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【川端祐一郎】一極集中を加速するビジネスの仕組み?

川端 祐一郎

川端 祐一郎 (京都大学大学院准教授)

何度も取り上げていてしつこい感じもしますが、先週のメルマガで、東京一極集中の話題に触れました。東京への人口や経済力の一極集中が進む原因について、よく言われるのは集積のメリット(人と企業が集まることで生産性が高まったり、最先端の情報を得やすくなってイノベーションが促進される)ですが、他にも地方のインフラ不足など様々な原因が考えられます。

それで最近気になっているのは、企業の本社機能の重要性が以前よりも増していて、重要な仕事が東京に集中し、それが所得を伸ばして東京だけがどんどん活気づいていく面もあるのではないかということです。

たとえば「チェーン店」に押されて地元の商店が廃業するというケースは日本中で起きていると思いますが、チェーン店というのは、現場の工夫ももちろん大事ですが、商品開発やマーケティングの機能が本部に集中しています。そういう、高級取りな企画職の仕事のクオリティが高ければ、全国で競争に打ち勝ち、ライバルを淘汰できるわけですね。

近年、企業の寡占化も進んでいると言われます。日本では情報通信、小売(コンビニやGMS等)、金融業などの寡占化が指摘されていますし、アメリカではオバマ政権の末期ごろに大統領経済諮問委員会が、企業の新規参入が長期的に減少しているとともに、90年代以降は収益力が上位企業に集中し続ける傾向があることを問題視するレポートを出していました。

寡占化が進む理由としては、いわゆる収穫逓増(規模が大きいほど効率化する)の効果に加えて、M&Aが盛んになったことなどが挙げられるのですが、2011年にE.ブリニョルフソン、A.マカフィーというアメリカの経済学者が書いた『機械との競争』という本(邦訳は2013年)の中では、デジタル技術の恩恵でビジネス・プロセスの複製が容易になることにより、企業の寡占化が進んでいると主張されていました。

たとえば小売業で発注プロセスを改善するシステムが開発されたとして、それは人間が行う職人芸のようなものとは違って、瞬時に他店舗にも拡張できます。すると、本社で企画開発を行う社員が優秀であることが以前よりも重要になりますし、かつ、その人達が優秀でありさえすれば容易に競合を押しのけて市場支配力を高めることができるわけです。

デジタル化による業務ノウハウの複製だけに限るわけでもないと思うのですが、今は、中央の人間が「ビジネスのうまい仕組み」を考えることのインパクトが昔よりも大きくなっているのではないでしょうか。チェーン店はまさにそうですし、Amazonなんかも、単に規模が大きいというのもありますが、マーケティングから物流に至るまでの仕組み全体がうまく出来ているように思えます。

ビジネスの仕組みのうまさは、それ自体が、資本のようにして収益を生み続けます。もちろんそれは大昔から大事なものではあったのですが、どうも最近は、物的資本(機械や建物)や現場の人的資本(労働者の熟練スキル)に比べて、「ビジネスの仕組みのうまさ」という資本の重要性が増しているのではないか。そして相対的に現場の労働力の価値が低下していて、これが地方の衰退の一因にもなっているのではないでしょうか。

規模の経済や収穫逓増の効果はもちろん今も大きいと思います。生産の効率化以外にも、大企業は大量のデータを蓄積してそれを成長に生かすことができ、成長するとさらに豊富なデータが蓄積されるといった循環がありますね。私が言いたいのは、大企業がより強くなるだけでなく、大企業の中でも価値を生み出す力を中央に集中させた企業の成功が目立っているのではないか、ということです。例えば、コンビニが個人商店を駆逐したとして、勝者であるコンビニの店員が個人商店の店員よりも豊かなのかというと、そんなことはなく、豊かになるのはコンビニの本社です。

もちろん、だからといってチェーンストアを解体しようと言うわけにもいきませんし、上述のようなことが本当に言えるのかについては実証的な分析も必要です(経済産業研究所が『本社機能と生産性:企業内サービス部門は非生産的か?』という論文を出していますが、これはスタッフ部門に着目したもので、分析対象が上述のような企画・開発部門とは異なります)。

しかし仮にビジネスのあり方の変化が東京集中を加速しているのだとすれば、何らかの打ち手は必要です。またチェーン店の場合、法人事業税が本社所在地に吸い上げられるという問題もあって、その是正も必要でしょう(地方法人特別税のような改善の努力もなされてはいますが)。一極集中問題はこの後も、引き続き考えていきたいと思います。

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