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【柴山桂太】沖縄シンポジウムを終えて

柴山桂太

柴山桂太 (京都大学大学院准教授)

昨日の編集長のメルマガにもあったように、沖縄シンポジウムは盛況のうちに終えることができました。来場頂いた方々、そして今回のシンポジウムを取り仕切ってくれた藤原昌樹さんに、あらためて御礼申し上げます。

当日も話したことですが、私はシンポジウムの前日に入って、辺野古に行ってきました。着いたのが夕方だったためか、キャンプ・シュワブの周辺は閑散としていて、ゲート前のテント小屋にも人影はありませんでした。

漁港の方に回ると、埋め立ての様子が遠目にうっすらと見えます。三年前にも辺野古に来たことがありますが、その時に比べると工事は進んでいるという印象を受けました。相変わらず海風が強く、ここにヘリポート基地を建設して大丈夫なのかという疑問が沸いてきます。

辺野古に建設中の海上ヘリポートが、普天間の基地機能をどこまで代替できるものなのか、詳しいことは分かりません。ただ、以前に来た時から、米軍は辺野古と普天間の両方を使うつもりなのではないか、という嫌な疑念が頭を離れずにいます。

約束では、辺野古の基地拡張が済んだら、普天間は返還されることになっている。しかし、ちょうどその時に東アジア情勢が緊迫していたらどうなるか。基地機能の一部を辺野古に移す(そぶりを見せる)ものの、普天間も相変わらず使い続けるということになりはしないか。

シンポジウムが始まる前、控え室でそんな話をしていたら、藤原さんから次の事実を教わりました。昨年6月6日の参議院外交防衛委員会で、当時の稲田朋美大臣が、普天間飛行場の返還条件(緊急時における民間施設の滑走路利用)について調整がつかなければ、「普天間飛行場の返還がなされないことになります」と答弁している、というのです。
http://kokkai.ndl.go.jp/SENTAKU/sangiin/193/0059/19306060059024a.html

その後すぐに、「防衛省としては、そのようなことがないよう」対応していくと付け加えていますが、米国次第で、普天間が返還されない可能性があることを、政府が公の場で認めたことに変わりありません。

6月15日の委員会でも稲田大臣は、普天間が返ってこない可能性について、いろいろ留保はつけているものの、事実上認める発言をしています。
https://www.youtube.com/watch?v=zLvRvFPyqA8

これは一体何なのか。辺野古の埋立を認めたのは、普天間を返還してもらうためではなかったのか。であるなら、米側がさまざまな条件をつけてきたとしても、断固として受け入れないと答弁するのが筋ではないのか。

ところが大臣は、「相手があることなので」と、まるで返還が決まった事実ではないかのような答弁を繰り返しています。おそらく、これが政府の本音なのでしょう。これでは、政府はいったい誰の味方なのか、と批判されて仕方ありません。

米国側からすれば、こんなに楽な話はありません。辺野古基地の建設が済んでも、緊急避難用の滑走路がないと言えば、日本政府が新たに作ってくれるかもしれない。普天間返還を先延ばしにすることで、いくらでも見返りを引き出すことができる。日本が弱気な姿勢を続ける限り、米国がそう足元を見てきても何ら不思議ではありません。

国内に外国軍の基地や軍隊が置かれたままというのは主権国家として恥ずべきことですが、その外国軍が活動しやすいようお金や基地をさらに提供し続けるというのは、もっと恥ずべき事態です。この当たり前の感覚が失われたところに、今の日本の体たらくがあります。

シンポジウムの後、与那国島を訪れました。那覇から五〇〇キロ以上離れた離島で、石垣島より台湾の方が近い、日本最西端の地です。

与那国島に行ってみて、沖縄県は北から南、西から東まで非常に長い距離があることを実感できました。もちろん沖縄県だけではない。北海道から沖縄の果てまで、日本列島は東西南北に広大な距離をもって広がっている(南北軸だけでいえば、欧州大陸が収まるほどの距離です)。国土面積は決して大きいとは言えないかもしれないが、国境線の距離で言えば世界でも有数の長さを持つ国家だということが分かります。

実際に移動してみると、地図を見ていただけでは分からない「地理感覚」とでも言うべきものが呼び起こされます。では、この感覚から出発して、日本の政治と経済、歴史と文化、そして外交や国防をどのように捉え直すべきなのか。今後、新たな視点から考えていきたいと思います。

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