今回は『表現者クライテリオン』2021年11月号掲載の座談会を特別に一部公開いたします。
公開するのは、「日本の「強さ」とは何か 亡国を救う「道」の思想」特集掲載、
施光恒先生×本誌編集長 藤井聡×編集委員 柴山桂太×浜崎洋介×川端祐一郎の対談です。
以下内容です。
興味がありましたら、ぜひ『表現者クライテリオン』’21年11月号を手に取ってみてください。
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藤井聡(以下藤井)▼
今日は「日本の『強さ』とは何か─亡国を救う『道』の思想」と題した特集にて、久々に我々編集委員四人と施さんも交えた五人での座談会となりました。よろしくお願いします。
一同▼よろしくお願いします。
藤井▼四半世紀以上に及ぶデフレの放置や、不合理な新型コロナ対策の問題、さらには、安全保障についても尖閣に対する中国の侵攻に対しても日本政府はほぼ指を加えて見ているだけですし、エネルギー自給率も食糧自給率も一向に高めようともしない、
さらには首都直下地震や南海トラフ地震に抜本的対策を図らないと瞬く間に歴史的な国難に襲われるのに、抜本的対策を財政規律を盾に図ろうとはしない等々、日本の政治は腐敗しきっています。
その帰結としてGDPが下がってきているし、コロナへの対策レベルも最悪だということが諸外国との比較の中で誰の目から見ても明らかな状況になった。
過剰自粛をさせてしかも補償しないという対策は、世界的にも類例を見ないほどの虐待的コロナ対策と言わざるを得ません。
こうした政治の腐敗の背景にあるのは、政界は言うに及ばず、官界、学界、マスメディア、教育、財界、そして言論界における腐敗、ニヒリズム=虛無主義の蔓延です。
そう考えると我が国の未来に何一つ希望がないような気分になってくる。
西部先生がよく「JAP.COM」とおっしゃっていた「大衆人たち」に我が国が支配されているからで、同じく西部先生の言葉を借りるなら「もはやこれまで」な気分に苛まれそうになってしまいます。
しかし世間を見ますと市井にはまだまだ立派に生きる人がいる。
職人だったり飲み屋のオッサンだったりそういう人たちの中に立派に生きている人がまだまだたくさんいる。あるいはブラック企業に苛まれながらもそこで黙々と働きながらなんとか希望を見出そうと頑張る健気な庶民も確実にいる。
だとすると、日本人は、たとえば「お上」がしっかりして適切な政治を行い、適切な文脈の中にさえ置かれることができれば、その優秀さを存分に発揮し、驚くべき力を出す能力をいまだに持っているのではないかとも思えてきます。
たとえばオリンピックは商業主義にまみれたろくでもなく汚いものですが、日本柔道の頑張りをはじめとして、今回の東京オリンピックで歴代最多の金メダルを獲ったことは日本人の強さを反映しているのではないかとも思えてきます。
では日本人のそんな強さの根源には何があるのか。
これを思想的にしっかりと掘り下げてみることが日本の明るい未来を構想するのに必要なのではないか。そんな思いで今回の企画「日本人の『強さ』とは何か」があります。
おぼろげに我々が感じるのは、武士道や武道、あるいは華道といった「道」の概念が日本の伝統の中に脈々とあって、今ではすっかり薄らいでしまったとはいえその「道」が日本人の強さの重要な中心核の一つを形成しているのではないかということです。
そのような期待感の下にサブタイトルの「亡国を救う『道』の思想」と付けています。
この「道」の概念を手掛かりにしながら、日本人の市井の民の佇まいの中にある美徳を掘り下げ、これを契機に日本の明るい将来を構想する思想的な試みを今回は企画としてやってみようと思っています。
西部邁先生がもし生きてらっしゃるなら
「そんなことはないよ、もうダメなんだよ、JAP.COM なんだよ」
と明るくおっしゃるような気がするのですが、
「そこは先生、重々分かっているのですが、それを十分に理解している限りにおいて、ポジティブなことも時に考えることもまた絶対必要ではないでしょうか」
と申し上げたい気持ちもあるという次第です。それではまず最初に施先生から、お願いします。
施光恒(以下施)▼
日本の強みということなのですが、一つは今の藤井先生の言葉の中にもあったように、庶民の生活の中にあるのだろうと思います。
日本人はいつの頃からかは諸説ありますが、多くの人々が、基本的に定住型で、世界的に見れば非常に安定した長期的見通しの立ちやすい環境で暮らしてきました。
また、これは江戸の半ば頃からでしょうが、ある程度生活に余裕のある庶民層、中間層と呼ばれるような人々が数多く存在してきました。
これが現在の日本文化というか日本人のあり方に大きな影響を与えています。よく一般に「日本の強み」と言われるようなものは、だいたいこの特徴から出てきているように思います。
ある程度豊かな庶民層が、比較的安定した状況に置かれ、将来の見通しが立ちやすい環境で暮らしてきた。そのため長期的な視点でモノを考え、行為することができた。
たとえば「日本の強み」とよく称される「ものづくり」や「治安の良さ」などはここから来ています。
ものづくりが発展するには、長期的視野が必要です。俗に「千三つ」、つまり千の試みのうち、ものづくりで上手くいくのはせいぜい三つぐらいだと言われます。
また、上手くいったとしても利益を得るには十年、二十年とかかる場合も多い。にもかかわらず、ものづくりが盛んになったのは、人々が安定的環境で暮らし、長期的観点を持つことが可能だったからです。
治安の良さも同様です。メンバーの入れ替わりが比較的少ない定住型の暮らしが基本だったからこそ、人々の間で連帯意識や相互扶助意識が形成されていった。
そのため治安も良好だったし、経済的格差もさほど大きくならず、結果的に、比較的多数の人々がある程度豊かで安定した暮らしを営めた。
国際的に高く評価される日本の多様な大衆文化もそこから生まれました。たとえば江戸時代の園芸文化です。
同時代で見れば日本の園芸文化は、欧米諸国を凌ぎ、世界一の水準にあったと言われています。これも比較的豊かで将来の見通しの立ちやすい人たちが多数いて、彼らがお金と時間を趣味に費やすことができたからです。
そこから様々な面白い文化が生まれてきた。江戸の浮世絵もそうでしょうし、近年の漫画やアニメも同様です。
ところがそうした恵まれた条件が、過去二十~三十年の間に強くなった新自由主義的な政策の下で徐々に失われてきた。
新自由主義に基づく改革は、分厚い中間層という日本の強みが生じる環境を壊してきた。
日本の衰弱の主な要因はそこにあるでしょう。
浜崎洋介(以下浜崎)▼
施さんがおっしゃったことを、今回の特集企画に引き付けていえば、私は、その長期的見通しの立ちやすい環境で育まれてきたものこそ、「道の思想」ではないかと考えています。
唯一神を持っていない日本人が、どうやって、ある種のスジだとか倫理だとかを見出してきたのかということは大問題なんですが、ただ難しいことを言わなくても、茶道、華道、剣道、柔道、武士道など、日本人の身近な生活様式の中に、そのヒントはあるんじゃないかと。
ただし、その「道の思想」で重要なのは、それが近代の個人主義や自由・平等の原理とは馴染まないことなんですね。
近代は、その人が男であろうが、女であろうが、老若男女を問わず能力を平等に発揮できる環境を良しとするし、その限りで、誰にでも当てはまるマニュアル─一種の功利性─を価値としてきました。
が、そうすると、非常に抽象的な基準によって、私たちの人生や、生の営みが切り取られかねないということになってしまいます。
それに対して、かつての日本人は…(続く)
(『表現者クライテリオン』2021年11月号より)
続きは『表現者クライテリオン』2021年11号にて
『表現者クライテリオン』2021年11月号
「日本人の「強さ」とは何か」
https://the-criterion.jp/backnumber/99_202111/
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