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【京都大学山極総長インタビュー】日本の大学は今、「緊縮」と「改革」で滅びつつある

From 『表現者criterion』 編集部 

※ 本記事は、『表現者クライテリオン』2018年11月号に掲載された「京都大学山極寿一総長インタビュー記事(聞き手:藤井聡京都大学大学院教授)」の一部抜粋である。全文は下記より、本誌『表現者クライテリオン』を参照されたい。
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藤井京都大学大学院教授▼ 今回のインタビューは、言論誌『表現者クライテリオン』「ネオリベ国家ニッポン──『新自由主義』という悪魔の挽き臼」という特集の一環として、是非とも山極京都大学総長にお話をお伺いしたいということで、ご依頼申し上げたものです。お話をお聞きする前に、今回の背景からお話しさせていただきたいと思います。

 今、日本のあらゆるところに閉塞感が漂っていますが、この閉塞感の根源的な主要因のひとつが、新自由主義的な「改革」をとにかく善きものと考える現代日本の風潮にあるものと思われます。

いわば、こうした「改革」至上主義とでも言うべきものは、2000年代に展開された小泉・竹中流の構造改革がその象徴ですが、80年代のサッチャー、レーガンから今日の小池・橋下の自治体改革や、「アベノミクス第三の矢」における今日の構造政策に至るまで一直線に連なるものです。

それは、小さな政府、民営化、競争の重視と保護政策の忌避、それらのための旧体制の破壊がいずれも「善きもの」だと信じ込むイデオロギーです。

そして昨今の大学改革はまさに改革至上主義の典型例と言わざるを得ません

小さな政府論で国の歳出カットにより研究費を削減。例えばあれだけ政府でもてはやされている「iPS細胞」の京都大学の研究所ですら、そこで雇えるのはその大半が「任期付き職員」。

その結果、大学の研究員の多くがその知的エネルギーを「次のポジション獲得」のために注入することになり、純粋に研究活動に注入することが出来なくなっています。

しかも、過剰な競争原理が今、大学に導入されていますが、その結果、多くの職員が「研究費獲得」のために多大な知的エネルギーを奪われています

さらには、研究の「ビジネス化」が無根拠に善きものと見定められ、基礎研究が軽視され続けています。挙げ句に「人文系なんてホントは要らないんだよね」と嘯(うそぶく)方々が政府のど真ん中に居座って、大学改革を加速しようとしています。

これらの結果、純粋な研究に投入されるべき大学の知的リソースの「多く」ないしは「大半」が、個人のポジション獲得や資金獲得、ビジネス連携等に吸い上げられ、まともな研究が出来なくなりつつあります。それが昨今の日本の科学技術力の激しい劣化に目に見えてつながっているのは火を見るよりも明らかです。

・・・ついては・・・昨今の大学改革の流れをどのように認識されているのか、そして、それに対してどのように対峙していくべきなのか。

そういったあたりを、大学改革を理性的根拠不在のまま無理強いする風潮と「対峙」し続けてこられた国立大学協会会長、日本学術会議会長でもあられる京都大学の山極総長に、是非、お伺い致したいと考えた次第です。どうぞ、よろしくお願い致します。

<反故にされた国会の「附帯決議」。大学の民営化は「失敗」だった>

山極京都大学総長▼ ……全体の流れから言えば、1996年を境に企業が中央研究所を廃止したと同時に国家も財政危機を訴えはじめて、橋本内閣、小泉内閣あたりから「行革」がはじまり、国立大学の経営を国から切り離して民営化をするという案が浮上したのがやはり大きい。最終的には民営化は回避されましたが、法人化はされました。

重要なのは、このとき国会では衆議院でも参議院でも附帯決議があったということです。衆議院では法人化以前の運営費交付金をきちんと充当することと決議され、参議院では地方大学をしっかりと支えることとした。

しかし、文部科学省、政府はこの附帯決議の約束を守らなかったんです。

毎年、運営費交付金は1%ずつ削減されている。財務省の言い訳としては、その代わりに補助金や競争的経費を増やしたというわけだけど、それでは教員のポストは支えられないわけです。運営費交付金で人件費や物件費を賄っていたのに、この境がなくなってしまった上に、どんどん支出は増えている。

物価は上がっているし、電子機器の設置などの電子化の経費もかかる。

そこで運営費交付金が削減されてしまうと、どんどんジリ貧になっていくんですね。その結果として、教員ポストを削減していくしか手はなくなり、ますます大学は弱っていくという結果を導いてしまった。

これは本当に裏目に出たとしか言いようがない。

それゆえに、ぼくは「法人化は失敗だった」と言っているんです。

いま国大協(国立大学協会)は、法人化の時点まで運営費交付金と競争的経費の「割合」を戻せと、政府に要請しています。

もちろん、予算全体を増額してほしいという要求も出しているんだけど、今の財務省の方針に鑑みると、それほど多くは望めないだろう、と。だったら少なくとも運営費交付金と競争的経費の「比率」だけでも法人化時点の段階に戻してほしい、そうでないと「大学経営は不可能だ」と言っているわけです。

藤井▼ 安定的な研究は安定的な研究環境があっての話。競争的資金ばかり増えれば、期限付きのアルバイトの研究員しか雇えない。それでは、安定的な研究なんてできませんからね。

・・・

<「実学」のためにこそ、深い思想と基礎研究、そして幅広い教養が必要である>

藤井▼ (今、大学では研究の「ビジネス化」が無根拠に善きものと見定められ、基礎研究が蔑ろにされつつありますが)本来的に言いますと、「実学」を本当に先鋭化しようとすれば、深い思想や基礎的な研究が必要になります。

とりわけ新しい時代に対応するには、そうした深い思想や基礎研究がどうしても必要になる。

だから専門学校的に目先のマニュアル化を進めてしまうと、応用が全く効かなくなってくる

つまり表面的に「実学」を進めれば進めるほど、「役立たず」になるわけですね。

そんな愚かな議論の代表として、最近よく政府でも取り沙汰されるのが、「G型大学」と「L型大学」という考え方です。

これは、経営共創基盤CEOの冨山和彦氏が主張したものですが、今の産業界における大学に対する認識の典型的な考え方です。

大学にはローカルな大学(L型大学)とグローバルな大学(G型大学)の二種類あって、東大や京大をはじめとするグローバルな大学は今のままでもいいとする一方で、L型大学においては、文学部では文学ではなく実学に適用できる英語、地元の歴史、説明能力の教育が必要で、経済経営学部では戦略論ではなく簿記や会計ソフトを使う教育が必要、法学部では憲法や刑法ではなく道路交通法や大型二種免許取得、工学部では力学ではなく工作機械の使い方を教えた方がいいんじゃないか、というような話です。

近年はこういう意見がかなり幅を利かせていて、政府内でもこういう声はかなり強い。要するに、G型大学は従来のままで、L型大学は職業訓練学校のような格好にすべしという主張です。こういう発想はいかがなものでしょう?

山極▼ ぼくは、それは間違いだと思いますよ。もちろん、L型大学が不必要だとは言わない。でも、それは専門学校であって、大学ではないですよね。

・・・・地方大学が、「L型大学」の発想で「専門教育だけでいい」となれば、そういう学生が「地方大学」にも入ってくるわけです。そして広い教養を身に付けない人間が大学を卒業してしまうことになる。

地方大学を出て社会に入った人たちは、いろいろな分野で社会をリードしていく人物になっていくわけでしょう。

そういう人たちが非常に偏った知識しか持っていないというのでは、日本という国をちゃんと支えられないという危うい未来になりかねないと考えています。

だから本来は高校教育で身に付けなければいけない教養が偏ってしまうとすれば、大学で、改めて幅広い教養を身に付けさせないといけない。そうした発想で、大学では、教養教育の復活が叫ばれている。

<国立大学における「GとL」や「三つの枠組み」は、単なる「罠」である>

藤井▼ 政府では「G」と「L」の分類はかなり人気があるんですが、これはいわゆる、文科省が定めた2016年の国立大学における「三つの枠組み」の仕組みの基礎理論になっているように思いますが──。

(*三つの枠組み:国立大学を以下の三つのタイプの大学に分類する。(1) 地域に貢献する取組み、(2) 強み・特色のある分野で教育研究を推進する取組み、(3) 卓越した成果を創出している海外大学と伍した取組み。この(1)がいわゆる「L型大学」であり、(3)が「G型大学」。(2)はその中間、と解釈しうるもの。無論この類型は、各大学の「改革」を進めるための仕組みとして活用されるもので、この枠組みに従って大学評価と資金の再分配が行われる。)

山極▼ ぼくは、言うなればあれは「詐欺」だと言えるのではないかと思う

ぼくはあの頃、京大総長として国大協にいたんですけど、最初の文科省の説明では「ほんのわずかのお金の話ですよ」ということだった。

八六の国立大学が持っている「教育、研究、社会貢献」という三つのミッションは一切変わることなく、それぞれの大学はこれまでのやり方通りでよく、ただ、大学強化経費として0.8%から1.6%ほど「オーバーヘッド」して、それを補助金あるいはプロジェクト経費としてお返しします、という説明だった。

つまり、単なる色付けというか、調味料ぐらいの話だという説明だったわけですが、それがどんどん変わっていって、「三つの枠組み」が大学の主要なミッションのようにとらえられるようになった。

今年までは運営費交付金の0.8%から1.6%が再配分されていたわけだけど、突然これまでの期間の強化経費がいっしょくたに再配分の対象になり、これまでは年100億円だったものが、来年から4年分の400億円が対象になってきた。

これは、文科省の最初の説明とは全く異なる展開で、「話が違う」としか言い様がない・・・。

続きは、『表現者クライテリオン 11月号』をご覧ください。全文は17,000字を超える長編。詳しくは下記HPをご参照ください。
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