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【書評】精神の修練としての哲学――篠崎奏平

啓文社(編集用)

啓文社(編集用)

皆様こんにちは。
本日は現在発売中の『表現者クライテリオン』2022年9月号より書評をお届けします。

 

精神の修練としての哲学

篠崎奏平

 

ピエール・アド 著
合田正人 訳
『ウィトゲンシュタインと言語の限界』
講談社/2022年6月刊

 

 アドはフランスにおいて最初にウィトゲンシュタインの哲学を論じた哲学史家の一人である。

本書は一九六〇年前後に展開された彼のウィトゲンシュタイン論をもとにしており、現在の進んだ研究と比べればすでに語りつくされた論考であると言えなくもない。

しかしアドにはアド自身の哲学的問いがある。アドはウィトゲンシュタインを通して自分自身の問いを問うているのであり、その意味で本書は研究書というよりは批評である。研究は新しさを提示しなければならないが、批評は持続的普遍を写し出そうとする。本書は哲学批評としての輝きを確かに宿している。

 

 アドは本来神秘主義哲学の専門家である。だからこそ「語ることのできないもの(=神秘)については、沈黙しなければならない」と断言してみせたウィトゲンシュタインの『論考』に衝撃を受けたのかもしれない。

『論考』は「言葉には語ることのできる範囲と、そうではない範囲がある」ということを示そうとした大著である。言語とはあらゆる命題(ex.ここに犬がいる)の集合体であり、対して世界は実際に起こりうる事実の集合体である。

世界内の諸事実に対し、言語の諸命題がそれぞれ位置づけられており、現実空間と論理空間は相対応している。ここに「意味」が生じるのだとすれば、実際には起こり得ない形而上の問題を扱う哲学的言語は全て無意味な言説であることになる。言語が世界の外側について語ることは不可能なのであり、世界の原理や起源といった事柄については沈黙しなければならないのだ。

 

 しかしそうだとすれば『論考』自体も無意味な言説によって紡がれていることになりはしないか。

さらになぜ我々は『論考』に書かれた無意味な文章の意味を理解することができるのか。『哲学探究』を記した後期ウィトゲンシュタインの哲学はこの点を克服している。

『探究』において言語が超えることのできない壁は世界ではなく「言語ゲーム」である。言語ゲームとは「生活の形式」によって規定されるルールであり、その時々の文脈によって展開される言語ゲームは異なる。

「神」とはまさしく世界の外側の存在に関する言葉だが、キリスト者の祈祷の中に登場するこの言葉は無意味ではなく、特殊な意味を持つだろう。そこでは宗教的言語ゲームが展開されているのである。状況に応じて適切な言語ゲームの中に身を置くことで言葉は意味を持つ。ウィトゲンシュタインは言うだろう。言語を理解するということは「楽曲の主題を理解すること」に近いのだと。

 

 本書を通して見えてくるアドの問いは「哲学とは何か」ということであろう。

確かに人間が言葉によって世界の原理を確定させることは不可能である。それが明白でありながらも、しかし言葉は自らの限界へと突き進んでいく性質を持つ。ここに展開される哲学的言語ゲームとは何か。アドはそれを精神の修練であると結論づける。

人間は哲学を通して生き方や世界の見方を変革することがある。しばしば精神的不安と戦わなければならない人間にとって、哲学は己の問いを見つめ直す修練を支える友に他ならないのだ。

 

 

『表現者クライテリオン』2022年9月号 『岸田文雄は、安倍晋三の思いを引き継げるのか?』
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