【川端祐一郎】「GAFA」は社会の敵か味方か

川端 祐一郎

川端 祐一郎 (京都大学大学院准教授)

昨年末、「流行語大賞2018」の候補に「GAFA(ガーファ)」がノミネートされていました。大して流行はしていないと思いますので違和感があるのですが、現代のビジネスを語る上でよく知っておくべき対象であることは確かです。GAFAというのはグーグル、アマゾン、フェイスブック、アップルの頭文字を取ったもので、要するに今のIT業界を牛耳っている巨大企業を指す用語です。ただし後述するように、本当はすでにIT企業という枠には収まらなくなっているのではありますが。

先日、スコット・ギャロウェイというアメリカのビジネススクールの教授が書いた『the four GAFA 四騎士が創り変えた世界』という本を読みました。あまり面白い本というわけではないのですが、これら巨大企業と社会の関係を考える上で興味深い話がいくつも書かれていました。

アマゾンは周知のとおり小売分野で圧倒的な一人勝ちを続けていて、たとえばアメリカでは全世帯の52%(つまり過半数)がアマゾン・プライムに加入しているそうです。富裕層に限ればこれが70%に上り、固定電話の契約数よりも多い。時価総額は4000億ドル超で、小売業2位のウォルマート(2000億ドル強)以下主要8社を合計してもアマゾン一社に並びません。

アップルはかつて革新的な製品で知られる企業でしたが、今ではテクノロジーもイノベーションもあまり必要とせずに莫大なおカネを集める仕組みを作り上げてしまいました。スマホ市場において、台数ベースではiPhoneのシェアは15%程度しかない(ただし日本は例外的にiPhoneのシェアが高い)にもかかわらず、スマホ業界の利益の8割をアップル一社が稼いでいます。ギャロウェイ教授によると、アップルはいわば家電製品を高級ブランドにすることに成功した唯一の企業で、低コストで生産したデバイスを法外な価格で売りつける商法はあまりにも上手くできていて、恐らくGAFAの中で最も長生きするだろうとのこと。

フェイスブックは20億人近いユーザを抱えており、普及という点では人類史上最も成功したサービスの一つです。一方グーグルでも1日あたり20億人のユーザが35億回の検索を行っており、そのすべての情報が蓄積・解析されて人間の「関心」に関する唯一無二の規模のデータベースが構築されています。この2社に共通するのは、かきあつめた大量のデータを元に企業のマーケティングを支援することで得られる「広告料」が収益の柱になっている点です。

恐ろしいことに、アメリカのデジタル広告(インターネット広告)市場ではフェイスブックとグーグルの2社がそれぞれ年率数十%のペースで成長しているのに対し、その他のデジタル広告媒体は全体としてマイナス成長になっているようです。つまり、新聞やテレビが広告メディアとして斜陽化したばかりか、この2社を除けばデジタル広告市場にもすでにチャンスがなくなっているというわけです。

またITの世界というと弱肉強食で入れ替わりが激しいイメージがあって、GAFAのような企業でも覇権の上にあぐらをかいていられるわけではないと思いがちですが、これらの企業は巨大な資本力を背景にITの外、つまり物理的なインフラへの巨額投資を行うことで、新興企業がどうがんばっても陥落できないような砦を築いている。

たとえばアマゾンは高度に自動化された倉庫を多数保有するのみならず、トラック輸送や海上輸送にも進出していて、巨大な飛行船を空中倉庫にするというような計画まで打ち出している。アップルの強みは、製品の高級ブランド化を可能にしている「アップルストア」という店舗網です。グーグルは、巨大なデータセンターを保有しているのはもちろん、自動車を走らせてグーグルストリートビューの画像を直に収集しているし、最近は巨大な飛行船を使ってブロードバンド網を提供するというような計画も持っているらしい。フェイスブックはマイクロソフトと提携して、大西洋に通信用の大容量海底ケーブルを敷設しています。

ギャロウェイ教授が、「アマゾンは世界最大の酸素ボンベを付けて水中に潜ろうとしている」とたとえているのですが、要するに巨大な資本、巨大なインフラ、巨大な市場シェアを抱えたアマゾンがサービスレベルを引き上げたり価格を下げたりするのに他社が付いて行こうとしても、溺れ死ぬのが目に見えていて手も足も出ないわけです。グーグルも広告市場の支配力を背景に、価格を引き上げるのではなくむしろ引き下げることで、ライバルを溺れ死にさせる戦略を採っているとされます。

ギャロウェイ教授の議論が特徴的なのは、ビジネススクールの教授にしてはめずらしく、GAFAの企業体質に対してかなり批判的なところでしょうか。GAFAはたしかに圧倒的に優れたサービスを提供してはいるのですが、その一方で、反社会的な側面をもあわせ持っているからです。

よく知られたところでは、これらの企業は各国の税制の隙間を縫って、法人税の徴収を上手く免れています。訴訟覚悟で知的財産を盗用したり、助成金を不正に獲得したりすることも厭わない。独占禁止法や労働規制の適用を逃れるためのロビー活動にも余念がない。アップルは、銃乱射事件の犯人が持っていたiPhoneのロックを解除せよというFBIの要請や裁判所の命令を無視している。

他にも、フェイスブックの持つデータがユーザの明確な同意を得ずにイギリス企業経由で政治利用されていた事件は昨年大きな話題になりました。フェイスブックのみならずグーグルも、ユーザのプライバシー保護に関してはかなり際どい方針を採っていて、我々が日々提供している豊富な個人データがいつのまにかビジネス利用されているわけです。

フェイスブックやグーグルはすでに世界最大規模のニュースメディアになっている(アメリカだと国民の44%がフェイスブックでニュースを閲覧している)わけですが、彼らは自らを「メディア企業」と位置づけられることを頑なに拒否している。何故かというと、「公正」「中立」といった厄介な社会的責任を背負うことで収益機会を逃したくはないからです。フェイクニュース排除のそぶりを見せることもありますが、ホンネでは、嘘だろうが何だろうがカネを生む情報は削除したくないのです。

しかもそういう反社会性を持ったGAFAが他の多くの「普通の企業」を駆逐しつつあって、雇用の大規模な破壊をももたらしている。「おそらく私たちの社会は、中産階級を維持する方法を見つけなければならないという重荷を背負うことをやめてしまったのだ」とギャロウェイ教授は嘆いています。

ただ問題は、文句を言っても状況がなかなか大きくは変わらないだろうというところです。法律に違反している行為は取り締まるべきだと思いますが、GAFAが恐ろしいのは、圧倒的な市場支配力がありながらサービスも驚くべき速さで向上していて、しかも価格は上がらないかむしろ低下するので、消費者の支持が絶大だということです。GAFAは極めて強欲な企業である一方で、あまりにも多くの便益を利用者にもたらすので、社会の敵なのか味方なのかハッキリしないという困った存在なのです。

雇用という点ではアマゾンは明らかに破壊者ですが、2016年には全米でもっとも信頼のおける企業になったそうです。またたとえば、アップルが刑事事件の捜査への協力を拒否していることをギャロウェイ教授が批判すると、アップル信者から大量のヘイトメールが届くらしい……。

心配が過ぎるかも知れませんが、私が懸念してしまうのは、いずれ国家もGAFAのような巨大企業に依存せざるを得なくなるという未来です。そのうち、災害支援物資の配分にはアマゾンの物流網が必要で、選挙にはグーグルの情報インフラが必要で、学校の授業を受けるにはフェイスブックのアカウントとアップルの端末が必要になったりするかも知れません。彼らの技術力と資本力は圧倒的で、国家ですら彼らのものより便利なインフラを作り出すのは難しいからです。

国家が公共サービスを提供する上で民間企業の力を借りるのは普通のことですが、GAFAの支配力の異様な強さ、(日本からみた場合は)外国企業である点、そして上述したような反社会的側面を考えると、安心して身を委ねてよい相手だとは思えません。しかし伝統的な「独占」「寡占」とは違って、サービスは急速に進化し価格が下がっていくので、多くの場合、社会は彼らを支持してしまうでしょう。私自信も、少数の企業に市場が牛耳られている状況は健全ではないと思うのですが、そうは言っても便利なので、アップルのパソコンやスマホを使ってアマゾンで買い物をしています。

だからどうすべきなのかというのは難しいのですが、我々の社会がまた一つコントロールし難いものを抱え込みつつあるのだという意識は持ち続けたほうが良いだろうと思います。

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