11/20 神戸シンポジウム開催!

『表現者クライテリオン』メールマガジン

【書評】『農の原理の史的研究「農学栄えて農業亡ぶ」再考』ー田中孝太郎

From 田中孝太郎 

藤原辰史 著 『農の原理の史的研究 「農学栄えて農業亡ぶ」再考』 創元社/2021年1月刊 の書評です。

書評者:田中孝太郎

農の原理の史的研究 「農学栄えて農業亡ぶ」再考』の購入はこちら

この書評は『表現者クライテリオン』2021年5月号に掲載されています。

表現者クライテリオン,コロナ,ポリコレ

表現者クライテリオン』では、毎号、様々な特集や連載を掲載しています。

最新号(2021年7月号)も、現在予約受付中です。

ご興味ありましたら、最新号とあわせて、ぜひ本誌を手に取ってみてください。

以下内容です。

ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

食と農のプロセスは、簡素化と効率化の道を進み続けている。
加工食品の普及により、料理の手間は劇的に省けた。サプリメントやプロテインバーに頼れば、多忙な人でも、必要な栄養素を数分で摂取できる。細胞培養で生産された肉が、食卓に並ぶ日も近いかもしれない。

農学は合理性や経済性では測れないメカニズムが埋め込まれている

 なぜこのような事態になったのか。それは、農学という学問自体に、合理性や経済性では測れない、食や農に固有の原理を消し去るメカニズムが埋め込まれているからだ。自然科学のみならず、農業経済学においても、理論の精緻化が進むほど、農民の感情や身体といった経済外的な要素は排除されていく

 本書では、工業化のただ中にありながら、農業の価値を守ろうとした農学者たちの闘いの軌跡が描かれている。だが、彼らの試みは、やがて陥穽にはまっていく。

 明治から大正にかけ活躍し、日本の農学の基礎を築いた横井時敬は、疲弊しつつあった農村を存続させるため、頑健な農民は兵士として最適であると主張した。資本主義の枠組みの中で不利な立場に置かれる農業・農村を、軍国的観点から評価したのである。

また土地への愛着心や、地主と小作人の間の「情義」などの精神的要素も重視した。しかし、精神主義は農民に過剰なまでの勤勉を強制する。困難な状況でも、根性さえあれば乗り切れるという理屈である。
労働効率を損なうとして田植歌の廃止を訴えるなど、横井の議論は近代的な労働管理にも結び付くものだった。

「ロマン」の感覚

 横井の教え子である橋本傳左衛門は、農村困窮の打開策として満州移民を唱えた。その際、「大和民族」の優秀性を主張し、「文化的程度の低い」他民族を指導する役割を付与することで、植民地政策を正当化した。

ここでもやはり、農民の勤勉性が強調される。農学者たちは農の価値を、精神主義や軍国主義、自民族中心主義といった危うい「ロマン」に託すほかなかったのである

 ただし、一方的に批判するのはフェアではない。彼らは資本主義の矛盾を直視し、社会の不条理を是正するため、思索と実践を重ねていたとも言える。農村の貧困や公害など、現実の問題に常に目を向け、狭い専門の枠に閉じこもることもなかった。

広範な知見と地道な実地調査によって、イタイイタイ病の原因を突き止めた吉岡金市の活動は、横井の時代から連綿と続く、日本の農学の大きな成果だろう。

 農の価値を排他的に説く農本主義に頼れば、かつての農学者たちと同じ轍を踏みかねない。そこで著者は、困難を承知の上で、医・食・心・政・技の領域と農を接合することを提案する。

重要な指摘であることは間違いないが、私はあえて「ロマン」の感覚を大事にしたい

人種主義や帝国主義の正当化につながるような硬質の「ロマン」ではなく、夕暮れの田園風景に郷愁を覚えるような、素朴な感覚である。
もっとも、我が身を振り返ると、都会の片隅で出来合いの総菜を一人頰張っているような人間に、農のロマンを語る資格などないのかもしれないが。

(『表現者クライテリオン』2021年5月号より)

 

他の連載などは、『表現者クライテリオン』2021月5号にて。

『表現者クライテリオン』2021年7月号は6月16日発売!

『表現者クライテリオン』2021年7月号
「孫子のための「財政論」 中央銀行の政治学」

現在予約受付中です

気になった方はぜひ本誌を購入してみてください!

本誌は書評以外にも、人と社会のあらゆる問題を様々なテーマに沿ってお届け。毎回読み応え抜群です!

━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━

【お知らせ】

7/1 シンポジウム開催!

登壇者:桑原響子氏・佐藤優氏・伊藤貫氏・本誌編集長 藤井聡 
日時:7/1(木) 18:30~
場所:星陵会館(永田町駅より徒歩3分)

詳細・申し込み

皆様のご参加お待ちしております。

 

『月刊表現者』始動!

『表現者クライテリオン』定期購読者限定!!
6/30までの期間限定で100円で購読できます!
定期購読者はこちら

━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━
メルマガのバックナンバーはこちらで閲覧頂けます。
https://the-criterion.jp/category/mail-magazine/

雑誌『表現者クライテリオン』の定期購読はこちらから。
https://the-criterion.jp/subscription/

Twitter公式アカウントはこちらです。フォローお願いします。
https://twitter.com/h_criterion

その他『表現者クライテリオン』関連の情報は、下記サイトにて。
https://the-criterion.jp

ご感想&質問&お問合せ(『表現者クライテリオン』編集部)
info@the-criterion.jp
━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━

 

執筆者 : 

TAG : 

CATEGORY : 

コメントを残す

メールアドレスが公開されることはありません。
誹謗中傷や公序良俗に反する投稿は、編集部の判断で削除させて頂くことがございます。
(ご不明な点は、編集部あてにメールにてお問い合わせください。)
* の項目は必須項目となります。