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【小浜逸郎】自ら米中の奴隷役を買って出る日本政府

From 小浜逸郎(評論家/国士舘大学客員教授) 

連日、武漢発の新型肺炎のニュースでマスコミもネットも持ちきりです。
さまざまな情報が乱れ飛んでいますが、今のところ、どこまで感染が拡大するのか、どれほどの被害者が出るのか、見当がつきません。
確実な情報が限られていますし、日ごとに状況が変わるし、深く長く中国に進出している日本企業の社員の去就や、産業の低迷下の危機など、微妙かつ予測不可能な問題もありますので、現時点であれこれ論評するのは差し控えたいと思います。
日本政府や医療関連機関が蔓延を最小限度に食い止め、一刻も早く事態の終息に向かってくれることを祈るばかりです。

ただ気になること、というか、腹立たしく感じたことが一つだけあります。
在中国日本国大使館の公式HPに掲載された「安倍晋三内閣総理大臣春節祝辞」についてです。
これが掲載されたのは、1月24日です。
すでに多くの批判が寄せられていましたが、まぐまぐニュースhttps://www.mag2.com/p/news/437867によれば、1月30日午後1時の時点でまだ掲載されていたそうです。
筆者が31日午後8時に検索したところ、ようやく削除されていました。
しかしもはや公表されてしまっているので、なかったことにすることはできません。
以下に全文を掲げましょう(上記まぐまぐニュースより)。

日本で活躍されている華僑・華人の皆様、謹んで2020年の春節の御挨拶を申し上げます。
今春、桜の咲く頃に、習近平国家主席が国賓として訪日される予定です。日本と中国は、アジアや世界の平和、安定、繁栄に共に大きな責任を有しています。習主席の訪日を、日中両国がその責任を果たしていくとの意思を明確に示す機会にしたいと思います。
本年夏には、東京オリンピック・パラリンピックが開催されます。日中両国の選手が大活躍することを心から祈念します。両国は本年を、「日中文化・スポーツ交流推進年」として、人的・文化交流を一層推進していくことで一致しています。著名なアイドルグループ「嵐」に、この推進年の親善大使を務めてもらいます。国民間の交流が、相互理解・信頼を更に深める役割を果たすことを期待しています。
春節に際して、そしてまた、オリンピック・パラリンピック等の機会を通じて、更に多くの中国の皆様が訪日されることを楽しみにしています。その際、ぜひ東京以外の場所にも足を運び、その土地ならではの日本らしさを感じて頂ければ幸いです。同時に、更に多くの日本国民が中国を訪問し、中国への理解を深めて頂きたいと思います。
日中関係の発展のため、華僑・華人の皆様に、日頃から両国の間の架け橋として貢献して頂いていることに感謝申し上げると共に、新年が皆様にとり素晴らしい年となりますことを、そして皆様のお力添えのもと日中関係が更に発展することを心より祈念し、新年の御挨拶とさせて頂きます。
2020年1月
内閣総理大臣
安倍晋三

全文が空々しいとしか言いようがありませんが、特に強いブーイングが寄せられたのは、「春節に際して更に多くの中国の皆様が訪日されることを楽しみにしている」という部分です。
この祝辞が掲載された24日には、新型肺炎の感染者は中国国内で883人、死者は26人と報告されており(他の情報によれば、こんなレベルのものではないらしい)、日本国内でも2人目の発症者が出ています。
この文章が仮に新型肺炎発覚前に起草されたのだとしても、発表の時点で控えることはできたはず。
平気でこういう文章を載せる日本官僚(大使館員?)の神経を疑います。

もちろんそればかりではありません。
ここには、日本政府のここ1年ばかりの対中姿勢がもろに出ています。

周知のように、アメリカが中国に対して経済制裁を仕掛けてから2年経ちますが、これは次第にエスカレートしていきました。
中国側も報復措置に出たものの、アメリカの措置が相当な痛手だったことは間違いないようです。
俗に貿易戦争と呼ばれていますが、これが、アメリカの衰えに乗じて中国が世界の覇者たろうとのし上がってきた両国の覇権戦争の一角であることは、貿易以外のさまざまな対決姿勢から見て明らかです。

トランプ政権は本気で中国を叩こうとしています。
さてその過程で、これまでの対日姿勢を一変させて(うわべだけですが)、「金持ち国」日本にすり寄ってきたのがこの1年ほどの中国です。
この豹変ぶりを見ていると、アメリカによって受けている中国のダメージが相当のものであることがうかがえます。

お人好し国・日本はこの「すり寄り」を、長い間の確執が雪解けに向かったものと勘違いして、日中友好・親善の兆しとして受け止め、歓迎しています。
古くからの親中で有名な二階自民党幹事長などは、こんな言葉まで吐いている始末です。

《親戚の人が病になったという思いで日本人みんな思っていますから、中国の皆さんが一日も早く奮起をして元気になって頂きたいと願っております。出来るだけのことを国を挙げて対応しようとしています。必ず中国のお役に立てるように、結果を出せると思っています》

多くの大企業が中国に進出しているので、それを集約する利権屋政治家のたわごとと言ってしまえばそれまでですが、「親戚の人が病になったという思い」を「日本人みんな」が抱いているはずがありません。
2019年10月に言論NPOと中国国際出版集団が行なった「第15回日中共同世論調査」の結果によれば、中国に「「悪い印象」を抱いている日本人が84.7%に昇っています。
http://www.genron-npo.net/world/archives/7382.html

昨年も中国の公船が尖閣諸島周辺の領海侵入を繰り返していますし、ロシアと合同で爆撃機が領空侵犯すれすれの行動をとっています。
また沖縄や北海道への合法的な領土進出を進めていることも多くの日本人が知っています。
「南京大虐殺」も中国の巧妙な情報戦によって、国際常識として定着しつつありますね。
さらに中国人観光客のマナーの悪さについても有名です。

何よりも、中国共産党の日本に対する大戦略の要の一つは、日米分断にあります。
ですからこの1年ほどの「すり寄り」も、お人好し日本から金を引き出し、同時に政治的にもうまくこちらの言うことを聞かせてやろうという魂胆見え見えだと考えるのが、まともな判断というものです。
そのことを自覚せずに、先のような「総理大臣 安倍晋三」名義の声明を発表する在中日本大使館は、たとえ新型肺炎の問題がなくても、ノーテンキそのものと言うべきでしょう。

これを単なる社交辞令と見なすことはできません。
文中、「今春、桜の咲く頃に、習近平国家主席が国賓として訪日される予定」とありますが、国賓には天皇陛下が直接対面されます。
当然、習近平主席と「和やかに握手し、楽しく食事する」ツーショットが撮られ、それが世界に発信されます。
そうすれば、世界、特にアメリカ政府はどういう印象を抱くでしょうか。
「そう、日本は中国につくのね」と思うのではないでしょうか。
これは同盟国の裏切り行為といっても過言ではありません。
また、85%の国民が悪印象を抱いている相手国の元首を「国賓」として招くことは、国内的にもけっして望ましいことではありません。
筆者は確信しますが、いま「習近平主席を国賓として招くことに賛成ですか」という世論調査をやったら、圧倒的多数で反対と出るでしょう。
しかしマスコミがそれに踏み切らないのは、結果が想定できるのであえて避けているにちがいありません。

習主席の国賓招待は、「この時期には適切でない」とかなんとか適当な理由をつけて、断固中止すべきです。
不謹慎な言い方で恐縮ですが、新型肺炎が流行しつつある今こそはそのチャンスなのです。
またこれを奇貨として、中国に進出している日本企業も撤退を進め、落ち込んでいる国内需要の開発に努めるべきです。
右顧左眄を繰り返してきた日本外交も、ここらでぐっと身を引き締め、真の独立国としての毅然たる態度を内外に示すべきではないでしょうか。
今の安倍政権にそれを期待するのは無理なのかもしれませんが。




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 5月16日(土)
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コメント

  1. 斑存・不苦労 より:

     トランプにもプーチンにも南北朝鮮にも更にはあげくの果てに集金payにも貢ぎまくり。
    何処が地球儀外交なんでしょうか。日本義外向のおべんちゃら外交なだけの金一徹。
    こんな風見鶏国家、舐めくさっても絶対反論はしてこないと思われるのがオチです。
     まぁ仕方ないですね。国境に拘る時代ではない友愛平和を目指す国家ですから。
    やっぱり立憲主義と国際平和に拘って仲良し同盟してれば万事収まるとシンじてきたピース日本自身が悪いのです。

     追伸(思い違いであれば消してください)。
    最近TOKIOのNHKの食・云々かんぬん番組で稲作が大陸から伝わったみたいに受け取れる番組をちょっと見掛けました。あれは今でもまだNHKは中華思想を植え付けようとしているのでしょうか。

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