今回は『表現者クライテリオン』2021年7月号の掲載されている特別対談を特別に一部公開いたします。
公開するのは、「コロナがもたらす教育破壊」特集掲載、
宮台真司先生と本誌編集長の藤井聡の対談です。
興味がありましたら、ぜひ『表現者クライテリオン』2021年7月号を手に取ってみてください。
以下内容です。
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藤井聡(以下藤井)▼
うちの大学では緊急事態宣言下での講義は原則対面禁止だってなってて、緊急事態宣言の今はほぼ全てリモートですね。宣言直前に一度対面とリモートの併用でやったんですが、教室に来たのは一割もいなかったですね。学生も皆リモート参加でした。
宮台真司(以下宮台)▼
僕は一貫して対面なんですけれど。
藤井▼あ、そうですか! もうずっと去年から。
宮台▼昨年の緊急事態宣言明けからですね。嫌な人には一応Zoomで配信してあげます。
藤井▼なるほど。学校の方針はどうなってるんですか。
宮台▼国公立の一部は文科省の方針に従っているだけです。文科省は原則対面と言った後、個別の事情に応じて判断しろとなったんですね。だから、私立よりも全体としては対面禁止が緩い。
私立はクラスターが出るとブランドにダメージになるので、慎重なんです。でも僕は青学で非常勤やってますが、それも対面でやっています。前日に学生に対面かリモートかを聞くんですが、全員が対面がいいですって言うから、対面でやっています。
藤井▼それは素晴らしい! 京大では、緊急事態が明ければ基本対面ですが、緊急事態の間はリモートにせよ、という方針ですね。
宮台▼都立大については、今回の緊急事態宣言が出た後も原則は変わりません。
(中略)
藤井▼ところでこんなふうにして、大学ではリモートがはびこって、人と人との対面交流がなくなっていって増えたのが「自殺」なんです。
大学の名前伏せて言うことにしますが、毎年自殺なんてほとんど出なかったのに、その大学のある学部は、その学部だけで去年一年で自殺者が“五人”出たっていう話です。
これは完全に異常です。よその学部や大学を考えれば途轍もない学生たちが自ら命を絶ってるってことになる。
宮台▼それは当然予想されたことです。
藤井▼大学生だけじゃなく今、小学生、中学生、高校生の自殺も激増してる。これは相当深刻な問題です。
宮台▼僕もそれを予想して、対面でやっているんですね。学生たちに聞くと、ほとんどは対面でやりたがります。リモートがいいという学生は、事情がある人に限られています。
藤井▼同居人に高齢者がいたり、自分自身に持病があったり。
宮台▼そうです。基本、学生の希望は対面です。特に去年の新入生たちは、緊急事態宣言のせいで、ずっと学校に来られなかった。
授業はほとんどリモートで、部活は禁止されていたし、生協食堂も営業しないので、みんなで集まって話したりご飯を食べたりもできなかったし、非常にかわいそうな状態でした。
宮台▼僕ら年長者は、新入生とは違って、長年の知り合いとリモートで話すだけですから、何の問題もないどころか、むしろ便利です。
藤井▼そうですね。リモートっていうのはもともと散々対面で人間関係がキャピタル(資本)としてできあがってて、そのベースがあった場合なら、そのキャピタルの補足として機能するに過ぎない。
宮台▼ソーシャル・キャピタルがあるので、リモートでも、もともとの対面時のことを想像しながらコミュニケーションできるんですね。
藤井▼だから、何のキャピタルもできてなければリモートなんて十分に機能するはずなんてない。
で、一年生にはそんなキャピタルが何もないまま一年が過ぎてるんですから、そりゃ鬱にでもなりますよ。
宮台▼なので、事柄の優先順位を考えれば、彼らの希望に原則添うようにするべきだと思っています。
藤井▼でもそんな話を例えばテレビのワイドショーなんかでしたとしても、なかなか通らない。
命が大事なんだから、高齢者の命を救うためには、若者が辛抱するのは筋だ、って話になるわけです。
しかも、リモートは新しい時代のトレンドなんだから、むしろいいじゃないかっていう軽薄で馬鹿な議論も乗っかってくる。で、今世間はそんな風潮で回ってるわけです。
でも、ほとんどマスコミ上では誰も発言していませんが、実際に若者がどれだけ飲んだところで、重症病床を埋めているのは高齢者たちだから、医療崩壊のリスクが俄に高まるなんて話にはならない。
高齢者が好き放題飲んでることの方が医療崩壊リスクを高める効果は何十倍も何百倍も高い。
だから若者は、高齢者と会って感染させてしまうことだけに配慮し、それだけ自粛すれば、どれだけ飲んでたって、医療崩壊問題的にはほとんど構わないという話なんです。
宮台▼変異ウイルスで今後の状況が変わるでしょうが、去年段階では、若い人たちには風邪に毛が生えた程度の症状しか出るか出ないかという程度でしたから、
若い人たちは自由に行動してもらうべきで、むしろ隔離してゾーニングするべきだったのは高齢者と持病持ちの方だけでした。
若い人たちからそういう人たちを隔離するための障壁を設ければいいだけの話です。こんなにも明白に合理的なことが、どうして分かってもらえないのかな。
藤井▼そうです。僕はそうした主張をもう一年間、学術論文からTVやSNS、週刊誌に至るまであらゆるチャンネルで主張し続け、かなりの数の政治家にも提案しましたが、政府側からは全くそういう声は出なかった。これは驚くべきことです。
藤井▼なぜこんなことになってるのか、宮台さんはその理由についてどう感じていますか?
宮台▼まずは政治的理由です。高齢者の方々の政治的支持を失いたくないという事情が一つあるでしょう。
若い人たちは投票者に限ればもちろん与党支持が多いんですが、もともと投票に行かない人が大半なので、どんな措置を執ろうが若い人たちの政治的なリアクションが無視できるという判断があります。
もう一つは安倍晋三的な「やってる感」ですね。一律に規制した方が、政治的には低いコストで何かやってる感じを演出できます。
年齢で対策を分ければ、店や施設で年齢確認のコストが掛かります。でも全体を俯瞰すれば、そんなことは相対的に大したコストではないと考えるべきです。
若い人たちにとって、移動の自由や、“together”であることの自由を奪われてしまうのは、重大なことです。
全体を見渡すことができる倫理的な政治家であれば当然、年齢によって措置を変えるはずだと思います。
藤井▼おっしゃる通りです。だから政治家の方々にも繰り返し提案したんですが、結局全部無視されてしまいましたね。
宮台▼無視する理由を語る政治家はいましたか。
藤井▼いないんですが、ただよく耳にするのは、先ほど宮台さんもおっしゃった、選挙への配慮、ですよね。
投票率の高い高齢者を怒らせるのは避けたい、という話。
でも、それ以上に僕が感じたのは、高齢の政治家たち、そういう方はおおよそ重鎮政治家なわけですが、彼らが
「俺たちだけが酒を飲んじゃいかんというのか?」
というふうに思ってるからというのは大きいように思いました。
僕は直接「僕は高齢者だから、リモートで国会審議や政府の会議に参加するように致します!」
と宣言されてはどうですかと、去年の三月の時点で進言したんですが、その時は笑って誤魔化されましたね。
で、若手議員に説明しても、彼らはスグに納得するんですが、それを重鎮の高齢議員に言ってくださいと言うと
「そんなの、僕の口から言えないよ」なんて雰囲気満載でしたね(苦笑)。
宮台▼それは非常に日本的で良くないですね。日本の劣等性そのものです。
藤井▼まさにそうです。日本の劣等性そのものです。どう考えても最も効果的でしかも効率的な対策なのに。
宮台▼そうですね。特に経済的なダメージの最小化を考えるんなら、それが一番いいです。
藤井▼でも政府も各党も一向にそういうことをやろうとしない。
(中略)
彼らはただ単に、自分の立ち位置上言わないといけないこと、やらないといけないことを、単なる見せかけの「ポーズ」だけやってるだけ。
一言でいって要するに今、ウェーバーが言ったような全体主義的な官僚制のシステムが動いているだけだ、っていう状況なわけですね。
宮台▼僕の考えでは、今の日本人は、アカの他人について配慮する意欲を持ちません。
背景は単純です。日本人にはもともと「社会」という概念がなく、「世間」という概念があるだけだったからです。…(続く)
(『表現者クライテリオン』2021年7月号より)
続きは『表現者クライテリオン』2021年7月号にて
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