表現者クライテリオン定期購読お申し込み10%OFF 送料無料

【川端祐一郎】「暴挙の由来」を考えることの意義

川端 祐一郎(京都大学大学院准教授)

 小林よしのり氏の「ゴー宣ネット道場」ブログで、トッキー氏から厳しいご批判を頂戴しているので、簡単にコメントしておきたいと思います。
https://www.gosen-dojo.com/blog/36416/

> 国際法は、国際社会の秩序を守るために、「侵略はいけない」「民間人虐殺はいけない」など、このくらいは守りましょうと多国間で合意の出来た「道徳」を国連憲章や条約などの形にしたものです。
> それは、二度の世界大戦を含む歴史の積み重ねの上に成り立っているのです。
> つまり、国際法そのものが、「人間の歴史や道徳全体を踏まえた上で」成り立っているのです!!!

 だいたい同じ認識なので、特に反論すべきことがありません。代理戦争のようなケースでは「国際法上禁じられていないが道徳的には非難されるべき大国の行動」があったり、第二次大戦の戦勝国の特権的地位が固定化されていることにも問題があったりはしますが、いかに不完全ではあるにしても現代の国際法秩序は人類史の進歩の賜物であると思っています。

 私が言いたかったのは、侵略や民間人虐殺がルール違反だというのはあまりに自明で簡単に判断できることであって、それよりも例えば、「なぜロシアはこのような暴挙に出たのか」「そんなロシアとどう付き合えばよいのか」といった議論をした方がよいということです。一口に侵略と言っても、どのような歴史的文脈で、どのような動機に基づいて行われたかによって、道徳的評価は変わるわけで、「◯◯条約や△△憲章に違反したから悪である」「なぜなら国際法には人類の歴史の叡智が詰まっているから」と言って済ますのでは、人間や国家というものへの理解は進みません。

 こう言うと、「ははーん、侵略の背景事情の議論に持ち込むことでロシアの罪を相対化しようとしているのだな」と思われそうですが、少なくとも私にはそういう意図はありません。「ウクライナとロシアの歴史的一体性」に関するプーチンの言い分は、部分的には理解できるものの総じてご都合主義的ですし、アメリカの支援でウクライナの離反が進むのが気に入らないからといって、いきなり大軍を送り込んで殺戮を繰り広げる蛮行が許されるわけはありません。

 ちなみに、私自身はウクライナの戦争について、「アメリカやNATOの責任」を重く見ようとも思いません。アメリカの責任は大事な論点だと思いますが、「アメリカが悪い」という認識フレームの持つ引力が強すぎて、ウクライナやロシアの主体性が見えにくくなるきらいがあると感じるからです。弊誌の関係者はアメリカの責任を重視する方が多いのですが、個人的にはむしろ、「帝国と文明の断層に位置し数々の悲劇を味わってきたウクライナ人の歴史」や、「力を崇拝し暴挙に及びがちなロシアの政治風土」といった文脈でこの戦争を論じることに関心を持っています。

 ただ、関心はあっても恥ずかしながら知識がありません。そこで『表現者クライテリオン』9月号では、ロシア文学者の亀山郁夫氏にインタビューを行いました。その趣旨は以下の記事で簡単に述べてあります。

【川端祐一郎】ロシアの「秩序観」を想像する──亀山郁夫氏特別インタビュー
https://the-criterion.jp/mail-magazine/m20220817/

 先ほど、プーチンの蛮行が許されるわけはないといいましたが、同時に、プーチン的なものを地上から排除し切ることもできないでしょう。梅棹忠夫が「第二地域」と呼んだユーラシア中央部は穏健な秩序の形成が難しい地域構造を持っていて、「西側」の綺麗事はなかなか通用しないし、そもそも西側の大国にもプーチン的な「帝国」の原理は多かれ少なかれ含まれるのが現実だからです。日本の外交もその認識を前提に組み立てられる必要があり、今回のインタビュー記事における考察がそうした議論の素材になれば幸いです。

 恐らくこのインタビュー記事も、ロシアの立場を想像する試みなので、「ロシアに甘い」と言われる部分があるでしょう。しかしご理解いただきたいのは、プーチンの侵略を肯定する意図などなく、むしろロシアの歴史につきまとう「狂気じみたもの」の由来を考えることに重きを置いた議論だということです。なお、「プーチンを許すな!」などと雑誌で連呼してもつまらないので、誌面にはあまり表れていませんが、亀山氏がプーチンの行動に対する憤りを繰り返し述べておられたことを付言しておきます。

 また、歴史的にはガリツィアを中心に育まれてきたとされるウクライナの民族主義を危険視する発言が、もしかすると不快感を与えるかも知れません。私はウクライナの事情についてよく知らないので、報道や文献から想像するしかありませんが、その限りでいえばウクライナのナショナル・アイデンティティにも政治体制にも、日本のような国と比べて大いに不安定なところがあり、朝日新聞風に言えば「偏狭なナショナリズム」の問題も小さくないように思えます。

 ただそれも、ポーランドやロシアの抑圧に耐えてきたウクライナ人の歴史を思えば、非難に値することだとは思えませんし、国づくりの過程ではポピュリズムや排外主義もある程度許容せざるを得ない面があります。上述のインタビューはあくまで「ロシア」に焦点を当てたものなので、この辺りは深堀りできていないところで、小林よしのり先生が「ウクライナ論」をまとめておられる最中と聞きましたので、それを拝読して勉強したいと思います。特に気になっているのは、ウクライナは主権国家であり独自の民族的自覚をも持ちつつある一方で、性急にロシアとの文化的・政治的関係を断ち切ろうとすれば混乱が生じるというジレンマを、どう乗り越えていくのかといった点です。

> フルチンでカッコつけているようなものです。
> おまえら、自分の姿をよく見てみろ!
> パンツ履いてないぞ!!

 その動画ではパンツは履いていたのですが、読者から「寝癖がある」「太った」という指摘を受けたので、改善したいと思います。

執筆者 : 

TAG : 

CATEGORY : 

コメントを残す

メールアドレスが公開されることはありません。

メールマガジンに登録する(無料)