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【川端祐一郎】危険なリーダーを生み出す仕組み

川端 祐一郎

川端 祐一郎 (京都大学大学院准教授)

自民党の総裁選で安倍首相の三選が決まりましたが、少し前のニュースで、自民党の地方議員が、「総裁選で石破氏ではなく安倍氏に投票するよう不当な圧力をかけられた」と憤っていることが報じられていました。
https://www.asahi.com/articles/ASL9C5710L9CUTFK017.html

党側が事実無根だと言っていますし、私には事実関係は全くわかりません。
https://mainichi.jp/articles/20180913/k00/00m/010/171000c

ただ、このニュースが気になったのは、仮にこれが事実であったとしても驚くようなことではないかも知れないからです。
以前もこのメルマガに書いたんですが、80年代から90年代にかけて日本の政策運営は、

・民主主義で選ばれたわけではない官僚が主導している
・各省庁の権限が強いため、方針がバラバラで一貫性がない
・首相の権限が弱く、また「政府・与党二元体制」と言って内閣とは別に与党内でも政策審議を行うので、誰が責任者なのかよく分からない
・政権交代が起きないので市民による権力の監視が働かない

として批判されていました。
そして「権力の核」を明確にしなければならないということで、「官僚主導から政治主導へ」とか「内閣・官邸の機能強化」という方向で改革が進められていったわけです。

小選挙区制の導入も、直接的には、
「中選挙区制では選挙運動にカネがかかる(同じ党から同じ選挙区に複数の候補者を出し、同士討ちが発生するため)」
「小選挙区制にすれば二大政党制になり政権交代が起きやすくなる」
といったことが論点だったのですが、これもじつは権力の集中をもたらします。というのも、小選挙区制というのは「候補者 vs 候補者」ではなく「党 vs 党」の戦いになって、党中央の役割が大きくなるからです。

私は小学生の時に小選挙区制が導入されてしまったのでそれ以前の政治はよく知らないんですが、昔の自民党の政治家は、地元への利権誘導などダーティなイメージもあるものの、地域の代表者としてのプライドは強く持っていたのではないかと思います。
もちろん今もそういう立派な政治家はおられるわけですが、昔はもっと多かったのではないかと。

自民党に限ったことではありませんが、党中央への権力の集中が進めば「サラリーマン政治家」が増えるでしょう。一国一城の主としてプライドを持って政治に取り組むのではなく、党本部の方針に従うイエスマンになってしまうわけです。

私は、そもそも「権力の核をはっきりさせる」というやり方は、日本人には合わないかも知れない、と考えるべきだと思っています。
ビジネスでもそうなのですが、日本の社会というのは、ビル・ゲイツやスティーブ・ジョブズやジェフ・ベゾスやイーロン・マスクのような天才的なリーダー(善人とは限りません)を排出することがあまりありません。しかしそのかわり、「一国一城の主」レベルでは優秀な人が揃っていて、組織全体がうまく協働することで問題を解決していくというスタイルが向いているように思います。

もちろん、これはかなり安直というか平凡な日本人論であって、異論も多いと思います。
しかし、もしそうだった場合に考えなければならない重要なことがあって、それは「日本で中央集権的過ぎる組織をつくるのは危険」ということです。
せいぜい「一国一城の主」レベルでしか有能でないような人が、強大な権限を持って組織の中央に居座ったのでは、危なくて仕方ありません。そして、他にたくさんいる「一国一城の主」的人材が、中央への権限集中によってイエスマンとしてスポイルされていくのも大問題です。

権力の「核」をハッキリさせて、中央に権限を集中させるという組織の形は、その「核」を担い得る天才的リーダーを輩出する土壌があって始めて機能するのではないでしょうか。日本にその土壌がないとすれば、そうではない形でうまく回すシステムを考えるべきだということになるように思います。

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