2月16日(土)に、『表現者クライテリオン』の最新号が発売されます。
https://the-criterion.jp/backnumber/83_201903/
今回の特集テーマは2つあるのですが、1つ目は「平成デフレーション」。レギュラー執筆陣に加えて、佐伯啓思氏、小林よしのり氏、適菜収氏、與那覇潤氏、仲正昌樹氏、中森明夫氏といった論者にご登場頂いています。
デフレーションと言っても、経済問題としての「デフレ」に特化した議論をしているわけではありません。平成というのは、経済・政治・社会・文化のどこを眺めても衰退や喪失の気分に覆われていた時代で、この時代そのものの基調を我々は「平成デフレーション」と呼ぶことにしたわけです。
英語の「デフレーション」はもともと、「空気が抜けてしぼんでいくこと」を意味する言葉です。平成というのは、経済面で言っても昭和末期のバブルから一転して収縮に向かう時代でしたが、文化的にみてもキラキラした消費社会の紊乱が終わりを告げ、坂を下るような気分が続いた時代だったように思います。また政治・行政においても、肥大化した政府こそが現代の閉塞感の元凶であるとして数々の改革を仕掛け、強引にその機構の縮小を図ったのでした。
今年は御代替わりということで、雑誌でもテレビでも平成の30年間を回顧する特集がたくさんありました。しかしどの特集をみても、平成を単に「激動の時代」と呼んでみたり、流行り物を思い出して懐かしんだりするだけで、我々が生きたこの30年間が「総じてどのような時代だったのか」を論ずるものは少ない。ましてや、それが良い時代だったのか悪い時代だったのかと価値判断を下すようなオピニオンに接することは稀ですよね。
哲学者のホセ・オルテガは「時代の高さ」というものがあると言ったのですが、平成というのは果たして高い時代だったのか、低い時代だったのか。本誌『表現者クライテリオン』の特集は、平成をいわば高み(であると多くの人の目に映っていた場所)から低みへと転落する時代と捉えた上で、何が問題であったのか、そして新たな御代をお迎えする我々にはどんな努力が求められるのかを論じるという企画です。
本号に登場いただいた論者の多くが指摘しているのは、平成の初頭には日本人の気分も明るかったのだということ。ただしその明るさというのも、実のところバブル景気による刹那の幻想や、「改革で日本は強くなるのだ」というような妄想にすぎませんでした。冷戦終結後の危機に満ちた時代状況の中で日本人は、政治・経済・社会と至るところに「改革」を仕掛け、その結果状況は良くなるどころか悪化の一途をたどったのです。
また、これも多くの論者が共通して指摘するところですが、われわれ日本人が本当になすべきだったのは、古い日本的なるものの破壊をめざす「改革」などではなく、「ナショナリズム」の確立であったということです。
佐伯啓思氏の言葉を借りれば、「自分たちの生活スタイルや文化に対する確信」「自国の歴史や文化のよきものを守ろうという自覚的な意識」「それを基盤にした愛国心と国や社会に対する責任感」をいかにして持つか。それこそが平成日本人の背負うべき本来の課題だったのであり、次代の日本人が取り組まねばならない問題でもあるわけです。
しかし我が国は今もナショナル・アイデンティティやナショナリズムの解体をより一層徹底したものにしようとしているように見え、その象徴の一つが移民受け入れの推進です。そこで今号では第2特集として、「移民問題」を取り上げることにしました。
この第2特集では、先般通過した移民法(改正入管法)がいかに危険に満ちたものであるかを室伏謙一氏が解説し、欧州で最も先鋭的に移民立国を推し進めてきたドイツが巨大な矛盾に直面し、身動きの取れない事態に陥っている様子を川口マーン恵美氏が報告しています。また施光恒氏、黒宮一太氏、柴山桂太氏と私の4人で、移民問題を「近代」そのものに埋め込まれた宿命的な課題であると捉えた上で、今後の世界秩序と日本国家のあるべき姿を検討する座談会を行っています。
欧州の移民問題を論じたダグラス・マレー氏の『西洋の自死』が話題になっていますが、我が国もその後を追うようにして「自死」の道を前進しつつある。どうやら新時代の幕開けも、明るいものになると期待するのは難しそうです。
昨年2月の創刊から丸一年が経過して、本誌の内容はますます充実しています。今終わりつつある「平成」とはどのような時代であったのか、そして我々は今どのような時代を生きていて、どのような目標を持たねばならないのか。こうした疑問に取り組むための一助として、多くの方に『表現者クライテリオン』最新号をお読みいただきたいと思います。
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