【読者投稿】「虚実定かならざる情報」との付き合い/八ヶ岳と縄文文化の形成ー北海道生まれが感じる信州の魅力

啓文社(編集用)

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場末の酒場

 

織部好み(東京支部)

 

見てきた物や 聞いた事 今まで覚えた全部

デタラメだったら面白い そんな気持ちわかるでしょ

~~~ ザ・ブルーハーツ 「情熱の薔薇」より ~~~

 私達の生活環境は様々なモノ・コトが存在し影響し合う動的均衡な状態で構成されており、それぞれの対象(更にそれらの個々、部分、全体)には様々な情報が付随しています。 しかし私達はその多くについて無知・無理解・無関心であり、生活での必要性や個人的関心を中心としたごく狭い範囲を、漠然と実害が無いと感じる程度に認知しているに過ぎません。

 上記認識を踏まえつつ、私と縁があった「虚実定かならざる(魅力的で怪しい)情報」との付き合いについて振り返ってみました。

 私は母に「女手一つ」で育てられ兄弟もいません。 一人で過ごす事が多かった為か、学生時代は一人遊びが上手で空想癖の傾向がありました。 その境遇において特段の不幸や不自由を自覚してなかった一方、「普通」という状態がピンと来ない、客観性や安定性を欠いた傾向が見られたと思います。

 そのうち本が好きになり、書店での立ち読みが常習となり、中学生の頃は科学学術雑誌「サイエンス」とオカルト雑誌「ムー」の妙な取り合わせを毎月購読していました。 「サイエンス」については理解できないなりに、「ムー」については半信半疑なりにそれらの掲載情報を楽しんでおり、真偽を超えた刺激を受け、思索に耽っておりました。 (ちなみに「ムー」はさておき、「サイエンス」の論文も信頼に足るモノばかりではありません)

 信憑性はともかく、今でも双方、記事のインデックスを眺めるだけで結構愉快です。

 この辺りから未熟ながら「死生観」や「人生の意味」といった思想・宗教的なモノや、「人類の行末」といった恐らく確認不可能な未来を想う機会が増えました。 これらは周囲の人達が普段考えているとか、概ね合意している様な分かり易い答えが無い為、心理的に孤立にも苛まれていたと思います。 情緒的にも不安定なこの時期、質の悪い宗教に引っかからないで幸いでした。

 高校生になるとSF小説なども読むようになり、中でも「半村良」という作家の「いかにも本当っぽい嘘(の表現)」に魅了されました。 30を超える多彩な職種経験があり、その知見と洞察力からか、作中の「嘘」について「いかにも実際にありそう」と思わせる描写を得意としています。 自ら「嘘屋」を称し、小説「闇の中の系図」では嘘つきの主人公を日本の国家運営を古代からプロパガンダで支えてきた組織で活躍させています。 この作品は歴史について学ぶ部分が多く、一例を挙げると、欽明天皇の在位中(552年)に伝来した仏教を政治システムに取り入れた理由について「近代国家の建設の為に(神道には無い)来世思想が必要だった」と洞察し、当時の歴史的背景を説明しつつ様々な統治の工夫や律令制度の導入までをセットで表現しています。 他にも様々な歴史解釈が披露されているので、興味のある方は是非ご一読ください。

 より一般的な話では、歴史(過去の出来事)も虚実定かでは無い点も多く、近年の研究成果により様々な定説が覆されているのは面白く感じたり落胆したり。 司馬遼太郎には楽しませていただきましたが、司馬史観なんて正しい歴史認識に弊害が多い事……。他には西洋人の侵略の歴史や太平洋戦争に関して日本が受けた数々の冤罪のプロパガンダなどなど。 (この辺りは書き出したら際限が無くなりますね) これら諸々を考える機会を得た結果、「何が真実か」とは別に「(その時々で)何を真実として扱うか」の大事さも分かるようになりました。

 それでも処世術を超えて「真実」を求めたくなってしまう(そうするべきだと考えてもしまう)ので厄介な話なのですが。

 こんな私が最近、「陰謀論」という表現について想う事があります。 歴史を紐解くまでも無く、日常生活(会社生活とか)の中にも大小たくさんの陰謀があります。 確証が無いモノ・コトを安易に信じるのは思考停止ですが、同様にこの言葉を拙速に使う事にも思考停止を感じています。 「陰謀論」(あなたの主張は誤っている、あなたは騙されている)と決めつける側が相手を見下す態度となる事も多く(双方思考停止なのに……)、その際の無自覚な意味不明の余裕もまた不愉快です。 真摯に話し合いを行う態度ではないですし。

 この手の話は、「どの事案か」「どの範囲についてか」を具体的に明確にして、双方、確定にまだ足りない場合は、その根拠(状況証拠や推察)を元に、あくまでも仮説として会話を成立させた上で相手の情報を加味した憶測を楽しく展開できると良いですね。

 メディアの今の状況(体たらく)から真っ当なニュースソースの確保が難しく、ソースも個々人でバラバラ、そもそも皆さんお忙しいから丁寧な議論は難しいですが、そんな状況だからこそ「陰謀論」と言う表現は丁寧に取り扱ってもらえればと思った次第。


 

八ヶ岳と縄文文化の形成ー北海道生まれが感じる信州の魅力

 

加藤達郎(教師・信州支部)

 先日、長野県茅野市の「蓼科山(たてしなやま)」に登った。南八ヶ岳の北端にあり、その美しい山容から諏訪富士と呼ばれ、地元の人に愛されている。

 軽い岩登りのような急峻な登山道の先には、岩石の海と呼べるような山頂が待っていた。1~5mほどの岩が無数に集まり、地面を作っていた。木々が育たないため遮蔽物がなく、絶景が広がっていた。一方で吹き付ける風が厳しく、厳しい環境であった。

 蓼科山の山頂付近は火山噴火によって生じた岩石帯である。緑豊かな蓼科山の麓とは対照的である。山麓には蓼科山が生み出す清らかな水が湧き、複数の湖や様々な植物が育つ高原が広がっている。

 そんな蓼科山の麓には多くの縄文遺跡がある。おそらく、豊かな自然環境は我々の先祖にとっても生活しやすい場所であったのだろう。

 その一つの棚畑遺跡という場所からは、縄文のビーナスが出土されている。この縄文のビーナス、ほぼ完全な形で出土しており、国宝に認定されている。

 縄文のビーナスは、寝かせるように安置した状態で出土していたらしい(尖石縄文考古館のサイトより)。そのことから当時の人々にとって、とても大切な存在で、おそらく芸術性や精神性、宗教性などが表現されているのだろう。

 数千年前、我々の先祖が八ヶ岳の麓でどのように生き、何を信じていたのか……そんなことを推察する手がかりが縄文のビーナスにはある。

 表現意欲をもち、形にするためには、ある程度の定住期間が必要だと思う。次々と移住していては、生活することに精一杯になり、表現する気力が生み出しにくいという実感が自分自身にある。

 蓼科山の麓には、おそらく世代を超えて居住できるほどの恵みがあり、その中で縄文のビーナスが生まれたのだと思う。蓼科山の麓で十分な食物を得ながら定住生活をしていた先祖は、人口を増やしながら、日々の生活がより安定するよう努めた。

 狩猟や採取などをして食物を確保する者、土器や石器を作る者、住居を作る者、未開の地を探索する者、そして祭りのような儀式を司る者……おそらく、複数の役割を担いながら、各分野で優れた技量を発揮する者が指導者となり、伝承していったのだろう。

 そうした中で、生活が長期的、安定的になっていった。また、定住する人々の共同性も高まっていった。縄文のビーナスはそんな状況の中で生まれたのではないか、私はそう思っている。

 現代日本人にとって、八ヶ岳の麓に住んでいた縄文日本人の在り方を知ることが、一体何の役に立つのか……今の私には明確に答えることができない。ただ、日本という国土に合った生き方のヒントがそこにはあると考えている。自然を信仰し、八百万の神という概念を生み出す原動力がその当時から少しずつ根を伸ばしていたのではないだろうか。

 悠久の自然と人間の繋がりを感じさせる信州八ヶ岳。今はその表面を撫でる程度しか知り得ていないが、今後も魅力溢れる信州の中で生活しながら、実際にこの足で繰り返し訪れて、自然に息づく人間の歴史を学び、気づきを広げていきたい。

 

 

「読者からの手紙」と「表現者賞」について

「表現者クライテリオン」では、読者からの投稿を募集しています。投稿は1200~1600字程度の批評や感想、手紙などを想定していますが、4000字程度の高水準の原稿は「寄稿」として掲載される場合もあります。投稿には氏名、年齢、居住地、職業を記載し、各号につき1人2本までとしてください。締切は発売前月の10日です。 また、本誌では次世代の書き手を発掘するため、掲載された批評や寄稿の中から優秀なものを選定し、「表現者賞」を授与しております。多くの投稿をお待ちしています。

送り先
メール: info@the-criterion.jp
FAX: 03₋6709₋8873


<編集部よりお知らせ1>

 

浜崎洋介先生の新刊『小林英雄、吉本隆明、福田恆存ー日本人の「断絶」を乗り越える』の出版を記念して、トークイベント&サイン会を開催!

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■ 日時: 14時~16時
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表現者塾生・クライテリオンサポーター: 2,000円 
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<編集部よりお知らせ2>

 

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