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【柴山桂太】ハイパーインフレの発生条件

From 柴山桂太(京都大学大学院准教授) 

先頃、IMFの高官が、今年のベネズエラの物価上昇率が100万%になるとの見通しを発表しました。これは、歴史に残るハイパーインフレです。

ハイパーインフレという言葉は日本でもよく見かけます。このまま政府の累積赤字が大きくなると、いずれ日本もハイパーインフレになるというような文脈で用いられるのですが、本当でしょうか。

ハイパーインフレの定義として、よく引き合いに出されるのは「月間50%以上のインフレ」というものです。1956年にフィリップ・ケーガンという経済学者が、1920年代の中東欧で起きた歴史的なハイパーインフレを分析する論文で用いた定義ですが、現代のハイパーインフレを分析する場合にもよく用いられます。

月50%以上のインフレということは、年率換算すると1万%以上のインフレということになります。20世紀の歴史でインフレは珍しい現象ではなく、年間2桁台のインフレも頻繁に観察されていますが、5桁以上となるとそう簡単にお目にかかれるものではありません。

戦後まもなくの日本でもインフレが横行しました。その記憶は徐々に薄れているものの、日本の経済史にとって重要な事件です。しかし、ピークだった昭和21年でも年率で500%ほど(東京小売物価指数)でした。もちろん500%でも恐るべき水準ですが、1万%となると別次元、100万%ともなれば経済史の教科書に載るレベルです。

スティーブ・ハンケらの調査によると、統計的に確認できるハイパーインフレは、世界史に56件あります。これは2012年の研究なので、ベネズエラを入れると57件になります。それ以外にも、統計資料がないためにカウントしていないものが数件あるとのことですが、いずれにせよ、きわめて稀な現象であると言ってよいでしょう。もちろん、この件数に戦後日本のインフレは含まれていません。

約60件の過去のケースを見ると、大きく3つのパターンが浮かびあがってきます。

まず、戦争などの理由で国内生産が完全に停止、輸入も不可能になったケース。供給が需要にまったく追いつかない状態に、対外債務問題や紙幣の濫発などが加わるとハイパーインフレが出現します。これは第一次大戦後の中東欧諸国(ハンガリー、オーストリア、ドイツなど)の事例が有名です。

ちなみに、歴史上もっともひどいハイパーインフレはワイマール・ドイツではなく、第二次大戦直後のハンガリー(1946年7月)で、月間インフレ率はなんと4京(10の16乗)%です。

次に、旧体制が瓦解し、国家が新体制に移行した際にハイパーインフレが発生することがあります。古くはフランス革命後のフランス、最近では冷戦崩壊後の旧東側の国々(旧ユーゴ、ウクライナ、グルジア、ロシアなど)の事例がよく知られています。

もう一つが、アフリカやラテンアメリカ諸国でしばしば起きるケースです。もともと二桁台のインフレが何十年も続いているところに、発展の遅れやマクロ経済管理の失敗が加わってインフレが止まらなくなる。ベネズエラはまさにこのケースです。

ベネズエラのハイパーインフレは、その原因がさまざまに指摘されています。原油産出国なので、原油価格が高止まりしている時代には経済は好調でした。しかしその分、国内の産業が発展しない。国内産業を育成しなくても、豊富な外貨でいくらでも輸入品を購えるからです。資源国は、豊富な資源ゆえに国内産業(特に工業)が発展しないという「資源の呪い」の典型です。

ところが原油価格が下落すると、好調だった経済が逆回転を始める。為替レートの減価、輸入物価の上昇に加えて、物価スライド制の影響で物価と賃金がスパイラル的に上昇していく。ここにマクロ経済管理の失敗や人材・資本の流出、国際社会からの締め出しや政治的混乱の影響が加わってインフレ率が破滅的な水準に到達することになりました。

インフレがひどくなると家計や企業は、貯蓄を自国通貨ではなく、外国通貨(特にドル)で持とうとします。政府は規制しようとしますが、闇市が立って「ドル化」が止まらなくなる。これが、開放経済下で起きるハイパーインフレのパターンです。

さて、日本で同じことが起きるでしょうか。可能性があるとすれば、次のような場合でしょう。

大きな戦争などで国内の生産能力が破壊され、かつその再建に国際社会がきわめて非協力的な場合。
大きな革命が生じて、これまでの通貨体制が無効になるような事態が発生した場合。
何十年も二桁台のインフレが続き、国内産業の未来が絶望的で経済政策も失敗が続いた場合。

その場合には、破局的なインフレが起きておかしくありません。しかし可能性は、現時点ではきわめて考えにくいと言うべきでしょう。(ただしこれはあくまでも年率1万%を超えるハイパーインフレの発生条件であって、ハイパーでないインフレが近い将来発生する可能性を否定するものではありません。)

あえてハイパーインフレが発生する条件を考えろというなら、これから日本が債務国に転落して対外純資産がマイナスになった上に、東京を中心とした大都市圏が地震や津波で壊滅的な打撃を受ける、それも世界経済が不況に突入していて国際社会に日本を救済する余裕も意志もない場合、などでしょうか。

他にも、破局シナリオを考えようと思えば、いくつもの可能性を思い浮かべることはできます。しかし、そんなわずかなリスクを針小棒大に言う前に、国民が議論すべきことは山のようにある。日本の財政問題を論じるのに、ハイパーインフレの脅威を引き合いに出すのは止めてもらいたいものです。

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コメント

  1. 山内岩 より:

    1000兆円を越える借金があるのに、公務員の手取り上がり国民の預金わ1800兆円も溜まっている、量適緩和で、日本銀行が国債を外資の手に渡らない前にすべて購入してる。返済金わへっている、円高生活物価がデフレに向かっている、第一次大戦後のドイツのハイパーインフレ、思い描くとすれば!!だ、緊縮財政消費税増税わ間違いなきがする。庶民わほしい物あまり無い、金銭のゆとりもない。

  2. yy_nishio@yahoo.co.jp より:

    1
    これから日本が債務国に転落して対外純資産がマイナスになった
    これはドル切り下げで確定

    2
    東京を中心とした大都市圏が地震や津波で壊滅的な打撃を受ける
    これはしたくても人工的には不可

    3
    世界経済が不況に突入。国際社会に日本を救済する余裕も意志もない
    これも確定

    以上3のうち2が確定のためハイパーインフレはまず不可避
    ただ輸入物価が3倍になる程度でしょう。

  3. 氾損・フォード より:

     コメント出来るようになったと知って、ハイパーインフレについて無知の恥識を振り絞り考えていたので、検索してちょっとハイパー過去に失礼しました。
    京が一、いや無量大数が一、ハイパーインフレに成るまでほったらかしにする政府が有り得たとしてですね、バブル時代のようにハイパーバブルが起きてハイパーバブル崩壊って起きるのかなぁ。などと考えてた私がハイパー馬鹿なだけですよね。
    そしてもう一つ、今は安倍政権が米国との(誤魔化し)FTAの交渉をしていることは日本への物品、サービスの流入を(デフレを直す事無く)ハイパー進める中で、供給が格段に落ち込むなんて有り得ませんよね。
    それでついでに過ぎったのですけど、財政規律がデフレのままで良くなっていくとは思えずこのまま続くのならば逆にハイパーデフレに成ってしまい、それでも改革が足りないと財政規律財政規律のお経を唱えてハイパーどころか超スーパーウルトラハイパーデフレに成ってしまうのかなぁ。と考えていました。

    と、独り言を書き込むことが精神安定剤に成ってしまったぁーワシなのだすントン。何の意味にも成らない話で失礼しました。お赦しください。

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