる)辺野古の施設の両方を保持し、米軍と自衛隊とで共同利用することが望ましく、もし一部の海兵隊員を沖縄本島から他所に移動しなければならない場合には、与那国島に配備することを検討すべきであると論じています。

「長い滑走路」が選定されるまで普天間飛行場は返さない-米国防総省の公式文書

 また時を同じくして、米軍普天間飛行場の返還をめぐって、米国防総省が米政府会計監査院に提出した公式文書で、辺野古の代替施設では能力が不足するため、代替となる「長い滑走路」が選定されるまで普天間飛行場は返還しないと明記していることが分かったと沖縄の新聞社などが報じました。

 日米両政府は2013年4月の「沖縄における在日米軍施設・区域に関する統合計画」で「辺野古の代替施設では確保されない長い滑走路を用いた活動に備えて、緊急時に民間施設を使用できるように改善すること」を普天間飛行場の返還条件の一つに掲げており、米政府監査院は2017年の報告書で、任務要件を満たす「他の滑走路」を選定するなどして是正するよう国防総省に勧告していました。

 今回の文書は、この勧告に対する公式回答であり、辺野古に建設中の代替施設の滑走路が普天間より短いことに触れて、「任務の一部は受け入れられない」と説明し、「これらの任務を支えるために長い滑走路を確保する必要がある。『代替となる滑走路』の選定の最終責任は日本政府にあり、日米間で協議を継続している」と明記しています。米国が「条件が満たされなければ普天間を返還しない」と公式文書で言及するのは初めてのことです。

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長期利用を想定?-普天間飛行場滑走路の補修工事計画

 さらには、米海兵隊が最新の航空計画に米軍普天間飛行場の滑走路の補修工事2027会計年度(2026年10月~27年9月)に実施する方針を盛り込んだことも明らかとなっています。普天間飛行場の滑走路補修が「米議会の承認を必要とする大規模な新設や補修、近代化などを対象とする施設整備(MILCON)」の優先案件として記載されているのですが、返還予定の基地の施設補修がMILCONの扱いとなるのは異例のことです。

 計画書に具体的な予算や工期、補修内容などは明記されていませんが、単年度の工事とは異なり、計画的に予算を確保して実施され、立案から完成まで8~10年を要する場合もあり、単なる応急措置ではなく、当面の運用継続を前提としていることを意味しています。

繰り返される「いつもの光景」-非難の声をあげる沖縄と弁明する日本政府

 これらを受けて、沖縄では、玉城デニー知事が「沖縄にのみ(基地負担を)押し付けることは絶対に認められない。(普天間の危険性除去は)辺野古が唯一の解決策というロジックもなくなる」「米国側の都合のいい話。到底受け入れられない」と批判したことをはじめとして非難の声があがっています。

 その一方で、木原稔官房長官や小泉進次郎防衛相が「日米両政府間の合意事項に変更はない」との認識を示し、「辺野古の代替施設建設、普天間飛行場の返還、在沖米海兵隊員のグアム移転を含め、沖縄統合計画や既存の2国間取り決めに従った米軍再編の着実な実施が極めて重要だと累次の機会に確認している」「(返還条件に関して)日米間の認識に全く齟齬はない」「日米同盟の抑止力・対処力の強化、沖縄をはじめとする地元の基地負担軽減の両立に留意し、米軍再編が着実に実施されるよう、引き続き米側と緊密に連携して取り組む」「普天間飛行場が返還されないなどということはない」と強調しています。

 普天間飛行場の辺野古移設をめぐって、米国が「普天間を返還したくない」との意向をほのめかし、沖縄から抗議の声があがり、日本政府が「辺野古が唯一の選択肢である」「普天間飛行場が返還されないということはない」と弁明するといった「いつもの光景」が繰り返されているのです。

「普天間飛行場が返還されないということはない」との認識は楽観的に過ぎる

 これまで繰り返し論じてきたように、日本政府が公式見解として強調し続けている「辺野古が唯一の解決策である」との言説は、「沖縄の基地問題」に関わる数多ある嘘話の1つでしかありません。

 そして、「普天間飛行場が返還されない可能性」については、2017年6月の参議院外交防衛委員会において、稲田朋美防衛大臣(当時)が「普天間飛行場の返還条件について調整がつかなければ普天間飛行場の返還がなされないことになる」と答弁しており、日本政府が「辺野古に新たな基地が完成しても米国の意向次第で普天間が返還されない可能性があること」を公の場で認めています。

 米海兵隊中佐の論稿や米国防総省の公式回答からも明らかなように、普天間飛行場の返還条件のうち、焦点となるのは「長い滑走路を用いた活動のための緊急時における民間施設の使用の改善」ですが、防衛省のホームページには、その進捗状況について「緊急時において民間航空機、自衛隊機及び米軍機による飛行場の利用ニーズが増大し錯綜する可能性があるところ、その円滑な利用調整を行うために必要な法的な枠組みは既に整えられています」と記載されています。

 この度の木原稔官房長官と防衛省の担当者のコメントなどと併せて考えると、日本政府が「利用調整のための法的枠組みを整えた」ことをもって「普天間飛行場の返還条件が満たされている」と認識していることは明らかです。

 しかしながら、現時点で整えられているのは、あくまでも「日米間で利用調整を行うために必要な法的枠組み」でしかなく、米国側は「返還条件は満たされていない」と認識していると言わざるを得ません。

 昨年4月の『沖縄タイムス』の取材に対して、沖縄防衛局は「実際に緊急事態が発生した際の事態に応じた臨機の対応に関する事柄であるため、前もって具体的にどこの滑走路を使用するかといった内容を答えることは困難である」と回答しており、米国側が返還条件として求めている「代替施設の機能を補うための『長い滑走路』の選定」を事前に行うことが困難であると日本政府が認めていることを意味しています。

 これは辺野古に代替施設が完成した後、日米間で具体的な調整を行う段階で、米国側が日本政府に対して「返還条件が満たされていない」と強弁して返還を拒絶する余地が残されているということであり、残念ながら、米国が「返還条件が満たされていないから普天間飛行場は返還しない」と言ってきたときに、日本政府が「普天間を返せ」と毅然とした態度を取る姿を想像することができません

 「辺野古に新たな基地が完成しても普天間飛行場が返還されることはなく、両方の基地を米軍が自由に使い続けている」という「近未来予想図」に対して、「いくらなんでも日米両政府が合意したことが簡単に覆ることはないだろう」「あまりにも悲観的ではないのか」などといったコメントを頂戴することがあるのですが、私には「このまま辺野古に代替施設が完成しさえすれば、必ず普天間飛行場は返還される」との認識が「あまりにも楽観的である」ように思えてならないのです。

「辺野古の代替施設」と「普天間飛行場」についてゼロベースで再検討すべきではないのか

 これまでにも何度か拙稿で論じてきましたが、私自身は、「辺野古移設」について我が国にとって「独立国に相応しい防衛・安全保障体制の構築」ではなく「対米従属状態の固定化」に繋がってしまうのではないかと懸念していることから、基本的に反対してきました。

 しかしながら、辺野古の埋め立て工事が進捗し、現時点において既にポイント・オブ・ノー・リターンを越えてしまっていると考えざるを得ないことから、玉城デニー知事や「オール沖縄」勢力、沖縄で抗議活動を続ける反戦平和活動家たちのように、やみくもに辺野古への移設工事に反対し続けるのは、もはや沖縄の将来にとって得策ではないどころか、マイナスにしかならないと思慮しています。

 「辺野古移設」の決定が為されてから我が国を取り巻く国際情勢は大きく変化しており、中国、北朝鮮、ロシアという核を保有する「侵略的国家」に囲まれ、北朝鮮が核実験を繰り返し、中国が台湾及び沖縄周辺地域の軍事的覇権の確立を目指す意図をあからさまにし、「台湾有事」が現実味を帯びてきている現在、我が国が防衛力を強化すべきであることに疑問の余地はありません。

 戦後最も厳しく複雑な安全保障環境に直面する中で、日米関係において、我が国が「国民の生命・財産」を守るための選択肢として、日米同盟の下で「対米従属状態」を温存する(もしくは従属の度合いをより深化させる)方向と、日米同盟の意義と重要性を認識し、米国との良好な関係を維持することに努めつつも、「独立国に相応しい防衛・安全保障体制」を構築し、米国がどのような選択をしようとも「自分の国は自分で守る」ことを目指す方向の二つの途が開かれています。

 現時点において、現行の「辺野古移設計画」が我が国の防衛・安全保障にとって最善の方策であるかについては極めて疑わしく、「対米従属状態」の固定化に繋がる途であるように思えてなりません。

 辺野古の代替施設と普天間飛行場について、それぞれゼロベースで再検討し、我が国の防衛力強化の全体構想の中に位置づけ直す必要があるのではないでしょうか。

返還後の「普天間飛行場」を「飛行場」として活用するオプション

 具体的には、辺野古に建設される代替施設については、米軍の専用施設として提供することだけではなく、米軍と自衛隊の共同利用や軍民共用からスタートして将来的に自衛隊に移管すること、もしくは米軍に提供するのではなく、最初から自衛隊基地として位置づけることなどをも含めて、あらゆる選択肢と可能性を再検討し、我が国及び沖縄にとって最も望ましい方向性を模索すべきです。

 そして、普天間飛行場については、「米軍に委ね続ける」ということが我が国の「対米従属状態」を固定化するということにしかならず、たとえ米軍が継続使用を強く望んでいるのだとしても「返還」を実現すべきであると考えます。

 現在、沖縄県では、GATEWAY2050プロジェクトなどで「普天間飛行場の返還後」について検討が進められているようですが、「世界で最も危険な飛行場」と認識し、「普天間の跡地利用」に大きな期待を寄せている沖縄県民の多くから厳しい叱責を受けることを覚悟で言えば、返還後に従来のような都市開発を行うのではなく、現状の普天間が有する飛行場としての機能を維持し、自衛隊基地もしくは軍民共用の空港として活用しつつ、周辺諸国との有事や大規模災害に備えるためのインフラとして位置づけることも選択肢の一つとして検討すべきであると思慮しています。

ドンロー主義は日本の安全保障を見直す好機

 「辺野古の代替施設」と「普天間飛行場」についてゼロベースで再検討するためには、もう一方の当事者である米国との交渉を避けて通ることはできず、改めて米国を交渉のテーブルにつかせるということは、「日米地位協定」の改定や我が国の「核保有」を認めさせることと同じレベルの極めて困難な課題であると言えるのかもしれません。

 しかしながら、現在の米国のリーダーであるトランプ大統領の主眼は、「いかに米国の負担を減らすことができるか」ということであり、「辺野古の代替施設」と「普天間飛行場」をめぐって、例えば、日本が防衛力を強化し、両施設を米軍ではなく自衛隊の管理下に置くこと(実質的な普天間飛行場の返還)が米国の負担を減らすことに繋がるというような筋書きで、トランプ大統領が掲げる「米国第一主義(アメリカ・ファースト)」を実現するための、米国にとって有利なディールであると説得力がある物語を構想することは、極めて難しいことであるのかもしれませんが、全く可能性がないという訳ではないように思えます。

 もしかしたら、私たちが勝手に「難しい」と思い込んでいるだけで、トランプ大統領が喜んで「話に乗ってくる」可能性は思いのほか低くないのかもしれません。

 そのために必要となるのは、日米同盟の意義と重要性を認識し、米国との良好な関係を維持することに努めつつも、我が国が「米国に守ってもらう」という甘える気持ちを棄てて、「自分の国は自分で守る」という気概と覚悟を持つことなのではないでしょうか。

 我が国が「対米従属状態」から脱却して「独立国に相応しい防衛・安全保障体制」を構築するために、まずはその第一歩として「日米合意に反することはできない」「米国に任せておけばよい」といった思い込み(=呪縛)を振り払い、「普天間飛行場の辺野古移設計画」を根本から問い直すことから始めてみることを提案したいと思います。

 

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