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【柴山桂太】ポピュリズム論の新たな展開

From 柴山桂太(京都大学大学院准教授) 

『表現者クライテリオン』の最新号が明日、発売されます。今回の特集はポピュリズムです。

ポピュリズムは現代政治のキーワードですが、その意味は曖昧です。共通しているのは、悪い意味で用いられているということ。民主主義が民衆の理性的な判断ではなく、感情や気分に流されるとポピュリズムになる、というのが、識者の共通了解でしょう。

ポピュリズムを字義通りに解釈すると「民衆(ピープル)」の主義なので、必ずしも悪い意味にはならないはずです。これが悪い意味になるということは、民衆は理性的ではなく、その時々の気分やイメージに流される弱い存在だという価値判断を、暗に持ち込んでいるということになります。

確かに、そういう面があるのは事実です。選挙民は、マスコミがつくりだすイメージに流される傾向にある。政治家はそれを逆手にとって、自分を善なる「改革者」に位置づけて、悪しき「抵抗勢力」と孤独に戦う姿を演出する。日本で最も成功したのは、郵政選挙での小泉純一郎でした。

しかし、この時の小泉現象と、今のトランプ現象には大きな違いがあります。小泉はテレビ(特にワイドショー)を味方につけて人気を獲得した。緊縮財政の主張を専門家(特に経済学者)も応援した。しかしトランプは違います。

トランプは大手マスコミを敵に回しています。ニューヨークタイムズやワシントンポストなどの高級紙は、大統領戦の最中もトランプが大統領になった後も、ずっと敵対的です。テレビのコメンテーターも(FOXテレビを例外として)多くはトランプに批判的な論調でした。

専門家も、トランプの政策を認めていません。アメリカの経済学者には保守派もリベラル派もいますが、どちらもトランプの拡張財政や中銀への介入姿勢、保護貿易を強く批判しています。トランプは主要マスコミや専門家を敵に回して大統領選に勝利した。そして今も批判の集中砲火を受け続けているにもかかわらず、まったく意に介していないわけです。

ポピュリズムを、「民衆がマスコミの作り出すイメージやムードに流されて政治家を選ぶ」現象と捉える限り、トランプの出現は理解できません。第一、先の大統領選挙で人気俳優やスポーツ選手を応援に引っ張り出して(つまりイメージ誘導で)選挙戦を戦ったのはヒラリー・クリントンの方でした。それでも勝ったのはトランプだったわけです。

もちろん、ここには選挙制度の問題もあります(アメリカの大統領選挙の投票率は低く、選挙人制度に特有の問題もある等々)が、それだけで片付けられる問題ではないでしょう。少なからぬ有権者が、「マスコミの作り出すイメージやムードに」逆らってトランプに一票を投じたわけで、日本の小泉現象とは明らかに違う「何か」が起きていると考えなければならないわけです。

支持層も違います。小泉は、財政赤字を問題視し、放漫財政の責任を地方の行きすぎた公共事業のせいにしました。これは大都市住民や、その利害を濃厚に反映した大手マスコミの支持を受けましたが、同時に、地方に基盤を置いた自民党内の守旧派(旧田中派)の勢力を削るという政治的思惑もありました。

あえて二分法を持ち出せば、「大都市/地方」の対立で、地方の力を削ぐというところに、小泉人気の秘訣があったわけです。

しかしトランプは逆です。「大都市/地方」の対立で言えば、地方に固い支持基盤を持っている。大都市は圧倒的に反トランプなわけです。つまりトランプ現象には、「大都市優位の政治に対する地方民の反乱」という面が濃厚にある。アメリカに限らず、英EU離脱の国民投票や、最近のイタリアの選挙など、欧米のポピュリズムに広く観察されている現象です。

これは、気分や感情に流された民衆の、非理性的な政治判断でしょうか。トランプの野蛮きわまりない言動を見ているかぎり、そう言いたくもなりますが、真相はもっと複雑で込み入っています。大手マスコミや専門家が、世論の「理性」を独占的に代弁するという構図そのものが、崩れつつあるのです。

今、欧米で起きている政治現象は、一昔前の日本で起きた小泉現象とは質的に違うものだと理解した方がいい。これを「ポピュリズム」という言葉で一括りにしてしまうと、状況を読み間違えるのではないか。今起きつつあるポピュリズムと向き合うには、従来とは異なった状況解釈と新たな政治判断が求められるのです。

今月号の『表現者クライテリオン』は、そのような問題意識から出発して、民主主義論やグローバリズム論、マスコミ論など多岐にわたる論点に触れています。マスコミによくある政治評論に「何かがおかしい」と疑問を感じている向きに、是非、お手にとって頂きたいと思います。

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