『表現者criterion』メールマガジン

【藤井聡】「ゆでガエル」以上に愚かな、日本の知識人達

From 藤井 聡(表現者criterion編集長・京都大学教授) 

唐突ですが、昨今、我が国の状況を描写するのに、
「ゆでガエル」という比喩がよく言われます。

カエルが入った水を徐々に温めていくと、
その哀れなカエルは、その水が熱い湯になっても気付かず
死んでしまう、という比喩。

一面において確かに、
今の日本ほどこの表現がぴったりと当てはまる国は、
余所にないように思います。

とはいえ、よくよく考えて見れば、実際の日本は、
この「ゆでガエル」よりもさらに愚かに思えてきます。

我が国は、98年、深刻なデフレ不況という
「熱いお湯」の中に無理矢理ぽちゃんと入れられます。

普通なら「あつっ!!」とばかりに逃げ出せば良いのですが、
一向に逃げ出しません。

「おしんのしんは、辛抱のしん!」だの、
「米百俵!」だのと言いつのりながら、
嬉々として国民総出で「無駄な辛抱」をしはじめます。

結果、今や瀕死の重傷に陥っている――

のですが、その状況にほとんど誰も気付かず、
未だに「先進国」だ「経済大国」だのと、
のんきな事を言っているのが、
我が国日本の情けなき現状です。

我が国は今、「酷い状況に愚かにも気付いていない」
という一点は確かに「ゆでガエル」に似てます。

しかし、そんなゆでガエルだって
「熱い湯」にいきなり入れられれば、一も二も無く逃げ出す筈。
にも拘わらず日本はそこで「辛抱」してるわけですから、
日本はもうワンランク上の愚か者ということになります。

例えば、こちらのグラフをご覧下さい。

https://www.facebook.com/photo.php?fbid=1361426373958302&set=a.236228089811475.38834.100002728571669&type=3

このグラフ、現在書いているある教科書のマクロ経済学の解説で
改めて(昨日)つくったのですが、
つくってみて改めて、日本の愚かさに、
心の底から「辟易」してしまいました。

これは、現状の日本のGDP、
つまり日本の「皆さんの所得の合計値」を示すもの。

この内の一番「下」のグラフが、
実際のGDPの推移。

ご覧の様に、1990年代後半以降、
鳴かず飛ばずの状況で、
徐々に「衰退」して、今日に至っています。

その「衰退率」は実に20%。

一方で世界はその間、「成長」し続けています。

その「成長率」は138%。

もしも日本が、過去20年間で20%衰退せず、
他の国々と同様に138%成長していたら、
日本の国民所得は今の約2.7倍
GDPにして、1300兆円以上の水準に達していた筈なのです。

ちなみに、その場合、
日本が20年間で失った所得は
合計でなんと8000兆円

もうちょっとで一京円、
という、文字通り「冗談」のような天文学的な金額です。

仮に、日本の成長が「成熟社会(笑)」なるもののせいで
世界平均よりも大幅に低い場合を想定し、
世界平均の三分の一の成長率しかなかった場合でも、
日本の国民所得は今の約1.6倍
GDPにして、800兆円以上の水準に達しています。

そしてその場合に失った国民所得の合計値は3000兆円

日本に8000兆円といわずとも、
せめて3000兆円のカネがあったのなら、
今、貧困にあえぐ人達をどれだけ救い出し、
倒産や失業に怯える人達をどれだけ
安心させることができたのか――

「衣食足りて礼節を知る」事ができる人達が、
どれだけ増えたのか―――

そして、教育や防災や国防や科学技術、
そして文化や芸術が、その「富」の下で、
どれだけ華々しく雄々しく発展していたことか――

是非とも、一人でも多くの国民に、
こうした事こそを「想像」してもらいたいと思います。

(※例えばサヨクの皆さんには、国境の無い世界をイマジンする前に、
デフレで無い日本をイマジンして頂きたいと思います)

「成長」を重視しない人々は、
我が国には左から右まで、
一般大衆のみならずインテリ層に至るまで、
圧倒的な数に達していますが―――

残念ながら彼らは、
こうしたことを「想像」する「力」も「動機」も
持たないのでしょう。

インテリなら、こんな状況に突入したその瞬間に、
「あつっ!」「やばっ!」
とばかりに、状況を瞬時に把握し、
デフレ脱却の取り組みに全力を注入し、
デフレという熱湯から逃げ出すべきだったのです。

ですが、少々のコガネを持ってるインテリ達は、
庶民の暮らしなどに一顧だもせず、
文化人を気取って、
朝から晩から明け方まで文化論だ精神論だを重ねて
デフレを放置し続けている間に、
日本国民は総額で「数千兆円」ものカネを失い、
衣食を失った民は皆、礼節をなくし始めているのです。

そして今度は、文化人を気取った彼らは、
人々のその礼節のなさを口汚く罵り始める―――

それが真のインテリの成すべき事なのでしょうか?

ましてや、「真性保守」の思想家達がやるべき事なのでしょうか?

人はパンのみに生きるにあらず。

しかし、パンがなければ、礼節をなくし、
「野蛮化」「卑俗化」する民が後を絶たなくなるのは、
この世の道理ではありませんか。

・・・

確かに、日本人は「ゆでガエル」以上に愚かです。

しかし、その愚かさの根幹にいるのが、
知識人達なのではないかと、筆者は思います。

そして、その知識人の中でも、
日本を「最善の知情意でもって保守せん」と
声高らかに叫び続けたにも拘わらず、
現代日本の最大の問題であるデフレ不況を放置し続けた
「真正保守の言論人達」なのだと筆者には思えてなりません。

どこかの誰かが、
ましてや、「真性の保守」なるものを掲げた人々が、
この国を守る為に全力で戦っていたのなら、
「デフレという熱湯」からいち早く、
飛び出すことができたかも――しれないのです。

もはや20年もこの状況が放置された今、
状況はさらに絶望的になっています。

我々の体躯、「カエルの肉」の多くの部分が既に
ゆであがり、使い物にならなくなり始めています。

そんな中、ことここに至った我々は、
一体何を、どうすればいいのでしょうか?

我々の力は絶望的に限られています―――が、
少なくとも、
先人達が残してくれた失敗の歴史を知る事ができる、
という一点だけにおいては、
我々は「進歩」している――とも言えます。

何ができるのか、
これから読者の皆様、
そして可能な限り多くの日本国民の皆さんと共に、
考えてまいりたいと思います。

追伸1:
歴史は「流れる」ものなのでなく、その時代時代を生きる人達が「つくる」ものです。本日お話したインテリ達の最大の問題は、その認識がないところにあります。では実際に先人達がいかにして、歴史を「つくって」きたのか――そんな視点で纏めたこの本『歴史の謎はインフラで解ける』を、是非、じっくりとお読み下さい。
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追伸2:
本日お話した「貧困」に、最も苦しんでいるのは「若者達」です。そんな実情を、柴山さんと一緒に、「週刊ラジオ表現者」でお話しました。是非、ご聴取下さい。
https://the-criterion.jp/radio/20180521-2/

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