今回は『表現者クライテリオン』バックナンバーの2019年7月号から、こちらを二編に分けて公開します。
白川俊介先生の連載「ナショナリズム再考」(第一回目)、
連載タイトル:望ましい政治社会のヴィジョンを構想するために
『表現者クライテリオン』では、毎号、様々な連載を掲載しています。
ご興味ありましたら、ぜひ最新号の2021年11月号とあわせて、本誌を手に取ってみてください。
以下内容です。
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二〇一九年五月一日から、平成にかわって令和という新たな時代がスタートした。
私は昭和五十八年生まれであり、平成という時代に、記憶のあるなかでのほとんどの人生を過ごしてきた。ただし、平成という時代がよい時代であったかどうかは、私には正直よくわからない。
思い返せば、当時中学生であった私にとって衝撃的だったのは、平成七年に起きた阪神淡路大震災と地下鉄サリン事件であった。
また、平成九年に起きた神戸連続児童殺傷事件には、「酒鬼薔薇聖斗」が自分と同い年であることも相まって、震撼を覚えた。
大学に進学した平成十三年には、米国で同時多発テロ事件が発生し、これ以降わが国も「テロとの戦い」に巻き込まれていくことになった。
経済の点からしても、平成は「バブル」の後遺症に悩まされた時代であり、いわゆる「ロスジェネ世代」にあたる私が就職活動を行ったのは、「失われた一〇年」とか「失われた二〇年」とか言われた時代であった。
それでも多少なりとも回復基調にあった経済の基盤は、平成十九年以降のいわゆる「世界金融危機」によってへし折られた。
さらに、わが国は未曽有の大災害である東日本大震災にも見舞われた。震災から八年あまりが経過したが、復興はまだまだ道半ばである。無論、東日本大震災以外にも、わが国のあちらこちらで地震や水害などによって毎年甚大な被害が生じている。
これらのことがあいまって、現政権が吹聴するほどに人々の暮らし向きがよくなっているとは必ずしも感じられず、今や「失われた三〇年」とさえしばしば呼ばれるのである。
平成の時代そのものが「失われた」時代であったとはあまり思いたくはないが、今はただ、令和の御代がわが国の今後の発展において大きな実りを与えてくれる時代とならんことを願わずにはいられない。
新たな時代を迎え、改めて我々は、わが国のありうべき政治社会の構想について考えるべきであろう。
当然ながら、いかなる構想が望ましいかは、多様なヴィジョンを議論の俎上にあげ、それぞれを吟味していくなかで陶冶し、鍛え上げていく必要があろう。
そして、それは政治哲学の役割であるように思われる。私の理解では、政治哲学の役割とは、規範的な観点から望ましいと思われる政治社会のヴィジョンを提示することにある。
わが国は戦後の発展のなかにおいて、望ましい政治社会のヴィジョンを練り上げることをしばしば怠ってきたように思われる。
戦前のわが国は、善かれ悪しかれ、その当時において望ましいと思われる政治社会の構想を様々に有していた。少なくともそのような構想力をわが国は有していたように思われる。
しかしながら、戦後のわが国は、戦前の反省あるいは反動からか、かかる構想力を発揮することを過度に自重し、余計なことはせずにひたすら経済的な繁栄だけを追求してきたといってよいのではなかろうか。
実のところ、望ましい政治社会の構想を提示するには、そもそも自分たちの住まう社会がどのような社会であるのか、という解釈が欠かせない。それがなければ、自分たちにとって望ましい政治社会について構想できるはずがないからである。
ある意味で、戦後のわが国は幸か不幸か「この国のかたち」について考えなくてもよかったのかもしれない。
別言すれば、戦後の「この国のかたち」の基盤を経済に求めた結果、「ジャパン・アズ・ナンバーワン」と称えられた頃まではよかったのかもしれないが、バブル崩壊以後、経済は低迷し、もはや「失われた三〇年」と呼ばれるまでに至ったわが国は、ある種のアイデンティティ・クライシスに見舞われて戸惑っている、といったところではなかろうか。
こうした点に鑑み、本連載で私が試みたいのは、先にも述べたように、望ましい政治社会の構想のありかたは多様であると思うが、しかしながら少なくとも、「ナショナリティ」というものを正面から引き受けることなしに、そうした望ましい政治社会のヴィジョンを構想することはできないのではないか、ということを私なりの観点から論じることである。
この点について、さしあたりまずは、昨今メディアを席巻している「ポピュリズム」に関する議論についての私見を述べるところから論を進めて行きたい…(続く)
(『表現者クライテリオン』2019年7月号より)
続きは近日公開の第二編で!または、『表現者クライテリオン』2019年7月号にて。
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