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【川端祐一郎】「観光公害」の深刻化を見て考えるべきこと

川端 祐一郎

川端 祐一郎 (京都大学大学院准教授)

先日、観光庁が「観光公害」に関する調査を開始するというニュースが流れていました。
「観光公害」初の実態調査 政府、平穏な住民生活との共存探る

観光公害というのは、観光客の急増がもたらす悪影響の総称です。具体的には、交通機関が混雑したり、価値観や習慣の違いから観光客と住民の間で摩擦が生じたり、無届けでの民泊営業のような違法行為が蔓延したりすることを指しています。

最近、特によく論じられているのは、外国人観光客の(日本人から見た)「マナーの悪さ」の問題です。以下の記事は韓国の中央日報が日本語で配信しているものですが、
外国人観光客3000万人の影…「観光公害」に悲鳴上げる日本(1)
外国人観光客3000万人の影…「観光公害」に悲鳴上げる日本(2)
ゴミのポイ捨て、レンタカーでの交通事故、宿泊施設やレストランのドタキャン、鹿を追い回して噛まれる(苦笑)などのトラブルが後を絶たず、京都市は「無理やり舞妓さんの写真は撮らないでください。畳に土足で上がらないでください。飲食店にドリンクや食べ物を持ち込まないでください。レストランのドタキャンはやめてください。帽子やサングラスをしたまま参拝しないでください」などの注意事項をまとめた「京都のあきまへん」というパンフレットを配らざるを得なくなったとのことです。

他にも報道で見かけたものを挙げると、外国人観光客が花見シーズンに桜の木に登ったり枝を折ったりしているとか、京都の嵐山では竹林の竹に名前が刻み込まれていたというような事件がありましたし、マナーの悪い観光客が増えたおかげで日本人の固定客が離れてしまい、売上が落ちたという居酒屋の例などもありました。

以前のメルマガ(「東京一極集中と日本の小国化」)でも紹介したように、安倍政権が発足した2012年には訪日外国人観光客が年間800万人ほどだったのが、2017年には3000万人弱にまで膨れ上がりました。その背景には、円安やデフレの継続によって、外国人から見て日本旅行が「割安」になっていることや、安倍政権下で中国人に対する観光目的のビザ発給用件が緩和されてきたこと等があります。

外国人観光客の急増は、当初は単なるお祭り騒ぎのようなイメージだったと思いますが、それに不快感を覚える日本人も徐々に増えてきたのだということを、これらのニュースは示唆しています。私の個人的な印象でも、京都のタクシーの運転手さんなどで、観光客の増加をあまり快く思わない人が増えたような気はします。

もちろん、当たり前ですが、外国人観光客を悪く言っても仕方がありません。今生じているトラブルのある程度の部分は「バブル的急増」が招いている一時的混乱かもしれませんし、そもそも来訪を奨励してきたのは日本の方です。それに我々日本人だって、文化や慣習を守る努力をどれだけしているのかというと怪しいものです。

しかし誰が悪いかという問題の前に、やはり重要だなと思うのは、異文化間の接触が慎重さを欠いた形で進むことによって大変な摩擦が生じるのだということが、日本でもリアリティを持って実感されつつあるということです。

私自身は何も直接的な害を被っていないので、外国人観光客に対して「日本に来ないでほしい」というような感情は抱きません。むしろこの夏などは、街で外国人を見かけるたびに「せっかく来てもらったのに暑くてすいません」と申し訳ない気持ちになったものです。しかし上に挙げたように、外国人の過大な流入は、やはり様々なトラブルを招くというのが事実なのです。

安倍政権が進めようとしている外国人労働者(移民)の受け入れ拡大の是非を考える上でも、この「観光公害」の経験は、一つの参考材料にはなるのではないでしょうか。もちろん「観光」と「移民」では問題の次元が異なりますが、人々の日常生活を支えている常識のようなものが通用しない場面が増えた時に、いかに堪え難いストレスがもたらされるのかということ、そしてそれは日本人と外国人の双方に不幸な結果をもたらすのだということを、我々はよく肝に銘じておく必要があります。

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