今回は、『表現者クライテリオン』で毎号掲載しているコラム【鳥兜】を公開します。
2021年11月号の2つ目のタイトルは「タリバンの原理主義と欧米の独善」。
『表現者クライテリオン』では、毎号の特集のほかに、様々な連載も掲載しています。
興味がありましたら、ぜひ本誌を手に取ってみてください。
以下内容です。
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新型コロナや自民党総裁選、総選挙のニュースに埋もれてほとんど注意が及んでこなかったが、8月末に20年続いたアフガニスタン紛争が終結し、第二次タリバン(暫定)政権が発足した。
米国とその友好国の軍が、「アル=カイダを匿った」との理由でアフガニスタンに侵攻したのは2001年である。
この時、1996年以来同国を統治していたタリバンは短期間で首都カブールから駆逐され、3年後の2004年に国連の管理下で選挙が行われて、アフガニスタン・イスラム共和国(カルザイ大統領)が成立した。
しかしその直後からタリバンは抵抗を再開し、長年に渡って戦闘と停戦が繰り返されてきた。
オバマ政権期からトランプ政権期にかけて、タリバンとアフガニスタン政府、そしてタリバンとアメリカ政府の間で、和平交渉が何度か行われてきたが、話がまとまることはなかった。
その間にもタリバンは拡大を続けていくつかの州を支配下に置き、トランプ政権期にはアメリカも真剣に撤兵を考えるようになっていた。
バイデン政権の発足後もタリバンの勢力伸長は留まることがなく、今年8月15日にはついに首都カブールを包囲。共和国政府はタリバンへの政権移譲を発表し、8月30日に米軍が撤退、翌31日にはバイデン大統領が戦争の終結を宣言した。
アメリカ政府はこの戦いに累計二兆ドルを投じたと言われるが、結局タリバンを排除することはできず、全面敗北を認めたことになる。
今に始まったことではないが、日本のメディアにはこの事態を主体的に解釈する姿勢はほぼ皆無で、欧米由来の反タリバン・プロパガンダを無批判に垂れ流している。
「再び“暗黒の時代”に…タリバン政権復活で」(9月9日、日テレ)
「アフガニスタンで音楽学校が閉鎖 タリバン復活に生徒ら恐怖『もはや生きている感じがしない』」(9月18日、時事通信)
「アフガニスタン タリバン 見せしめ“容疑者の遺体”つるす」(9月26日、NHK)
「女性の権利侵害などに懸念高まる」(9月27日、読売テレビ)
「国連総長、タリバンを非難 女性の権利尊重、約束破る」(10月12日、時事通信)
要するにタリバンは偏狭で過激なイスラム原理主義勢力で、自由の戦士アメリカが撤退を余儀なくされたことにより人権無視の恐怖政治が始まる、というようなイメージを持っているのだろう。
確かにタリバンは厳格なイスラム主義を唱えており、西洋風の政教分離や民主主義は認めない。
イスラム主義の下で、女性の権利の制限や、芸術に対する排斥や、服装の画一化などが進められる可能性は高く、それが我々の眼に「非文明的」と映るのは確かである。
しかしタリバンの政権奪取以前に善政が実現されていたとは全く言えない。
欧米の肝煎りである共和国の「民主的」政府は腐敗にまみれ、統治機構の体を成していなかったと言われており、それがタリバンによる「異教徒からの解放」運動に支持と正統性を与えてもきたのだ。
そもそも、ソ連の撤退後に勃発した軍閥同士の内戦を1996年に収拾して秩序を回復したのがタリバンで、その秩序を崩壊させたのは2001年に侵攻した欧米の軍である。
アル=カイダを匿ったからだと言っても、そのアル=カイダを反ソ連の闘士として育てたのはCIAだ。そしてイスラムの論理と世界観を無視した民主化政策は、今回も大失敗に終わった。
また、タリバンがイスラム主義勢力全体の中でみれば穏健な方に属していることも理解しなければならない。
今回アメリカとの和平に達したタリバンは、例えば過激派である「イスラム国」からは対米ジハード(聖戦)を放棄した「背教者」とみなされ、攻撃を受けてすらいるのである。
平均的日本人がタリバンに強く肩入れする必要はないだろうし、イスラム主義の思想に共感することも難しい。
しかし欧米諸国の独善に対しても疑いを持ち、その失敗の歴史を記憶しておくのでなければ、情勢判断を大きく見誤るに違いない。
(『表現者クライテリオン』2021年11月号より)
他の連載は『表現者クライテリオン』2021年11号にて
『表現者クライテリオン』2021年11月号
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