『表現者criterion』メールマガジン

【川端祐一郎】「一帯一路構想」のリスクについて

From 川端 祐一郎(京都大学大学院助教) 

先週・先々週と国際関係の話が続いたので、ついでに今週は中国の「一帯一路構想」について述べておこうと思います。一帯一路構想は、ユーラシア・アフリカ・南米の広範な地域において、エネルギー・輸送・通信などのインフラに「兆ドル」規模の投資を行うという壮大な地域開発プロジェクトで、先日東京で行われた土木系の学会でも話題になっていました。一昨日のメルマガで柴山さんも書かれていたように、経済界ではこの構想に「乗り遅れるな」と言わんばかりの議論もあるようですが、一帯一路構想にはいくつかのリスクが考えられます。

リスクの一つは、そもそも投資プロジェクトとして成立しない可能性です。今年3月に出た下記のレポートによると、構想されている規模のプロジェクトを行うには資金がかなり不足しているようです。中国政府・国有企業は地政学的な思惑もあって積極的に進出していますが、政府系だけでは資金が全く足りていない。一方で、商業的にはリスクが大きいため、中国の民間企業・投資家は参入に後ろ向きであるとのこと。イスラエル・韓国・シンガポールなど豊かな国では有望なプロジェクトもあるが、全体としては持続が難しい可能性があります。
The Chinese State Funds Belt and Road but Does Not have Trillions to Spare

中国では最近、海外投資家から資金を集めて一帯一路構想に投入するためのファンドなどもできているようで、日本でもそれらへの投資を勧める向きがあるのかもしれません。しかし、中国企業も避けるような不確実性の高いプロジェクトに積極的に投資するというのが、果たして得策なのでしょうか。上記レポートでは建設プロジェクトの95%を中国の国有企業が受注しているとされており、また建設した道路などは政府の所有物になるケースも多く、民間企業が長期的に利益を挙げられるようなプロジェクトにはなかなかならないようです。

もう一つのリスクは、一帯一路構想に基づく中国の拡張的な政策が、国際的な緊張の種になるのではないかということです。今年3月に出ている下記の別のレポートでは、一帯一路構想に含まれる68ヵ国のケースを分析した結果、少なくとも8ヵ国で、対中債務の負担が深刻化するリスクがあると報告されています。
Examining the Debt Implications of the Belt and Road Initiative from a Policy Perspective

また一帯一路構想を、中国による“Debt-Trap Diplomacy”、つまり「債務のわな」を仕掛けることによって他国を支配下に置くという覇権主義的な取り組みであると指摘する声もあります。
China’s Debt-Trap Diplomacy

下記の川島教授の分析によると、中国からの融資提案は「金額が多く、手続きも簡便で速く、民主や人権についての条件が付けられない」ことから、権威主義体制下にある国で歓迎される傾向にあるそうです。そしてOECDの標準ではできないような金額を途上国に貸しつけ、相手国の財政が危機に瀕する事態も多々生じているとのこと。途上国の指導者にとっては、「財政の不健全性」等を理由に欧米諸国はなかなか貸し付けてくれないのに対し、中国は「自らの任期中に素早く、十分な資金」を貸してくれる点が有り難いとのことです。
一帯一路と日中関係:提携と競存、けん制の多国間枠組み構築を

これは、言葉は悪いですが「闇金」のようなビジネスモデルに見えてしまいます。現地下記の記事ではその帰結として、「長期に渡って中国に依存せざるをえないという政治的しがらみ」がもたらされるだろうと指摘しています。例えばスリランカでは、対中債務の返済が不可能になった結果として、戦略的に重要な位置にある港湾を中国に99年間貸与することになりました。また昨年は国連人権委員会に向けた対中非難決議のEU共同提案が、近年中国から多大な支援を受けているギリシアの反対によって、史上初めて合意に失敗したとのことです。
On China’s New Silk Road, Democracy Pays A Toll

スリランカが中国に港湾を差し出さなければならなくなった件については、下記の記事で産経新聞が現地取材を行っています。野党議員は、「債務によるわなだ。植民地になったと同然だ」と怒っているらしい。そして労働者は、「中国側に運営権が移り、地元労働者が大量解雇される危険性が生じている」と不安になっているとのことです。またそもそも、中国とインドのこれまでの関係を考えれば、スリランカに中国の港ができるというのは危険な予感しかしません。
中国に運営権「植民地同然」スリランカのハンバントタ港 融資→多額の債務→99年間貸与

欧米の懐疑論にはリベラリズムの立場から「自由民主主義の危機」を懸念するような論調のものも多く、権威主義的な中国の支援によって他の権威主義国家が勢いづくのではないかと言うのですが、それは今さら言っても仕方がないと思う面があります。むしろ、中国が拡張を続ける中で、他国の「民族のアイデンティティ」や「国家主権」を過度に軽んじた結果として、何らかの危機が起きないかと私は心配になります。中国は明確に自国の利益のために行動している上、「外国の支援を受けた独裁者」の支配下では、庶民の利益や民族の感情が抑圧され、鬱憤が蓄積していくということが往々にしてあるからです。いずれにしても、一帯一路構想を安易に「国際協調による地域開発プロジェクト」として美化するのだけは控えたほうが良さそうです。

上記(3つ上の段落)のForeign Policy誌の論評も欧米的リベラリズムの色がかなり強いのですが、欧米や日本が取るべきアプローチとしては現実的な提案をしています。中国のように自国の企業と労働者を他国に送り込んでインフラを建設するというようなアプローチではなく、なるべく現地の人々の力で建設できるように、技術移転や人材育成に努めること。とくに、現状では支援対象国内に、投資プロジェクトの長期的な帰結を想像して賢明な判断を下せるテクノクラートが存在していないことが大問題で、そうした技術的知識の習得がまず何より重要であるとの主張です。地味ですが、日本のような極度のお人好し国家がやる場合は別として、国家間の支援というものはその程度に留めておかないと、長期的には対立の火種を生むのではないかと私は思います。

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