【川端祐一郎】今、「ポピュリズム」について議論することの意義

川端 祐一郎

川端 祐一郎 (京都大学大学院准教授)

今日は『表現者クライテリオン』最新号の発売日です。
https://the-criterion.jp/backnumber/80_201809/

今回の特集テーマは、欧米社会を大きく揺り動かしている「ポピュリズム」現象です。トランプ大統領の登場やイギリスのEU離脱(ブレグジット)、さらには大陸ヨーロッパ諸国での反移民政党の台頭などの背景に何があるのか、そして今後日本では何が起きるのかを詳しく論じています。

この、ポピュリズムの台頭という現象は、今後10年・20年の世界がどのような姿になっていくかを考える上で必須の論点になるものだと思われます。だからこそ、『表現者クライテリオン』は雑誌でもこのメルマガでも何度も言及しているのですが、国内の他のメディアで継続的に議論されているわけではありませんよね。

そのせいで日本人にとっては、トランプ大統領については「なんか暴力的な性格の大統領が出てきたらしい」、ヨーロッパの反移民運動については「偏狭なヘイト運動だろう」、ブレグジットについては「よく分からん」というのが平均的なイメージなんじゃないかと思います。

それも無理のない面はあって、ポピュリズムというものが現時点では、我々にとって馴染みにくいテーマであることは確かだと思います。何よりもまず「外国の話」が多くなりますし、ポピュリズムという言葉の意味もけっこう曖昧だからです。しかし、馴染みにくいからこそ、我々の雑誌で特集する意義があるとも感じています。

今回我々が論じているのは、大雑把に言うと、

先進国において、生産拠点の海外移転、製造工程の国際分業、移民労働者の流入などが進む(グローバル化)。
 ↓
途上国の(都市部の)労働者や移民労働者が以前より豊かになる一方で、先進国の従来の中産階級労働者の賃金は低迷する。
 ↓
人件費が下がって企業収益は増えるので、先進国の経営者や投資家、そして大企業や先端企業の企画職についているエリートビジネスマンは恩恵を受ける。
 ↓
労働者階級とエリート階級のあいだで、価値観や生活スタイルの乖離も大きくなっていく。
 ↓
労働者階級の不満や疎外感が蓄積されていく一方で、政治家やメディア関係者の多くはエリートなので聞く耳を持たず、グローバル化をさらに推進する。
 ↓
労働者階級の不満はますます高まり、その不満を代弁する政治家(多くは従来型の政治勢力に属さない)に大きな支持が集まる。

という現象です。

ところが日本では、ポピュリズムに「大衆迎合主義」という訳語が当てられていたり、ワイドショー的演出で人気を集める政治手法を指して「ポピュリズム」と呼んできた経緯があるため、欧米で台頭しているポピュリズムが「置き去りにされた労働者たちの正当な怒りの表出」だということが理解されにくいのでしょう。
(ちなみに欧米では、しばしば「ポピュリスト」という言葉が「極右」に近い意味で用いられるので、日本とは方向が違うものの、理解のされにくさは同様にあるかも知れません。)

そういう背景があるものですから、今回の我々の特集でも各執筆者が、まず言葉の意味を整理することから始めています。

また、欧米の話題への言及が多くなってしまって実感を持ちにくいのも確かなのですが、考えてみると、グローバル化に関して日本は欧米の後追いをしているわけですから、欧米で起きている混乱はこれから日本にも起きるという可能性が大いにあります。

ポピュリズムの話題が日本で馴染みにくいということは、今のところまだ欧米ほど深刻な危機には直面していない、ということことなのかも知れません。であれば、むしろそのことを幸いととらえて、欧米で起きていることをよく観察し、今のうちから議論を始めておくべきでしょう(後追いがすでに手遅れなレベルに達している可能性もありますが)。

そんな思いで、今回の特集は組まれました。

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